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第3章~港町での物語~

ブリュンヒルデの村訪問2

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 ティアに案内されてやって来たのは、この村の中で一番大きな家だった。中には長テーブルが置かれていて、10人ほどが同時に食事できるだけの広さがあった。

「彼がシグルズよ」

 女神の登場に村人は驚き、レティの言葉にどよめきが起きた。もうだれも、俺を冷たい目で見なくなった。それどころか、怯えるように、目を反らされているようにも感じた。

「お食事の準備が出来ました」

 村長は旅館の女将のように机のすみに正座をすると、目配せで指示を出す。運ばれてきた料理は三人分で、1つは村長のすぐ近くに座っているティアの前に置かれた。
 残りの2つはと言うと、どちらも俺の前に置かれた。別に俺はそこまで大食いと言うわけではない。むしろ食べない方だと思うし、二人前なんてとてもじゃないが食べきれない。
 もちろんこの二人前は俺だけのものではない。お盆をくっつけないと置けないほどに、レティがくっついているのだ。多少は気にしているのか、腕にくっついて来たりはしないが、わざわざ体をくっつけて隣に座っている。

「あら、おいしそうね」

 レティが感想を述べると、村長や他の人たちからはほっとしたような息が漏れた。

「それじゃあいただきましょうか」

 ヴァルキリーは食事を取る必要がない。たまにおやつがてら甘いものを摘まんだりしているが、本格的な食事を口にしているところを見たことはない。そんな彼女が「いただきましょうか」などと、気を遣ったようなことを言うとは驚きだった。

「そうだな」

 俺も食べようとして気がついた。右側にベッタリとくっつかれて、利き腕の右手を使うことが出来ない。さっきまで気にしてはいなかったが、目の前の料理は美味しそうで、すぐに手がでないと思うと急にお腹が空いてきた。

「ちょっと離れてくれないか、レティ」

 いつも通りの何気ないやり取りだ。なのに、村の人たちは慌てた顔を浮かべ、レティの様子を伺った。

「あら、そんなにわたくし達の関係を見せつけるのが恥ずかしいの?」
「違う。このままでは手を使えない」
「つまり、わたくしが食べさせてあげればいいのね?」
「そんなことは一言も言ってないだろ…」

 ため息を着くと、レティは満足したのか、手を動かせるぐらいの距離を開けてくれた。やけに素直だ。思わず口にしそうになったが、面倒な反応が来ても嫌なので飲み込んでおいた。

「いただきます」

 手を合わせると、改めて食前の挨拶をした。料理は魚を使ったものばかりだ。煮物に焼き魚…刺身のような生まで出てこなかったが、港町に行けばそれも食べることが出来る。
 
 ふと、こちらの世界に来て、始めて刺身を食べた時のことを思い出す。たった数年前のことなのに、ずっと前のことのような気がする。

 ☆☆☆

「生の魚なんて食べられるわけがないじゃない!このお店の衛生管理はどうなっているのよ!!」

 最初にそう文句を言ったのはマヤだった。
 ハヤテも同意だったようで、剣の鞘に手を振れると、店員が来たら斬りかからんとばかりに険しい顔をしていた。
 たったひとり、タケヤだけは、二人を無視して口に運んだ。そしてすぐに、「うまい!」と声を上げた。

「うそでしょ!?」

 マヤは半信半疑ながらも、食べ終わっても特に体調に異変が無さそうなのを見るや、おずおずと手を飛ばした。

「美味しい…」

 食べても尚、信じられないと驚いていた。

「おいおい、そんなわけがないだろ。味覚でも狂ったのか?」

 二人の反応を見ても、ハヤテは一向に手をつけようとはせず、未だに店に文句を言わんとする様子だった。

「ホントにうまいって、騙されたと思って食べてみろ」
「ふざけるな。タケヤとマヤは味音痴で大雑把たから食えるんだ。ヤマトを見ろ、警戒して手を着けていないぞ」

 確かに俺は一緒に来た付け合わせばかりを食べていた。いやさ、自分だけが食べたことのあるものが来たら、全員の反応を見てから食べたくならないか?

「いや、普通に食べるけど」

 ハヤテを待ってたら一生刺身を食べられそうになかったので、俺も食べることにする。すると、あり得ないとばかりに目を真ん丸にして俺を見ていた。
 3対1。多数決の原理によりハヤテは敗北し、最終的には刺身を食べることになった。
 予想外の美味しさに驚いていて、後日山の中で取った魚をそのまま食べて腹を壊し、三日ほど呻いていたのであった。
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