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第二章
第17話
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「あった。ありましたよ、ゴンタ君の資料が」
死神が息を大きく吐きながら、資料に目を通す。そして、おや、というように首をかしげたその時。
「ああ、いた!」
騒がしい声と共に現れたのは、アロハシャツの死神だった。千歳が思わず顔をしかめると、アロハシャツの死神も「げ!?」という顔をした。
「なんだ、あんた達もこっちにいたのかよ。それよりも、困るよ、勝手にいなくなられたら。まだ手続き済んでないのに」
「あら、あなたは先ほどの?」
女性はアロハシャツの死神を見て、驚いた顔をした。
「そうそう、俺は死神でっていう話をして書類作るから待ってって言ったのに、ちょっと目を離したらいなくなっちゃうんだもん」
「あなたが死神さんだとは思わなかったの。ごめんなさいね。ところで、ゴンタ知りません?」
アロハシャツの死神は、はあ、と溜息をついて頭をぽりぽりと掻いた。
「ゴンタはもう二十年以上も前に死んでるよ。あんたが看取ったじゃないか」
「え……?」
女性と千歳が同時に驚いた。
「アロハ死神、それってどういうこと?」
「なんだその、アロハ死神って? まあいいか。そのままの意味だよ。ゴンタは二十三年前に死んでいる。老衰でね」
「待って。だけどさっき、私が車に轢かれた時、ゴンタがいたんです! 私の方に向かって吠えたんですよ。だから、追いかけてきたんです」
その時。
――ワンワン!
車内から急に、犬の鳴き声が聞こえてきた。
「ゴンタ! ゴンタの鳴き声。一体どこに……?」
――ワンワン!
電車が次の停車駅に向けてブレーキをかけ始めた。ホームが見えてくると、そこに黒い中型犬が尻尾を振りながら座っているのが見える。
「ゴンタ!」
そして、女性を見つけると電車に合わせて走り出す。わんわん、と元気な鳴き声が聞こえてきて、電車が停車するとともに、女性が駆け出していく。
「おいおい、俺を置いて行くなよ!」
アロハシャツの死神も慌てて追いかけて下車をする。千歳は電車の窓を開けて二人を見た。
女性は、ゴンタを抱きしめる。ゴンタは尻尾が飛んでいきそうなくらいに振りながら女性の顔をぺろぺろと舐めていた。二人とも、幸せそうな顔をしている。
すると、駅のホームに白いもやがかかったかと思うと、突然景色が一変して大きな扉が現れた。
「なに、あれ……!?」
その巨大な門は、人の背丈の十倍は超えるかと思う大きさだった。
「天国の門ですよ。ゴンタ君が、ずっと彼女を待っていた場所です」
「え? 待っているって?」
「飼われていたペットたちは、主人が亡くなるのを、ああやって門前で待っています。亡くなったときに、一番に迎えに来てくれるんです。それまでずっと、あそこで待っています」
再会した二人を包み込むように、白いもやがかかり始めて、天国の門が開き始める。それを見ると、アロハシャツの死神がこちらに向かって手を振った。それに、死神がぺこりとお辞儀をする。女性も大きく手を振っており、千歳も手を振りかえした。
電車が発車のベルを鳴らすと、その光景が消えて、一瞬にして駅のホームへと戻る。電車の扉が閉まって、何事もなく走り始めた。
「……彼女が亡くなった瞬間、待ちきれなくて迎えに行ったんでしょう。そして、近道を教えて、天国へと導いたんです。大事にされていたんですね」
千歳は死んで二十年ぶりに再会した二人の姿を目に焼き付けた。天国の門前で、先に亡くなった家族が待ってくれている。死ぬと悲しいことばかりかと思いきや、また家族と再会できるのかと思うと、千歳は胸が熱くなった。
(じいちゃんやばあちゃんたちに、顔向けできる人生がいいな)
千歳は深く息を吸いこんで、女性とゴンタの姿を瞼の裏に刻み付けるかのように、目をぎゅっと閉じた。
死神が息を大きく吐きながら、資料に目を通す。そして、おや、というように首をかしげたその時。
「ああ、いた!」
騒がしい声と共に現れたのは、アロハシャツの死神だった。千歳が思わず顔をしかめると、アロハシャツの死神も「げ!?」という顔をした。
「なんだ、あんた達もこっちにいたのかよ。それよりも、困るよ、勝手にいなくなられたら。まだ手続き済んでないのに」
「あら、あなたは先ほどの?」
女性はアロハシャツの死神を見て、驚いた顔をした。
「そうそう、俺は死神でっていう話をして書類作るから待ってって言ったのに、ちょっと目を離したらいなくなっちゃうんだもん」
「あなたが死神さんだとは思わなかったの。ごめんなさいね。ところで、ゴンタ知りません?」
アロハシャツの死神は、はあ、と溜息をついて頭をぽりぽりと掻いた。
「ゴンタはもう二十年以上も前に死んでるよ。あんたが看取ったじゃないか」
「え……?」
女性と千歳が同時に驚いた。
「アロハ死神、それってどういうこと?」
「なんだその、アロハ死神って? まあいいか。そのままの意味だよ。ゴンタは二十三年前に死んでいる。老衰でね」
「待って。だけどさっき、私が車に轢かれた時、ゴンタがいたんです! 私の方に向かって吠えたんですよ。だから、追いかけてきたんです」
その時。
――ワンワン!
車内から急に、犬の鳴き声が聞こえてきた。
「ゴンタ! ゴンタの鳴き声。一体どこに……?」
――ワンワン!
電車が次の停車駅に向けてブレーキをかけ始めた。ホームが見えてくると、そこに黒い中型犬が尻尾を振りながら座っているのが見える。
「ゴンタ!」
そして、女性を見つけると電車に合わせて走り出す。わんわん、と元気な鳴き声が聞こえてきて、電車が停車するとともに、女性が駆け出していく。
「おいおい、俺を置いて行くなよ!」
アロハシャツの死神も慌てて追いかけて下車をする。千歳は電車の窓を開けて二人を見た。
女性は、ゴンタを抱きしめる。ゴンタは尻尾が飛んでいきそうなくらいに振りながら女性の顔をぺろぺろと舐めていた。二人とも、幸せそうな顔をしている。
すると、駅のホームに白いもやがかかったかと思うと、突然景色が一変して大きな扉が現れた。
「なに、あれ……!?」
その巨大な門は、人の背丈の十倍は超えるかと思う大きさだった。
「天国の門ですよ。ゴンタ君が、ずっと彼女を待っていた場所です」
「え? 待っているって?」
「飼われていたペットたちは、主人が亡くなるのを、ああやって門前で待っています。亡くなったときに、一番に迎えに来てくれるんです。それまでずっと、あそこで待っています」
再会した二人を包み込むように、白いもやがかかり始めて、天国の門が開き始める。それを見ると、アロハシャツの死神がこちらに向かって手を振った。それに、死神がぺこりとお辞儀をする。女性も大きく手を振っており、千歳も手を振りかえした。
電車が発車のベルを鳴らすと、その光景が消えて、一瞬にして駅のホームへと戻る。電車の扉が閉まって、何事もなく走り始めた。
「……彼女が亡くなった瞬間、待ちきれなくて迎えに行ったんでしょう。そして、近道を教えて、天国へと導いたんです。大事にされていたんですね」
千歳は死んで二十年ぶりに再会した二人の姿を目に焼き付けた。天国の門前で、先に亡くなった家族が待ってくれている。死ぬと悲しいことばかりかと思いきや、また家族と再会できるのかと思うと、千歳は胸が熱くなった。
(じいちゃんやばあちゃんたちに、顔向けできる人生がいいな)
千歳は深く息を吸いこんで、女性とゴンタの姿を瞼の裏に刻み付けるかのように、目をぎゅっと閉じた。
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