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第二章 待宵の常夜鍋

第11話

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 すぐさまあの店のぬくぬくした空間に戻って、早く熱燗をすすりたくなった。人恋しさは、誰にでも突然やってくるものだ。

 寒いからかもしれない。困っていた二人の外国人が、仲良しなのが伝わってきたからかもしれない。

 どうして急に寂しくなるのかわからないけれど、そういうお年頃なのだろうと、いつも適当に自分の感情を見て見ぬふりをする。

 じっくり分析したところで、結局それを埋めるものなんてないのだと思ってしまうからだ。

 寒空の下、かじかむ両脚をせっせと前に進めてあるく。

 こんなに馬鹿みたいに寒いからいけないんだなどと、訳のわからない苛立ちを冬と風のせいにした。

 お店の赤ちょうちんが見えてきた時には、なぜだか泣き出したいような気持になって、灯りのともるそこまで一気に早足になった。

「戻りました……」

 ガラガラと引き戸を開けて入ると、ため息を吐いてしまうほど、店の中はオレンジ色であったかい。

 冷え切ったコートをハンガーにかけ、ホッとしつつ震えながら元居た席に着いた。

「お疲れさん。さすが絃ちゃん、助かったよ」

 大将がすぐにぬくぬくのおしぼりを手渡してくれる。真っ赤になった指先を包み込むと、そこからじんわり身体が温まってきた。

「困っていた人を助けられて良かったです。熱燗がきっとおいしいはず」

 大将を覗き込むと、今用意しているよと厨房の奥をさししめされる。

 すぐに熱燗が運ばれてきて、やっと絃は緊張がほぐれた。それを受け取ると同時に、ぷりぷりの身の上に上品にレモンを乗せられた生牡蠣も目の前に置かれる。

「あれ、一個多い……」

 二つ食べると言い残してきたはずだが、お皿の上には三つの貝が並んでいた。
 ずっと黙っていた編集長が、召し上がれと笑いかけてきた。

「僕からのプレゼントです。寒かったでしょう? みっつは良い数字なんです」

 彼の声を聴いた瞬間、絃は無性にお酒が飲みたくなった。

「寒かったですよ。でも、牡蠣一個分、もうけましたから満足です。ありがとうございます」

 絃は嬉しくて素直にほころんだ。美味しいものを食べるのは人生の醍醐味だ。

 遠慮なくレモンを箸の先で小さく絞りかけ、生牡蠣をつるんと口へ泳がせる。

 磯の香りがふんわりと突き抜けて、噛めば甘みととろみが押し寄せる。口の中に海の香りがふわっと押し寄せてきた。

 頬に手を添えて、ほっぺたが落ちていないかを確かめる。それくらい美味しかった。

「美味しそうに食べますね。絃さんは好きですか、牡蠣?」

 お猪口についだ熱燗をぐびっと飲んで、ふうと息を吐いた。

「牡蠣だけじゃなくて、美味しいものが好きなんです」
「奇遇ですね、僕もです」

 ポン酢をちょろりとかけて食べると、牡蠣のサッパリ具合が増していくらでも食べられる気分になる。

 ちゅるんと牡蠣を口に入れてから、絃はこれはまずいと眉を寄せた。熱燗がどんどんすすむ。
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