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魔法使いと思わぬ再会

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 馬車は二日と半日みっちり走り続け、エミリの妹ロマネの誕生日当日にたどり着いた。
 日は既に傾きかけていて、墓場には長い影が伸びていた。

「誕生日なのに遅くなってすまなかったね」

 おっちゃんは墓標にケーキを置くと、手を合わせた。

「連れて来たよ、会いたがっていた相手を。これも遅くなってしまったけどね。待っていてくれ、今から代わるから」

 おっちゃんは立ち上がると、ゆっくりと離れていった。
 気を遣ってくれたようで、木の陰に隠れている。

「行こうか、エミリ」

 手を取ると、エミリは頷いた。
 その顔は緊張でこわばっている。

 数年ぶりの、妹との再会だ。

 ロマネ。
 墓標には、はっきりとそう書かれていた。

「まさか死んでいたなんて、それじゃあいくらさがしても見つかるわけがないじゃない」

 クラン・スイレン結成直後、俺はギルドにロマネの捜索依頼を出した。
 けれど、手がかりは何も掴めなかった。

「そりゃあ、どう探しても見つからないわけよね。ねえ、あなたは幸せだったの?」

 膝をつくと、お墓に向かって手を合わせた。
 その瞬間、エミリを取り巻く空気が変わった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 エミリは孤児院にいた。

 ある日、一人の男がやってきた。
 とてもいい服を着ていて、穏やかな笑顔を浮かべていた。

 男が目をつけたのはロマネだった。
 彼女を見るなり、下卑た笑みを浮かべた。
 だが、シスターが近づいてくると、すぐに穏やかな笑顔に戻った。

 そして言った。
 彼女を引き取りたい、と。

 話はとんとん拍子に進んでいった。
 孤児院には、引き取り手を断る理由なんてなかった。

 それが例え、どんな相手であろうと。

 エミリが会話を耳にしたのは偶然だった。

「あの子はどんな声で鳴くのだろうか。可愛い顔をどんな風に汚すのだろうか」と。

 引取りの当日、エミリはロマネになりすました。
「どうしても孤児院から出たい」と、妹に何度も言って。

 そして無事、エミリは引き取られた。
 孤児院から出て行く時、一人の男性とすれ違った。

 少し小太りのおっさんで、力なく下を向いていた。
 あの人ならよかったのに。エミリはなんとなくそう思った。

 けれど遅すぎた。

 その日から、虐待を受ける日常は始まった。
 狭い部屋に閉じ込められ、食事も満足に与えてもらえなかった。

 夜になると男がやってきて、好きにしていった。
 昼が来ると知らない男がやってきた。それも日替わりだ。

 次第にエミリの心は、限界を迎えていった。
 死んだほうがましだ。
 何度もそう思った。

 それが出来なかったのは、妹のことが気にかかったからだ。
 彼女の安全を確かめるまでは死ねない。

 確かめないと。

 そう思った時、扉が開かれた。
 暗い部屋にはわずかな光が差し込んできて、男はにやにやしながら入ってきた。

 あーあ、今日も始まるのか…そんなのは、嫌だ!

 明確な嫌悪が生まれた次の瞬間、部屋は崩れていき、エミリは意識を失った。
 
 次の記憶は、誰かの腕の中だった。
 自分とは違う、がっしりとした腕。

 それが男のものだと気が付くには、さほど時間はかからなかった。
 
「放して!」

 エミリは叫ぶと、暴れた。
 束縛はすぐに解けた。

 大切なものを扱うかのように、ゆっくりと下に降ろされた。
 逃げようとしたが、満足に食事をとっていなかった体は動かない。

 後ろにあったソファーに体を預けると、ぐったりしてしてしまった。

 曖昧な意識の中で、大きな手が迫ってくるのが見えた。
 また酷いことをされるのだろうか?

 無意識に涙がこぼれた。

 だが違った。

 その手は頭に触れると、優しく撫でて来た。

「頑張ったね」

 優しい声に安心して、エミリは眠った。
 心地よい眠りは2年ぶりだった。

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