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第2章~ヴァルキリーを連れ出せ~

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「ということなんだが、どうだろうマユミさん」

 確認をするのはミサの役目だった。そうだ、まだ一人、重要人物がオッケーしていない。ここからの大どんでん返しが起こってもおかしくない。
 マユミさんは立ち上がると、俺の前に立った。白と黒の2個の目にくらえて、額にある最後の目も開かれた。ビューンと、室内にも関わらず、突風が吹いた。いや、それは気のせいだ。一斉に解き放たれた膨大な魔力をまともに受け、強烈な風を受けたと錯覚しただけだ。
 通り過ぎていった魔法は、俺を囲むように戻ってきて、全身を包み込む。決して嫌な感じはしない。むしろ、温かい。

「ようこそヤマト。光に帰れない世界へ」

 そうだ、俺が選んだのは裏の世界。表舞台に出られない者の集まる場所だ。

「とてつもなく不吉な歓迎の文句ですね」
「あら、嫌だった?」

 後悔はない。むしろ、心が弾んでいる。

「いえ。むしろ…そっちの方がワクワクしますね」

 冒険者ギルドに所属し、クエストを受け、最後は魔物を倒して勇者になる。そんな物語も面白いと思う。ヴァルキリー達がいる限り、俺にはその力がある。
 だけどもし、俺と同じように味方に騙され、苦しんだ冒険者がいたとして、魔王討伐に精を出し始めた俺が見つけられるだろうか?きっとノーだ。ハヤテ達のように、大事なことを忘れたくはない。

「ふふふ、貴方は元よりこちら側だったようね」

 マユミさんは近づいてくると、抱きしめてくれる。魔法とは違う、実体のある温かみだで、すべてを受け入れ、やさしく諭しくくれるようだ。
 目を閉じると思い出す。俺の毎日を楽しくし彩ってくれる顔を。俺の想像をかき消すように激しい音がして、脳裏に浮かんだ顔がなだれ込んできた。

「何してるんだよ…」

 執務室のドアが急に開き、ヴァルキリーたちは倒れるようにして重なった。その数7。俺の契約しているヴァルキリー全員だ。

「ちーっす、ヤマトっち」

 真っ先にカリンと目が合い、気まずそうにしながらも、ウインクとピースを埋めてくる。その体は、他のヴァルキリーたちの体に埋まっている。

「重いぞ。どいてくれないか」

 一番の下敷きになったユミネは、いつものように落ち着いた口調ながらも、不快そうに上を向いた。というか、一番したってことは一番前で聞き耳を立てていたってことだよな?
 目が合うと、俺の思っていることに気がついたのか、珍しく顔を赤くしながら、そっぽを向いてしまった。

「重いのには同感だ。腑抜けて太ったのではないよな?」

 メルロは腕をつき、立ち上がろうとするが、上手くバランスを取れずに倒れてしまう。その度に、下にいるユミネとカリンは「やめろ」「きゃっ」などと、それぞれの抵抗を示す。

「ちょっと、太ったかなんて失礼じゃない!?確かにここに来てから食べる量は増えたけど…って、きゃあ、ちょっとガラナ、どこ触ってんのよ!」
「ノー。身動きが取れません」

 仲がいいのは嬉しいことだが、なんとも目に毒な光景だ。鎧を纏ったメルロの腕がアンナの服に潜り込み、膨らみになって服の下を弄っている。位置的には脇腹あたりなんだろうけど、顔を真赤にして、今にでも火を吹きそうだ…って、比喩じゃな済まない。まじで火事になる可能性がある。
 そんな騒がしいヴァルキリーの山の頂上では、セイラが「すー、すー」といつものように寝息を立てて眠っている。うつ伏せで上手くバランスを取っていて、下がいくら揺れても落ちる様子はない。
 その隣にはもうひとり、足を組み、顎の下に手の甲をつけて高笑いをするヴァルキリーがいた。

「いい機会ね。私が一番だと刻み込んであげましょう」

 レティは下を向くと、暴れる妹達を見下ろした。

「レティ姉早くどくし!」
「そうだ、上がどかなければ動きが取れない」
「そうだ、重いんだからな」
「きゃ、あはははは…ちょっと、どこ触ってんの…って、きゃあっ!?そこはだめよ!」
「ノー、助けてください」

 下から聞こえる苦情に、レティは眉をぴくぴくと動かした。

「わたくしは太ってなんかいませんことよ!」

 声を上げると、土台にしていたラガナの背中を叩いた。振動は一気に下稀伝わり、保たれていたバランスは崩れ、ヴァルキリー達は床を転がっていく。ガチャやらドンやらぶつかる音がして、急に音は静かになった。仰向けに、うつ向けに、それぞれの体勢で、7人のヴァルキリーによる雑魚寝の風景が完成した。修学旅行で旅館に泊まっているみたいな光景に、微笑ましささえ感じた。
 やがて、寝そべっている体が一斉に震え、建物が揺れ、外では雨が振りはじめ、雷と火まで加わった。おまけに冬みたいに一気に気温が下がった。これはもう、異常気象ってレベルじゃない。

「お、おちつけ…」
「ぷ、あははははははは」

 怒りで暴れるものかと思って止めようとしたら、今度は一斉に笑い出した。もうなにがなんだかわからん。
 異常気象もいつの間にか止んでて、窓からは日が差し込み、空には虹がかかっていた。

「これは退屈しなさそうね」

 マユミさんは笑みを浮かべると、俺に向かって手を伸ばした。イレギュラーの四人も、それに習うかのように手を伸ばす。そして一斉に口を開いた。

「ようこそ、イレギュラーへ!」
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