12 / 74
寒さ恋しや、氷菓(アイス)を一口
第10話
しおりを挟む
「……ちょっと、飛鳥! 何、引っ張んないでよ?」
俺が戸惑ってというよりも、その異物を凝視して固まったせいで、水瀬の妖怪センサーが働いた。
下からじっと俺を見上げてきていることに気がついたのは、しばらくして俺の腕をめちゃくちゃほんの少しだけつまんでひねるという、悪魔のごとき所業をいとも簡単に善良な男子にしたからであった。
「痛いな! 何すんだ、しかも卑怯だ、そのちみっちゃいつまみ方は!」
「だって飛鳥が急に動かなくなるから!」
「だってそこに雪女が居るから!」
俺の言い訳に、水瀬は目を見開いた。そして、俺の顔と、氷占い用の氷とを交互に見比べる。
彼女には見えていないようだが、俺の目にはその氷の横に、ばてきって死人のような顔をしてもはや半ば溶けているのではないかと思えるような、真っ白衣服をした顔色の悪い女が、げっそりと横たわっているのがしっかりと見えていた。いや、横たわっているというよりかは、氷を抱きしめている。
ついでに言えば、呪いかと思うような声で「あついー死ぬー」と漏らしている。あまりにも無残な姿だった。
「雪女? こんなところに?」
それに俺は頷く。
「いるのね、あそこに?」
「嘘言うもんか」
すると水瀬はツカツカと氷のところまで歩み寄ると、さっそうと一人で話しかけ始めた。
俺は咄嗟に水瀬を掴んで、その場から引きずり離した。
「何するのよ?」
「阿呆かあんたは。変な目で見られてるぞ」
いいわよ別にと言われたが、隣にいる俺まで変人奇人扱いされるのは、東大寺の大仏様が許しても、俺の砂漠のように広大な良心が許さない。そんなことで言い合っていると、雪女が首をもたげた。
『ちょいとそこのお兄さん、見えてんのやろ? 河童の友達やろ? 水、水を……』
「水?」
俺がすっとんきょうな声を上げるとこういう時だけ神がかって察しの良い水瀬が、明後日の方向に向かってペットボトルの水を差し出した。
――もうどうにでもなれ。
俺は水瀬の手ごと引っ掴んで、ペットボトルを雪女に渡した。あっという間に飲み干して、風呂上りのおっさんのように「くぅ~!」と言ってから、雪女は「ありがとう」とにんやり笑って消えた。
それ以来、俺と水瀬は奈良町に妖怪探索に行くたびに、氷室神社に立ち寄るようになったのだが、毎回当然の如くの顔をして雪女が水やら氷やら、挙句の果てにかき氷やラムネ、アイスまでたかるようになってきてしまった。
これはもはや餌付けに近いのではと思うのだが、いかんせん水瀬には雪女の姿が見えないために、なんやかんやと難癖つけて、雪女への賄賂は俺の自腹での支払いになった。
とんだ災難であるが、食べ物のお礼に雪女は氷をずっと溶けないように口から冷気を吐いていたので、その夏は氷室神社の氷がいくら経過しても端っこのほんの一ミリでさえも溶けないということでSNS上では大変な話題となったのだった。
それもこれも、俺のお小遣いの投資によるものだと知る者は水瀬しかいないのだが、彼女はそれに礼の一言もなく、にんまりしながら今日も俺におごらせるのであった。
ちなみに補足だが、水瀬の氷みくじの結果は見るに耐えられない事ばかり書いてあり、その代表ともいえるのが恋愛〈諦めるべし〉であったのだった。
俺が戸惑ってというよりも、その異物を凝視して固まったせいで、水瀬の妖怪センサーが働いた。
下からじっと俺を見上げてきていることに気がついたのは、しばらくして俺の腕をめちゃくちゃほんの少しだけつまんでひねるという、悪魔のごとき所業をいとも簡単に善良な男子にしたからであった。
「痛いな! 何すんだ、しかも卑怯だ、そのちみっちゃいつまみ方は!」
「だって飛鳥が急に動かなくなるから!」
「だってそこに雪女が居るから!」
俺の言い訳に、水瀬は目を見開いた。そして、俺の顔と、氷占い用の氷とを交互に見比べる。
彼女には見えていないようだが、俺の目にはその氷の横に、ばてきって死人のような顔をしてもはや半ば溶けているのではないかと思えるような、真っ白衣服をした顔色の悪い女が、げっそりと横たわっているのがしっかりと見えていた。いや、横たわっているというよりかは、氷を抱きしめている。
ついでに言えば、呪いかと思うような声で「あついー死ぬー」と漏らしている。あまりにも無残な姿だった。
「雪女? こんなところに?」
それに俺は頷く。
「いるのね、あそこに?」
「嘘言うもんか」
すると水瀬はツカツカと氷のところまで歩み寄ると、さっそうと一人で話しかけ始めた。
俺は咄嗟に水瀬を掴んで、その場から引きずり離した。
「何するのよ?」
「阿呆かあんたは。変な目で見られてるぞ」
いいわよ別にと言われたが、隣にいる俺まで変人奇人扱いされるのは、東大寺の大仏様が許しても、俺の砂漠のように広大な良心が許さない。そんなことで言い合っていると、雪女が首をもたげた。
『ちょいとそこのお兄さん、見えてんのやろ? 河童の友達やろ? 水、水を……』
「水?」
俺がすっとんきょうな声を上げるとこういう時だけ神がかって察しの良い水瀬が、明後日の方向に向かってペットボトルの水を差し出した。
――もうどうにでもなれ。
俺は水瀬の手ごと引っ掴んで、ペットボトルを雪女に渡した。あっという間に飲み干して、風呂上りのおっさんのように「くぅ~!」と言ってから、雪女は「ありがとう」とにんやり笑って消えた。
