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第3章~港町での物語~

旅の前にヴァルキリーと話しましょう

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 さて、ティアと出かけると決まったわけだがそれまでには今日と明日、2日の猶予がある。
 その間にヴァルキリーたちのケアは必要だろう。俺はイレギュラーに来てから3日以上拠点を離れたことはない。だが今回は少し長い旅になる。急に俺がいなくなって、暴れだしたりしたら大変だ。

「さて、誰から話したものか」

 とりえあえずレティは最後にしておきたい。間違いなく長くなるからな。他は…まあ、なんとかなるか。

「何を難しい顔をしているんだい」

 落ち着いた声に顔を上げると、目の前の課題であるヴァルキリーの一人がいた。
 彼女はユミネ。普段は図書館に引きこもっていることが多いのだが、今はその戻りのようだ。右手の脇には厚めの本を2冊かかえ、左手では辞書を一冊握っている。

「随分重そうだな。一冊持つよ」

 一番重そうな辞書を受け取ると、隣を歩く。

「ありがとう。それで何を悩んでいたんだい」
「実はな、ちょっと用事でここからしばらく離れることになったんだ」
「ほう、それはまた寂しいな」

 眉をひそめると、残念そうに言った。

「これから他のみんなにも言わないといけないんだけど、穏便に行くかが不安だ」
「それなら大丈夫じゃないかな。この場所は居心地がいい。そう思っているのは僕だけじゃないはずさ」

 いつも冷静なユミネに言われると説得力がある。なんとかなるとは思っていても、当人たちの声を聞くまではなんだかんだ不安だった。

「最初に話せたのがユミネでよかったよ」
「それは光栄だね」
「そう言えば、図書館から本を持ち出すことはあまりないけど、これはそんなに重要な本なのか?」

 俺が持っている辞書は古代文字の翻訳書で、ユミネが持っているのは植物の図鑑だ。

「室内を上手いこと庭園に出来ないかと思ってね。よさげな資料があったから試してみようと思っているんだ」

 話しているうちにユミネの部屋にたどり着き、部屋の中まで案内された。隅には鉢植えの木が何本は植えられていたが、レッドラグーンの時の植物に囲まれた環境と比べれば、かなり寂しいものだった。

「壁一面まで植物にするのか?」
「ああ、そうしたいと思っているよ。そうか、一応ミサには確認してからの方がいいな」

 持ってきた本を机の上に置くと、うんうんと頷いた。

「せっかくだから聞きに行くか?」
「もしや来てくれるのかい?」
「ああ。俺も見たいしな、ユミネの作った植物ルーム」
「そうかそうか」

 満足そうにうんうんと頷くユミネは、いつになく上機嫌だ。そんなに部屋を植物で飾れるのが楽しみなのか。これは嫌でもミサには許可してもらわないといけないな。
 ということで今日二度目の執務室に入ったわけだが、

「いいじゃないか、面白そうだ。どうせなら空いている部屋の壁をくり抜いて大部屋でやるか?」

 反対されるどころか、超がつくほど乗り気だった。

「まずは小さい部屋で試してみたい。成功したら大部屋を使わせてもらうよ」
「わあったよ、いつでも言ってくれ。あ、ロビーも飾ったら面白いんじゃないか?」

 先の楽しみも作りつつ、一先ずはユミネの部屋を植物ルームにする計画がスタートするのだった。
 
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