上 下
39 / 74
布切れだって、自由になりたい

第37話

しおりを挟む
 さすがにレポートを仕上げないと、まずいことになるぞと思った俺は、仰々しくも学生らしい服に着替えて家を出る。それは、夏休みも半分を過ぎた頃であり、電車にガタゴト揺られ、バスにゆらゆらと揺られて学び舎へと赴いた。

 俺の家に居候の如く居座っている、学校一の美少女の異名を持つ学校一の変人水瀬雪が、借りているというアパートに帰ったときのことであった。

 つかの間の平穏に俺の心が躍ったのは言うまでもないのだが、それと同時にレポートを仕上げなくてはという気持ちがせりあがり、いそいそと俺が向かった先は学内の図書館である。

 それなりに所蔵も多く、レポートを書くくらいであれば、文献の三冊ほどを入手すれば大丈夫と思われた。検索のパソコンとにらめっこしていると、どうやら図書館内のあちこちに借りたい本が散らばっているようだ。

 情報の印刷をかけて、分類番号をたよりに本棚の隙間を歩いていく。最後の一冊を探そうとしていると、どうやらそれは二層書庫にあるようだった。

 あまり二層書庫には行ったことがないので、物珍しいところに入る気持ちで向かう。そこにも所狭しと本が並んでおり、鉄製の階段で上と下とに行けるようになっている。

 目当ての本を探すべく俺が書架をきょろきょろしていると、何やら天井付近でひいらりひいらりと白い物が動いている。

 誰かそこで掃除でもしているのかと思って気にも留めなかったのだが、そのうちにどこぞのおっさんのかすれた唸り声のようなものが聞こえてきて、俺は眉をひそめるではなく、耳をひそめた。

 ようく聞くと、踏ん張っているのかいないのか、なんとも珍妙な声を上げたかと思えば、息切れして『あかん、もうあかん』とただひたすらに踏ん張る、息切れ、あかんを繰り返している。

 書架には俺の他には人はいないらしく、というと、声の主は白い物を動かしている人物だけに絞られる。

 どうも様子もおかしいし、何やら困っているのであれば助けなくてはと思う良心を持つ好青年である自負があるため、俺は近くにあった移動できる脚立を持ってくると、それに上りながら白い物をはためかせている人物へと近づいた。

「大丈夫ですか……あ……ああ……」

 そう言いかけた俺の最後は、しりすぼみになって落胆した声しか出なかった。そこで助けを求めているのが、深窓の美女であればよかったという期待を軽やかに裏切って、おっさんどころか人ですらないものがそこに居た。

 白い物をはためかせていたのではなく、白いその物自体が動いていた。

『おお、わしが見えるとはな。助かった!』

「誰も助けるとは言っていない」

 俺があんまりにもがっかりした顔をしたものだからか、つられてその白い物まで文字通りしょんぼりした。あまりにも情けない顔に、俺の方が困ってしまうほどに、白い物――しょんぼりした一反木綿は体中から力を抜いてだらりとしてしまった。もはや、ただの白い布である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

AB型のセツメイ中だ! オラァッ!

アノオシキリ
キャラ文芸
“だれか私にキンタマを貸しなさいよッ!” こんなド直球な下ネタを冒頭に添えるギャグノベルがほかにあるか? ストーリーをかなぐり捨てた笑い一本で勝負した俺の四コマ風ノベルを読んでくれ! そして批評してくれ! 批判も大歓迎だ! どうせ誰も見ていないから言うが、 そこらにありふれた主人公とヒロインの、クスリともしねえ、大声出せばかねがね成立していると勘違いされる、しょうもないボケとツッコミが大嫌いだ! センスがねえ! 俺のセンスを見ろ! つまらなかったら狂ったように批判しろ! それでも、 読んで少しでも笑ったのなら俺の勝ちだねッ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ダグラス君

坂田火魯志
キャラ文芸
 海上自衛隊厚木基地に赴任した勝手は何と当直の時に厚木基地にあるマッカーサーの銅像の訪問を受けた、この銅像は厚木にいる自衛官達の間で話題になって。実際に厚木でこうしたお話はありません。

人喰い リョーラ

ササカマボコ
キャラ文芸
人を喰らう怪物リョーラと人間達の恐ろしく残酷な物語 圧倒的な力を持つ怪物に立ち向かうのか? 逃げるのか? それとも…

処理中です...