それ以来、俺と水瀬は奈良町に妖怪探索に行くたびに、氷室神社に立ち寄るようになったのだが、毎回当然の如くの顔をして雪女が水やら氷やら、挙句の果てにかき氷やラムネ、アイスまでたかるようになってきてしまった。
これはもはや餌付けに近いのではと思うのだが、いかんせん水瀬には雪女の姿が見えないために、なんやかんやと難癖つけて、雪女への賄賂は俺の自腹での支払いになった。
とんだ災難であるが、食べ物のお礼に雪女は氷をずっと溶けないように口から冷気を吐いていたので、その夏は氷室神社の氷がいくら経過しても端っこのほんの一ミリでさえも溶けないということでSNS上では大変な話題となったのだった。
それもこれも、俺のお小遣いの投資によるものだと知る者は水瀬しかいないのだが、彼女はそれに礼の一言もなく、にんまりしながら今日も俺におごらせるのであった。
ちなみに補足だが、水瀬の氷みくじの結果は見るに耐えられない事ばかり書いてあり、その代表ともいえるのが恋愛〈諦めるべし〉であったのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
あやかし警察おとり捜査課
紫音
キャラ文芸
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
※第7回キャラ文芸大賞・奨励賞作品です。
JACK【約5人向け声劇台本】【男3女2】
未旅kay
キャラ文芸
2052年。突如、地球に堕ちた隕石から謎の生命体が発見された。謎の生命体を研究機関は捕獲し『ムゲン』と名付けた。
ムゲンは分裂を繰り返し、共通の意志を持ち、研究室から脱走した。
20年後、2072年。事故死した遺体の体内から変異したムゲンの一部が発見された。
ムゲンは生き物に寄生し、その宿主の姿を兇悪に変貌させた。研究機関は財団となり、兇悪化した生命体をムゲン体と呼称した。
それに伴い、王色染毬博士は独自でZ周波を発明した。
Z周波を聴くことで身体能力を一時的に強化できる適性を持った少年少女達を集めた━━対ムゲン部隊JACK(ジャック)が設立された。
※演じるにあたって
・戦闘シーンでのアドリブは可能。存分に楽しんでください。日常パートはアドリブ不可です。
・(M) と表記されている部分はモノローグです。モノローグは読んでください。
・格話読み切りですので、何話から読んでいただいて構いません
が、3話から5話は同じバトルシーンです。
・基本登場人物はメインが男女=2:2です。兼ね役はあります。
・アトラクションにでも乗るような気持ちで楽しんでもらえると嬉しいです。
・全5話(ミニコーナー、エピローグあり)
☆登場人物→女○男●不問◉
●ダン
絹田(きぬた)ダン
17歳。JACK所属。Z適正S。
第11部隊の隊長ではあるが、真っ先に走っていくタイプ。
●ダーウィン
涼川(すずかわ)ダーウィン
17歳。JACK所属。Z適正A +。
第11部隊隊員。お気楽な表情であることが多い。
○コロロ
外道(がいどう)コロロ
16歳。小柄。JACK所属。Z適正SSS。
第11部隊隊員。○○奪還作戦の唯一の生存者。ダウナー。精神面が欠損している。
○マイ
華牛(かぎゅう)マイ
17歳。JACK所属。Z適正B。
第11部隊副隊長。ダンの苦手な部分をフォローすることが多い。
◉AI
兼ね役。Z周波を流すためのワイヤレスイヤホンの起動音。
マイ役の方が読むとスムーズです。
●黒衣の男
メインの敵。変貌します。
○王色染毬
兼ね役。JACKの発明に大きく貢献した天才少女。
Z周波やクラウソードも発明した。コロロと少し仲良く、新作の武器の試運転を依頼することがある。
冷静沈着。年齢不詳。
○シスターS
兼ね役。
4話から登場。
コロロ役の方が演じて下さい。
○シスターY
兼ね役。
4話からの登場。
マイ役の方が演じて下さい。
○人狼
兼ね役。叫びます。
ヤンデレ男の娘の取り扱い方
下妻 憂
キャラ文芸
【ヤンデレ+男の娘のブラックコメディ】
「朝顔 結城」
それが僕の幼馴染の名前。
彼は彼であると同時に彼女でもある。
男でありながら女より女らしい容姿と性格。
幼馴染以上親友以上の関係だった。
しかし、ある日を境にそれは別の関係へと形を変える。
主人公・夕暮 秋貴は親友である結城との間柄を恋人関係へ昇華させた。
同性同士の負い目から、どこかしら違和感を覚えつつも2人の恋人生活がスタートする。
しかし、女装少年という事を差し引いても、結城はとんでもない爆弾を抱えていた。
――その一方、秋貴は赤黒の世界と異形を目にするようになる。
現実とヤミが混じり合う「恋愛サイコホラー」
本作はサークル「さふいずむ」で2012年から配信したフリーゲーム『ヤンデレ男の娘の取り扱い方シリーズ』の小説版です。
※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。
※第三部は書き溜めが出来た後、公開開始します。
こちらの評判が良ければ、早めに再開するかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる