6 / 17
第1章 帰ってきた彼
第3話
しおりを挟む
歓送迎会の幹事は誰だと部長がフロアに声を投げかけたのは、お昼休みになる五分前のこと。集中していたためその声に気が付かず、後ろから美奈子が声を張り上げた。
「大冨さんでーす!」
部長が杏子を手招きしてくる。
「水曜日が早帰りの日だし、その日で調整してくれ。場所は任せるけど、主役二人に意見を聞いてからにしてもらってもいい?」
「わかりました」
「じゃあ二人のリクエスト聞いてきて」
「え!? 私が!?」
「幹事だろう」
「はあ、ですよね……」
気乗りしないまま仮デスクにいる二人の元へ向かう。一人は四十代のいかにも仕事ができるといった感じの男性だ。話しかけると「なんでもいいよ、お任せする」と優しい笑顔だ。
もう一人にも訊ねようとしたところで昼食を告げるベルが鳴る。
また後で聞けばいいかとその場を離れようとした杏子に、悪魔のようなスマイルが投げかけられた。
「小暮さんと違って俺好き嫌い多いから……周辺のお店一緒に調べるの手伝います。会議室B空いてるんで、そこで今から打ち合わせしましょう。ね?」
昼休みを潰す気なのがまるわかりだが、うまく断る台詞が思い浮かばず杏子は黙ってしまう。すると、隣で聞いていた小暮がくすくす笑った。
「こいつほんとに好き嫌い多いから、一緒にお店決めたほうがいいよ。あとで文句言われたら大冨さんも嫌だろうし」
助けを求めようとする暇もなく、杏子の肩に手が置かれた。耳元に顔が近づいてくる。
「逃げんなよ、あんこ」
先ほどとは打って変わった口調に、杏子の背筋は凍った。恐る恐る振り返れば、獲物を見つけたと言わんばかりの瞳と目が合った。
(最悪……)
杏子はこの悪魔から逃げるすべを、今もまだ知らないままだ。
「大冨さんでーす!」
部長が杏子を手招きしてくる。
「水曜日が早帰りの日だし、その日で調整してくれ。場所は任せるけど、主役二人に意見を聞いてからにしてもらってもいい?」
「わかりました」
「じゃあ二人のリクエスト聞いてきて」
「え!? 私が!?」
「幹事だろう」
「はあ、ですよね……」
気乗りしないまま仮デスクにいる二人の元へ向かう。一人は四十代のいかにも仕事ができるといった感じの男性だ。話しかけると「なんでもいいよ、お任せする」と優しい笑顔だ。
もう一人にも訊ねようとしたところで昼食を告げるベルが鳴る。
また後で聞けばいいかとその場を離れようとした杏子に、悪魔のようなスマイルが投げかけられた。
「小暮さんと違って俺好き嫌い多いから……周辺のお店一緒に調べるの手伝います。会議室B空いてるんで、そこで今から打ち合わせしましょう。ね?」
昼休みを潰す気なのがまるわかりだが、うまく断る台詞が思い浮かばず杏子は黙ってしまう。すると、隣で聞いていた小暮がくすくす笑った。
「こいつほんとに好き嫌い多いから、一緒にお店決めたほうがいいよ。あとで文句言われたら大冨さんも嫌だろうし」
助けを求めようとする暇もなく、杏子の肩に手が置かれた。耳元に顔が近づいてくる。
「逃げんなよ、あんこ」
先ほどとは打って変わった口調に、杏子の背筋は凍った。恐る恐る振り返れば、獲物を見つけたと言わんばかりの瞳と目が合った。
(最悪……)
杏子はこの悪魔から逃げるすべを、今もまだ知らないままだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
やり直し令嬢ですが、私を殺したお義兄様がなぜか溺愛してきます
氷雨そら
恋愛
人生をやり直していると気がついたのは、庶子の私を親族に紹介するためのお披露目式の直前だった。
しかし私はやり直していることよりもこのあと訪れるはずの義兄との出会いに困惑していた。
――なぜなら、私を殺したのは義兄だからだ。
それなのに、やり直し前は私に一切興味を示さなかったはずの義兄が、出会った直後から溺愛してきて!?
これは、ワケあり義兄とやり直し令嬢の距離がバグった溺愛ファンタジー
小説家になろう様にも投稿しています
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【R18】翡翠の鎖
環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。
※R18描写あり→*
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)
三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。
各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。
第?章は前知識不要。
基本的にエロエロ。
本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。
一旦中断!詳細は近況を!
【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで
あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。
連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。
ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。
IF(7話)は本編からの派生。
私のバラ色ではない人生
野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。
だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。
そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。
ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。
だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、
既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。
ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。
【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!
Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥
財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。
”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。
財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。
財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!!
青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!!
関連物語
『お嬢様は“いけないコト”がしたい』
『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中
『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位
『好き好き大好きの嘘』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位
『約束したでしょ?忘れちゃった?』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位
※表紙イラスト Bu-cha作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる