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小さな結界師

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 パーティに招待されているのは皆、名家ばかりだった。

 名と金額を、次々に叫んでいく。

 伯爵令嬢のみならず、伯爵と伯爵夫人は頷きながら見定める。
 どの相手が、今後の自分たちにとって特になる相手であるのか。

 俺が近づこうとすると、伯爵令嬢は命令してくる。

「動くんじゃないわ」

 どうやら、俺が魅了の魔法に掛かっていると勘違いしてくれているようだ。
 
「そんなことを言われたら、もっと近づきたくなってしまいますよ」

 出来る限りのゲスな顔を浮かべると、フラフラと近づいていく。

「な、何よっあんたっ、変態だったの!?」

 余裕ぶっていた顔に、薄汚いものを見つめるような下卑たものがこもる。
 なるほどな。
 そうやってミキも迫害していたんだな。

 なぜミキがこのクエストを受けたのか俺なりに考えた。
 きっと、少しばかりの期待があったのだろう。

 生まれた家に受け入れてもらえるのだと。
 そして俺も、そうであったら良いと思った。

 けれどそんなのは、甘えだった。

 この家に優しさなんてものは存在しない。
 もう終わりだ。
 この場に用はない。

「ちょ、ちょっと止まりなさい!止まりなさいってば!ああ、もう、護衛達っ、何をしているのっ、アイツを止めてっ」

 伯爵令嬢は涙目になりながら叫ぶ。
 もう無理だと思ったのか、護衛にも助けを求めるが反応がない。

「無駄だよ。俺たちの間には結界がある。中から声が漏れることがなければ、外の声が入ってくることもない」
「そんなばかなっ、だって、普通に外は見えるじゃない!」

 どうやら伯爵令嬢は、ミキの力をご存じないようだ。

「てかあんたっ、なんで魅了にかかってないのよ!?わざわざかかりやすくなるように薬も仕込んだのにっ」
「ああ、やっぱりそうだったか」

 伯爵令嬢はしまったとばかりに口を抑える。

「それなら俺は摂取してないぞ」
「嘘よっ、確かに飲んだはず!」
「ああ、飲んださ。小さな結界に包んでカプセル風にしてな。1時間ぐらいで結界は溶ける予定だから、そうしたら効いてくるんじゃないか?」
「そんなばかなっ」

 わめき、ミキを拘束している腕に力がこもる。

「そろそろミキを返してもらおうか」
「待ちなさい、それ以上近づいたらこいつはっ、嘘っ」
「こいつはっ、なんだって?」

 俺の手が、伯爵令嬢の首に触れた。
 一切力を込めていないが、脅すだけならこれで十分だ。

 伯爵令嬢はその場にへたり込み、死んだような目で俺を見上げた。

 俺はミキ引き寄せると、腕の中に抱きかかえた。

「こ、こんなことをしてただで済むと思わないでよ!外で見ていた連中が証人となって、あんたたちには罰が下されるわ!」
「あーそれだけど、外からはこっちのことは見えていないぞ」
「嘘っ!?」
「マジックミラーって言うんだっけ?見えるようにも出来たけど、今回は不都合だったからな。そうだろ?」

 俺の問いかけに伯爵令嬢は答えない。
 下を向いたまま、ぷるぷると手を震わせている。

「もうこれ以上はミキに関わるな。約束するなら結界は解く」
「分かったわ。約束する。私はもう手を出さないわ」
「よし、解除」

 結界を解くと、外と中を遮断していた場所には人が群がっていた。
 見慣れない現象がおこると人が集まるのは、どの場所でも変わらない。
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