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第五章 戦場へ
第49話
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*
亜吾は口をぽかんと開けていた。
(どういうことだ、これは――)
開戦の奏上を読み上げ、皇太后からの命を伝えた。今すぐ城をあけ渡すように、と。それに「否」と楽芙側が答えたまでは想定内だった。
太鼓の音が鳴り響き、楽器隊たちが騒がしい音楽を奏で始める。檄を持った兵士たちは、それを地面に打ち付けた。けたたましい音とそれに合わせて振られる旗の数々。それを見て、降伏するのも時間の問題と思っていた矢先。
――なぜ、こんなに兵がいるのか、亜吾には理解できなかった。
城門が開け放たれたかと思うと、中から兵たちが続々と流れ出て隊列を組み始めていく。
それぞれが武器を手に持ち、無駄のない動きで並んでいく。その数は瞬きするほど倍に増えていった。
(これではまるで、城郭の中に兵士が詰め込まれていたかのような……!)
溢れてくる兵たちは止まることを知らないようだ。
初めのうちは武装した市民たちかと思っていた皇太后軍は、彼らの統率の取れた動きや、立派に鍛え上げた体躯を見ているうちに気付いた。
これは、相当な訓練をしてきた、鍛え抜かれた兵士たちだと。
彼らがあっという間に城壁前に広がっていき、どんどん数を増やしていく。その光景に、皇太后軍の兵たちに動揺が走っていた。
気付けば、十歩の退却を余儀なくされていた。
上を見ろ、と言われて視線を城壁に向けると、いつの間に現れたのか、大量の弓兵が城壁の上にいる。紐が垂らされて、どんどん兵たちが下りてきてじわりじわりと城壁前の軍兵の数が増えていく。
見る見るうちに、亜吾が指揮する数よりも多くの屈強な兵たちが現れた――そう、それはまさしく、突然現れたのだ。
特攻となる兵だけではなく、歩兵の一人ひとりまでが甲冑をつけている。大きな身体に無駄も隙もない洗練された動き。
見ているだけで、すでに圧倒されていた。そしてそれは、戦場において負けを意味する。
「亜吾様、いかがなされますか?」
恐怖に駆られたのか、持ち場を離れて将の一人が近づいてきた。
「すぐに自分の持ち場へ戻――」
ひゅん、という風を切る音が聞こえたかと思うと、目の前で小隊長が落馬した。なにが起こったかわからなかった。瞬きしたのち、彼の腕に深々と黒塗りの矢が刺さっているのが見えた。
「莫迦な、この距離を……!?」
さらにひゅん、と音がする。左翼にいた副隊長が地面に落ちた。
(殺される――っ!)
肌が泡立つような恐怖が込み上げてくる。
ぶるぶると腿の内側が震え、馬にもそれが伝わって暴れはじめてしまった。
怖い。ただただ、怖い。たった一本の矢で、これほどの恐怖を与えられるとは。
それでも亜吾は正面を見た。
城壁に立ち、大きな弓を構えている青年の姿を視界に映した瞬間、左手が吹っ飛ばされていた。痛みはなく、焼けるような熱さだけが刻まれた。
亜吾は口をぽかんと開けていた。
(どういうことだ、これは――)
開戦の奏上を読み上げ、皇太后からの命を伝えた。今すぐ城をあけ渡すように、と。それに「否」と楽芙側が答えたまでは想定内だった。
太鼓の音が鳴り響き、楽器隊たちが騒がしい音楽を奏で始める。檄を持った兵士たちは、それを地面に打ち付けた。けたたましい音とそれに合わせて振られる旗の数々。それを見て、降伏するのも時間の問題と思っていた矢先。
――なぜ、こんなに兵がいるのか、亜吾には理解できなかった。
城門が開け放たれたかと思うと、中から兵たちが続々と流れ出て隊列を組み始めていく。
それぞれが武器を手に持ち、無駄のない動きで並んでいく。その数は瞬きするほど倍に増えていった。
(これではまるで、城郭の中に兵士が詰め込まれていたかのような……!)
溢れてくる兵たちは止まることを知らないようだ。
初めのうちは武装した市民たちかと思っていた皇太后軍は、彼らの統率の取れた動きや、立派に鍛え上げた体躯を見ているうちに気付いた。
これは、相当な訓練をしてきた、鍛え抜かれた兵士たちだと。
彼らがあっという間に城壁前に広がっていき、どんどん数を増やしていく。その光景に、皇太后軍の兵たちに動揺が走っていた。
気付けば、十歩の退却を余儀なくされていた。
上を見ろ、と言われて視線を城壁に向けると、いつの間に現れたのか、大量の弓兵が城壁の上にいる。紐が垂らされて、どんどん兵たちが下りてきてじわりじわりと城壁前の軍兵の数が増えていく。
見る見るうちに、亜吾が指揮する数よりも多くの屈強な兵たちが現れた――そう、それはまさしく、突然現れたのだ。
特攻となる兵だけではなく、歩兵の一人ひとりまでが甲冑をつけている。大きな身体に無駄も隙もない洗練された動き。
見ているだけで、すでに圧倒されていた。そしてそれは、戦場において負けを意味する。
「亜吾様、いかがなされますか?」
恐怖に駆られたのか、持ち場を離れて将の一人が近づいてきた。
「すぐに自分の持ち場へ戻――」
ひゅん、という風を切る音が聞こえたかと思うと、目の前で小隊長が落馬した。なにが起こったかわからなかった。瞬きしたのち、彼の腕に深々と黒塗りの矢が刺さっているのが見えた。
「莫迦な、この距離を……!?」
さらにひゅん、と音がする。左翼にいた副隊長が地面に落ちた。
(殺される――っ!)
肌が泡立つような恐怖が込み上げてくる。
ぶるぶると腿の内側が震え、馬にもそれが伝わって暴れはじめてしまった。
怖い。ただただ、怖い。たった一本の矢で、これほどの恐怖を与えられるとは。
それでも亜吾は正面を見た。
城壁に立ち、大きな弓を構えている青年の姿を視界に映した瞬間、左手が吹っ飛ばされていた。痛みはなく、焼けるような熱さだけが刻まれた。
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