65 / 74
こちら、河童お悩み相談所
第63話
しおりを挟む
どないしたんやと言われて、俺は本を閉じたまま、草むらにゴロンと寝そべって青空を眺めた。もちろん、辺りに鹿の落し物がないかを、きちんと確認したうえでだ。そうでないと恐ろしい結末が待ち受けている。
「……別に」
『つれないなあ。お嬢さんと喧嘩でもしよったか?』
「喧嘩はいつもだ。ただ……」
ただ、水瀬と俺とはどういう関係なんだろうと思うと、どう説明していいのかが分からずに苦しむわけである。
冗談とも本気とも取れないプロポーズに、実家にまで押し掛ける傍若無人っぷり。さらに極めつけは、毎日のように妖怪探しを手伝わされるのだが、その理由がサークルだからというのには、少々度が過ぎる。
平日ならまだしも、今は夏休み期間中である。毎日のように顔をつき合わせなくてはいけない理由が、他に欲しいと思っても何らおかしくはない。
「なんだかなあと思ってな。水瀬は、何考えているのか分からない」
『そら、女心と秋の空っちゅう有名な言葉があるやないの。移ろいやすいねん、乙女心は』
「妖怪から一ミリも移ろわない水瀬は、やっぱり乙女ではないと認識していいのだな」
ちゃうわ、と河童は目を瞬かせる。
『不器用なだけや。全力で飛鳥に向かってきてはるのがわからんの?』
「あれが全力なら、俺は全力で拒否したいぞ。そもそも、妖怪が見えるからって、それだけで好きになられたら、俺が妖怪見えなくなった時、好きという気持ちはなくなるわけで。つまりそれは一種のまやかしにすぎないだろう」
見えなくなりたいか、と河童が聞いてきたので、俺は思わず河童を見つめた。そんなことができるのかと、半身を起こして身を乗り出す。
「そんな方法があるのか?」
河童はじっと俺の目を見つめたあと、『草餅五個や』と呟いてきた。俺は頭に来て、河童の頭上の皿を叩き割ってやろうとげんこつを伸ばしたのだが、ひょいと身軽に避けられてしまった。
「いいか、買ってきてやるから教えろよ。そうじゃなかったら、三枚おろしにして鹿の餌にしてくれる!」
俺はぷりぷりと怒りながらも、妖怪が見えない世界というものを体験したいがために急いで草餅屋へと行き、草餅を自分の分も含めて六つ個購入した。それを持ってとんぼ返りして浮見堂へ行くと、河童は短い足を組んで寝そべって昼寝をしていた。
ついついイラついて靴の先で小突き、でろんと嘴から出ただらしない舌先を摘まみ上げたところで、河童が目を覚ました。
しまった、先に舌先でも切っておけば、大英博物館にでも売れたかもしれないと思ったのだが遅かった。
草餅を分け与え、ありがたく食べるように言うと、河童は草餅に飛びついて喜んでそれを頬張った。
うんまい、うんまい、と噛みしめている姿が面白くて、もう二、三個買って口に詰め込んで、のどに詰まらせてひいひいしている姿を見ればよかったと後悔したのだった。
「……別に」
『つれないなあ。お嬢さんと喧嘩でもしよったか?』
「喧嘩はいつもだ。ただ……」
ただ、水瀬と俺とはどういう関係なんだろうと思うと、どう説明していいのかが分からずに苦しむわけである。
冗談とも本気とも取れないプロポーズに、実家にまで押し掛ける傍若無人っぷり。さらに極めつけは、毎日のように妖怪探しを手伝わされるのだが、その理由がサークルだからというのには、少々度が過ぎる。
平日ならまだしも、今は夏休み期間中である。毎日のように顔をつき合わせなくてはいけない理由が、他に欲しいと思っても何らおかしくはない。
「なんだかなあと思ってな。水瀬は、何考えているのか分からない」
『そら、女心と秋の空っちゅう有名な言葉があるやないの。移ろいやすいねん、乙女心は』
「妖怪から一ミリも移ろわない水瀬は、やっぱり乙女ではないと認識していいのだな」
ちゃうわ、と河童は目を瞬かせる。
『不器用なだけや。全力で飛鳥に向かってきてはるのがわからんの?』
「あれが全力なら、俺は全力で拒否したいぞ。そもそも、妖怪が見えるからって、それだけで好きになられたら、俺が妖怪見えなくなった時、好きという気持ちはなくなるわけで。つまりそれは一種のまやかしにすぎないだろう」
見えなくなりたいか、と河童が聞いてきたので、俺は思わず河童を見つめた。そんなことができるのかと、半身を起こして身を乗り出す。
「そんな方法があるのか?」
河童はじっと俺の目を見つめたあと、『草餅五個や』と呟いてきた。俺は頭に来て、河童の頭上の皿を叩き割ってやろうとげんこつを伸ばしたのだが、ひょいと身軽に避けられてしまった。
「いいか、買ってきてやるから教えろよ。そうじゃなかったら、三枚おろしにして鹿の餌にしてくれる!」
俺はぷりぷりと怒りながらも、妖怪が見えない世界というものを体験したいがために急いで草餅屋へと行き、草餅を自分の分も含めて六つ個購入した。それを持ってとんぼ返りして浮見堂へ行くと、河童は短い足を組んで寝そべって昼寝をしていた。
ついついイラついて靴の先で小突き、でろんと嘴から出ただらしない舌先を摘まみ上げたところで、河童が目を覚ました。
しまった、先に舌先でも切っておけば、大英博物館にでも売れたかもしれないと思ったのだが遅かった。
草餅を分け与え、ありがたく食べるように言うと、河童は草餅に飛びついて喜んでそれを頬張った。
うんまい、うんまい、と噛みしめている姿が面白くて、もう二、三個買って口に詰め込んで、のどに詰まらせてひいひいしている姿を見ればよかったと後悔したのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
AB型のセツメイ中だ! オラァッ!
アノオシキリ
キャラ文芸
“だれか私にキンタマを貸しなさいよッ!”
こんなド直球な下ネタを冒頭に添えるギャグノベルがほかにあるか?
ストーリーをかなぐり捨てた笑い一本で勝負した俺の四コマ風ノベルを読んでくれ!
そして批評してくれ! 批判も大歓迎だ!
どうせ誰も見ていないから言うが、
そこらにありふれた主人公とヒロインの、クスリともしねえ、大声出せばかねがね成立していると勘違いされる、しょうもないボケとツッコミが大嫌いだ! センスがねえ!
俺のセンスを見ろ! つまらなかったら狂ったように批判しろ!
それでも、
読んで少しでも笑ったのなら俺の勝ちだねッ!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ダグラス君
坂田火魯志
キャラ文芸
海上自衛隊厚木基地に赴任した勝手は何と当直の時に厚木基地にあるマッカーサーの銅像の訪問を受けた、この銅像は厚木にいる自衛官達の間で話題になって。実際に厚木でこうしたお話はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる