62 / 74
白無垢姿は、クラシカルに
第60話
しおりを挟む
ゆっくりとそこで時間を費やし、至福の時を過ごした俺たちはまたもや灼熱の外へと出なくてはならない。
結構な勢いで体力が消耗しかけたのだが、水瀬はどうやら大変にこの場所が気に入ったようで、熱いのでさっさと帰ろうという俺の提案を無視して併設されている庭園も見ると言って聞かない。
熱中症で倒れたら看病してくれと冗談を言いながら庭園まで行くと、池に落っことしてあげるわと言われた。熱中症になぞなるものかと、胸中で盛大に悪態をついた。
しかしその素晴らしすぎる庭園を見ていると、池にぷうかぷうかと浮いている緑色のみょうちきりんな生物がいた。
俺は、それを盛大に無視する予定でずかずかと歩いたのであるが、目ざといそいつは俺のことを見つけると、キュートな花柄のシャワーキャップを取り出して頭にかぶり、ペタペタと歩いてやってきた。
「水瀬。河童がいて面倒だから、俺は早足で庭園を抜けたい」
「河童ちゃんがいるの?」
「あっちから歩いてくるのだけれども、忌々しいから蹴り飛ばしてもいいか?」
だめに決まっているじゃないの、と思い切り頬をつねられて、俺が河童を蹴っていたらつねられても文句を言えないが、まだ未遂なのでつねられ損である。世の中は、不平等でしか成り立っていないとはこのことだ。
『よお飛鳥。結婚式の下見か?』
「はあ、結婚式?」
『せや。最近は若いカップルも、ここで結婚式よお挙げるんやで。白無垢なんか着たら、ええ女すぎて横に立っている飛鳥は、塵かゴミと間違えられてまうわな』
「余計なお世話だこのクソ河童!」
塵とは何たる言い草だと俺が掴みかかろうとすると、さすがに逃げ足が速くて水瀬の後ろにひょいと回り込まれてしまう。俺は手が出せないまま、振り上げたこぶしを所在投げに下ろすしかなかった。
「何、結婚式?」
自分が塵のようにかすんで見えるという部分は大いに割愛して、河童との会話を伝えると水瀬は驚いた後に目を瞬かせて、河童の場所を聞いてきた。教えると水瀬はかがみこんで、河童に向かって何やらありがとうと呟いており、俺は眉をしかめる。
「何をぶつぶつ独り言いってるんだよ?」
「河童ちゃんにお礼を伝えていたの。飛鳥との結婚式場は北野異人館にしようかと思っていたけれども、ここも良いわねと思って。悩むけれども、候補が多い方が楽しいじゃない?」
「待て待て待て。俺がいつ水瀬と結婚すると言ったんだ!」
それに水瀬は半眼になると、あっかんべーと舌を出しててくてくと歩いて行ってしまった。
「ちょっと待て、本気かよ……」
それ以前に水瀬の父親の果物ナイフが恐ろしい。生きて行ける気もしない上に、例えもし万が一水瀬の家に挨拶にでも行こうものなら、鹿県に帰るころには、人体の三枚おろしにされているに違いない。
しかし、追いかけた水瀬の肩を掴むと、振り返った彼女のあまりにも嬉しそうな笑顔に、俺は一瞬で熱中症になりかけてしまい、言葉が続かなくなった。
「どこにするか、ほんと楽しみ」
俺は水瀬の笑顔の衝撃に驚いて、肩から手を外してしまった。それにお構いなしに水瀬はルンルンと庭園を歩き始めてしまう。
俺は頭をぽりぽりと掻きながらも、水瀬のドレスと白無垢姿を想像して、まあ悪くないと思ったのであった。
結構な勢いで体力が消耗しかけたのだが、水瀬はどうやら大変にこの場所が気に入ったようで、熱いのでさっさと帰ろうという俺の提案を無視して併設されている庭園も見ると言って聞かない。
熱中症で倒れたら看病してくれと冗談を言いながら庭園まで行くと、池に落っことしてあげるわと言われた。熱中症になぞなるものかと、胸中で盛大に悪態をついた。
しかしその素晴らしすぎる庭園を見ていると、池にぷうかぷうかと浮いている緑色のみょうちきりんな生物がいた。
俺は、それを盛大に無視する予定でずかずかと歩いたのであるが、目ざといそいつは俺のことを見つけると、キュートな花柄のシャワーキャップを取り出して頭にかぶり、ペタペタと歩いてやってきた。
「水瀬。河童がいて面倒だから、俺は早足で庭園を抜けたい」
「河童ちゃんがいるの?」
「あっちから歩いてくるのだけれども、忌々しいから蹴り飛ばしてもいいか?」
だめに決まっているじゃないの、と思い切り頬をつねられて、俺が河童を蹴っていたらつねられても文句を言えないが、まだ未遂なのでつねられ損である。世の中は、不平等でしか成り立っていないとはこのことだ。
『よお飛鳥。結婚式の下見か?』
「はあ、結婚式?」
『せや。最近は若いカップルも、ここで結婚式よお挙げるんやで。白無垢なんか着たら、ええ女すぎて横に立っている飛鳥は、塵かゴミと間違えられてまうわな』
「余計なお世話だこのクソ河童!」
塵とは何たる言い草だと俺が掴みかかろうとすると、さすがに逃げ足が速くて水瀬の後ろにひょいと回り込まれてしまう。俺は手が出せないまま、振り上げたこぶしを所在投げに下ろすしかなかった。
「何、結婚式?」
自分が塵のようにかすんで見えるという部分は大いに割愛して、河童との会話を伝えると水瀬は驚いた後に目を瞬かせて、河童の場所を聞いてきた。教えると水瀬はかがみこんで、河童に向かって何やらありがとうと呟いており、俺は眉をしかめる。
「何をぶつぶつ独り言いってるんだよ?」
「河童ちゃんにお礼を伝えていたの。飛鳥との結婚式場は北野異人館にしようかと思っていたけれども、ここも良いわねと思って。悩むけれども、候補が多い方が楽しいじゃない?」
「待て待て待て。俺がいつ水瀬と結婚すると言ったんだ!」
それに水瀬は半眼になると、あっかんべーと舌を出しててくてくと歩いて行ってしまった。
「ちょっと待て、本気かよ……」
それ以前に水瀬の父親の果物ナイフが恐ろしい。生きて行ける気もしない上に、例えもし万が一水瀬の家に挨拶にでも行こうものなら、鹿県に帰るころには、人体の三枚おろしにされているに違いない。
しかし、追いかけた水瀬の肩を掴むと、振り返った彼女のあまりにも嬉しそうな笑顔に、俺は一瞬で熱中症になりかけてしまい、言葉が続かなくなった。
「どこにするか、ほんと楽しみ」
俺は水瀬の笑顔の衝撃に驚いて、肩から手を外してしまった。それにお構いなしに水瀬はルンルンと庭園を歩き始めてしまう。
俺は頭をぽりぽりと掻きながらも、水瀬のドレスと白無垢姿を想像して、まあ悪くないと思ったのであった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
サウナマナー無双・童貞田中の無言サウナ
鷺谷政明
キャラ文芸
サウナマナー日本1位を自負する童貞・田中の唯一の楽しみは、週に一度の銭湯通い。誰とも関わりを持たずにサウナの世界に没頭したい田中が、大衆浴場コミュニティに巻き込まれていく一話完結型ドラマ。全10話。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる