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白無垢姿は、クラシカルに
第58話
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突き出されたのはなんと古都のガイドブックであり、いつの間に購入したのかと思ったのだが、すでに多くの場所をチェックしていた。水瀬得意の付箋があちこちに貼られているのを見て、俺はぞっとした。
まさか全箇所へと行くのをつき合わされるのではないだろうかと、肝を冷やしたのだが、それはおおよそ的中しているらしい。水瀬が「今回は」という一言を付け加えた時点で、俺は何やら盛大に連れまわされる覚悟というものを持たねばならないと察した。
学校の図書館で一反木綿が挟まっていた珍妙な書籍、〈奈良町妖怪見聞録〉と照らし合わせてスポットをチェックしているようで、ご丁寧に付箋にはガイドブックと妖怪本の相互ページがメモされている。
俺は眉根を寄せて、今回水瀬が行きたいと言い出したスポットを見たのだが、これまた大変有名な場所、関西の迎賓館の異名を持つホテルであった。
「ここにも妖怪が出るのかよ?」
「妖怪本には鬼の話が書いてあるけど、こっち。ティーラウンジ行ってみたいわ」
「そこに行くとなると経費で落とせないので、俺のおごりという認識でよろしいですか水瀬さん?」
「ええ、もちろんよ」
「俺の財布事情も今度は確かめてくれ!」
俺は自宅でできる在宅採点のアルバイトをしている。その時給は外で働く肉体労働と変わらないか、素早く済ませることができれば少々時給が良くなる計算である。ここの所出費が増えており、俺はぽりぽりと頭を掻きながら、まあいいかと渋々ながら承諾をした。
「あら、じゃあ私の実家にデート代が欲しいから仕送りを増やしてと言っておくわ。その代わり飛鳥は身支度を整えて、兵庫のうちの両親に挨拶に来る準備をしないといけないわね。ちなみに私は一人っ子で父は某病院の形成外科の部長で私のことを溺愛しているわけで、麻酔を打たれて心臓抜かれても悪く思わないでね」
「……俺のことは一言たりとも言わないでいい。というか言わないでくれ」
俺は人生で初めて、心の底から死への恐怖を味わったと言っても過言ではない。水瀬は淡々と語ったのだが、その目はとてつもなく冷静である。もうこの水瀬の父親というだけで身震いが止まらなくなりそうになり、怪談話やかき氷などいらないほどに俺は震えあがって寒くなった。
「あら、もうプロポーズしたって言っちゃったわ」
「なんてことしてくれるんだよ……! 返せ、俺の心臓!」
「母さんは喜んでいたし、写真を見せてって言っていたけれども、私は飛鳥の写真持っていないから。父さんはぶつぶつ言いながら果物ナイフ研いでいたけれど」
「俺、生きていける心地がしないんだけど。心臓ってスペア作れるんだっけ?」
大丈夫よと満面の笑顔で言われたところで説得力ゼロどころか、むしろ父親の果物ナイフの影がちらついてしまって俺は身震いした。
もしかして兵庫に行こうものなら俺の命は塵のように儚く散ってしまうか、魚のように三枚におろされるか、良くても海に捨てられてしまうのではと本気で考えた。
そしてあれが本当にプロポーズだったのかと思うと、なんて世の中世知辛いんだと思わずにはいられない。
こんな美少女に逆プロポーズされておいて贅沢だというのであれば、あんな超絶上から目線を通り越した神様目線のプロポーズの、どこが羨ましいのかを二、万文字の論文にして提出しろと言いたかった。
まさか全箇所へと行くのをつき合わされるのではないだろうかと、肝を冷やしたのだが、それはおおよそ的中しているらしい。水瀬が「今回は」という一言を付け加えた時点で、俺は何やら盛大に連れまわされる覚悟というものを持たねばならないと察した。
学校の図書館で一反木綿が挟まっていた珍妙な書籍、〈奈良町妖怪見聞録〉と照らし合わせてスポットをチェックしているようで、ご丁寧に付箋にはガイドブックと妖怪本の相互ページがメモされている。
俺は眉根を寄せて、今回水瀬が行きたいと言い出したスポットを見たのだが、これまた大変有名な場所、関西の迎賓館の異名を持つホテルであった。
「ここにも妖怪が出るのかよ?」
「妖怪本には鬼の話が書いてあるけど、こっち。ティーラウンジ行ってみたいわ」
「そこに行くとなると経費で落とせないので、俺のおごりという認識でよろしいですか水瀬さん?」
「ええ、もちろんよ」
「俺の財布事情も今度は確かめてくれ!」
俺は自宅でできる在宅採点のアルバイトをしている。その時給は外で働く肉体労働と変わらないか、素早く済ませることができれば少々時給が良くなる計算である。ここの所出費が増えており、俺はぽりぽりと頭を掻きながら、まあいいかと渋々ながら承諾をした。
「あら、じゃあ私の実家にデート代が欲しいから仕送りを増やしてと言っておくわ。その代わり飛鳥は身支度を整えて、兵庫のうちの両親に挨拶に来る準備をしないといけないわね。ちなみに私は一人っ子で父は某病院の形成外科の部長で私のことを溺愛しているわけで、麻酔を打たれて心臓抜かれても悪く思わないでね」
「……俺のことは一言たりとも言わないでいい。というか言わないでくれ」
俺は人生で初めて、心の底から死への恐怖を味わったと言っても過言ではない。水瀬は淡々と語ったのだが、その目はとてつもなく冷静である。もうこの水瀬の父親というだけで身震いが止まらなくなりそうになり、怪談話やかき氷などいらないほどに俺は震えあがって寒くなった。
「あら、もうプロポーズしたって言っちゃったわ」
「なんてことしてくれるんだよ……! 返せ、俺の心臓!」
「母さんは喜んでいたし、写真を見せてって言っていたけれども、私は飛鳥の写真持っていないから。父さんはぶつぶつ言いながら果物ナイフ研いでいたけれど」
「俺、生きていける心地がしないんだけど。心臓ってスペア作れるんだっけ?」
大丈夫よと満面の笑顔で言われたところで説得力ゼロどころか、むしろ父親の果物ナイフの影がちらついてしまって俺は身震いした。
もしかして兵庫に行こうものなら俺の命は塵のように儚く散ってしまうか、魚のように三枚におろされるか、良くても海に捨てられてしまうのではと本気で考えた。
そしてあれが本当にプロポーズだったのかと思うと、なんて世の中世知辛いんだと思わずにはいられない。
こんな美少女に逆プロポーズされておいて贅沢だというのであれば、あんな超絶上から目線を通り越した神様目線のプロポーズの、どこが羨ましいのかを二、万文字の論文にして提出しろと言いたかった。
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