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第2章~ヴァルキリーを連れ出せ~
ヴァルキリーを怒らせてしまったようです
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右手にはレティを、背後にはメルロを引き連れて地下の部屋を出る。城を覆っていた氷はなくなっていて、階段の下で氷像になっていたホリの姿は既にない。
代わりではないだろうが、クランレッドラグーンの重鎮三人衆がお出迎えしてくれた。
「ヤマト、今ならクランに戻ることを許してやろう」
そう言って胸を張るのは、剣聖ハヤテ。レッドラグーンのリーダーだ。さっき影を刀でぶった斬ったはずなのにピンピンしている。大した精神力だ。
「本来なら再加入は認めていない。喜ぶがいい」
腕をくんで大きく頷いているのは、聖騎士タケヤだ。背中から胸にかけてドでかい穴を開けたはずなのに、平然としている。何という頑丈さだろう。
「そうよ、感謝なさい」
黒魔道士マヤだけは、いい終えると二人の後ろに隠れた。
それにしても、何という上から目線だろうか。勝手にクランから追い出しておいて、戻ってくることを許すだと?
そんなのこっちから願い下げだ。
「何を言っているのかしら」
俺の心を代弁したのはレティだった。まさか俺をかばって…。
「シグルズはわたくしのものよ」
あーうん、レティはレティだった。
だが彼女のことを知らないヤマトたちにとっては予想外のことだったのだろう。驚いた顔を浮かべて固まっている。いまだけは、いつものように絡んできてほしかったところだ。
そんな俺の願いを叶えたのは、もうひとりのヴァルキリー、メルロだった。
「待つんだブリュンヒルデ」
良かった。メルロならまともな判断をしてくれるはずだ。
「彼はみんなのものだ」
んんん…?何を言っているんだ?
しかも真顔だ。メルロらしからぬ発言に思わず言葉を失った。
だが、レティが許すはずはなかった。
「何を言っているのかしら」
満面の笑みを浮かべながら、メルロを見つめる。顔は笑っているが、目は笑っていない。
「あまりわたくしの邪魔をするとお仕置きが必要になるわ」
「私も言いたいわけではない。ただジークルーネから伝言を頼まれていてな。悪いことをしたらお仕置き、だそうだ」
レティは髪を掻き上げると、忌々しそうに城の先を見つめた。そっちはイレギュラーの拠点があって、ジークルーネがいる方角だ。
「またあの子…本当に面倒ね」
「気になっていたんだけど、セイラはそんなにすごいのか?」
レティは答えたくないのか、珍しく俺から離れていく。残ったメルロは俺の質問に答えてくれた。
「少なくとも私は戦いたくはないな。それ以上は本人に聞いてくれ。どこまで言うことが許されるのか分からない」
セイラがヴァルキリーから怖がられているということは分かった。俺も次からは怒らせないように注意したほうがいいのか?…怒っている姿が全く想像できない。
「話し合いは終わったか?さあ、早く戻ってこい」
俺が悩んでいると、何を勘違いしたのかハヤテが高圧的な姿勢を見せてきた。
うーん…セイラは同じようなことをされたら怒るのか?後が怖そうだからやらないけど。
ああ、そうそう、ハヤテにも一応返事をしておかないとな。
「断る」
あからさまに怪訝そうな顔をした。どうしたら俺が断らないと思うのか、その思考のほうが知りたい。
「二度目はないぞ?」
「いらない」
ハヤテは顔に手を当てると、全身を震わせた。眼光の見開き、怒り狂った顔を向けると、剣を抜いた。
「ならば仕方ない。ヴァルキリーを置いてここから立ち去れ!」
「断る」
俺が言い終えると同時に、向けられていた剣が砕けた。ハヤテは武器を失ったが、剣を構えた格好のままで動きを止めている。
「小癪な真似を!タケヤ!」
「あいよ!」
盾を構えた巨体が突進してくる。一直線に向かってくる姿はイノシシのようだ。
「アークニードル!」
地面が浮き上がり、タケヤの進行方向の地面に穴が空き、尖った棘が生えてくる。盾でなんとか受け止めたが、勢いまで殺すことは出来ずに、そのまま宙に浮き上がる。大の字になったところを狙って、首と腕、腕と足、足と足の間を計5本の棘が突き刺し、タケヤを空中で拘束した。
「なにしやがる!」
必死に抜け出そうとするが、土魔法は強度が強く、簡単に破壊することは出来ない。
「先に手を出したのはそっちだろ」
もっと痛めつける必要があるだろうか?俺としてはこれで終わりにしておきたい。
その答えは残った一人に委ねることにしよう。
「マヤはどうする」
二人の後ろに隠れていた魔道士は、かばってくれる者を失って立ち往生している。下を向き、ぶつぶつとなにやら呟いている。魔法の呪文というわけではなさそうだが、本気なのは伝わってきた。
「私だってまだ…」
マヤは俺の後ろに立つヴァルキリーに目を向けた。一瞬で恐怖が浮かび、震える唇はそれ以上の言葉を紡がない。回れ右をすると、そのまま駆けだす。だがその片足は突然凍り、動きの自由を失ったマヤは顔面から転んだ。
「何をするのよ!!」
俺は何もしていない。手を出したのはレティだ。黒い髪を揺らしながら、ハヤテの横を素通りし、マヤの前に立った。
「わたしとシグルズの仲を引き裂こうとしたのは貴方よね?だめよ、いくら彼が良い男だからって人のものを取ったりしたら」
レティは右手を頬に添えると、頬を染め、うっとりした顔を浮かべる。マヤに手を出しておきながら、すでに眼中にはないようだ。
「そんなことはしていないわ!大体、そんな奴に興味はない!」
その瞬間、気温が10度ほど下がった気がした。マヤを取り巻くように氷が生まれ、天井に出来たつららは地面に落ちて砕けた。
「わたくしのシグルズを愚弄するなんて、イケない子」
「ひ、ひえ…たすけて…」
マヤは杖に力を込めると、魔法を発動する。黒魔導士の彼女は闇魔法を使うことが出来る。精神をいたぶり、体の中から崩壊させる恐ろしい魔法だ。
黒い光がレティの周囲を取り巻き、包み込もうとする。だが、ある距離を境に近づくことは出来ない。黒い光は、まるでレティ自身が生み出しているかのように彼女を包み、最後は氷に変わった。
「わたくしに対する宣戦布告かしら?いいわ、相手をしてあげる」
それは死刑宣告と同義だ。さすがのマヤも察したのだろう、すでに血の気はなく、顔を真っ青にしたまま眼光を見開いて止まった。
「ちょっとハヤテ、助けなさい!あの夜言ったじゃない。何があっても命を懸けても守るって!」
あの夜がどの夜か知らなが、そんなやりとりがあったとは。
だが当のハヤテは助けるどころか、逃げ場を探しているように見えた。レティの興味は一切向いていない今、逃げるには絶好機だ。もうひとりのヴァルキリーさえいなければ。
「どこへ行くつもりだ」
退路を断つように、メルロが立ちはだかった。
「邪魔をするな!」
払いのけようと振った腕は、余裕で掴まれた。
「なんなんだお前は!!」
「ヴァルキリーだ」
見た目で分かることを、ハヤテは気がついていなかったようだ。
たった一言で、すぐにおとなしくなった。
「さて、どう料理してさしあげましょうか」
あがくマヤの前で、レティは本気で悩んでいる。死に方を決めているのに、明日の朝食をパンにするかご飯にするか決めるぐらいの軽さだ。ちなみに俺はご飯派だが、こっちの世界に来てからは食べられていない。誰か米の作り方を教えてくれ。
「決めました。体を引きちぎって氷漬けにして、別々の場所に埋めましょう。もしかしたら優しい誰かがくっつけてくれるかもしれないわ」
バラバラ殺人の現場に、俺は今遭遇しようとしている。テレビのニュースで見たときは、酷いことをするやつもいるもんだと、他人事のように思っていたが、ふと目の前にするとすこしばかり同情もする。
「待つんだレティ」
名前を呼ぶと、冷たい表情がぱっと緩んだ。胸の前で手を合わせると、体を横に傾け、嬉しそうにはにかんだのだった。
代わりではないだろうが、クランレッドラグーンの重鎮三人衆がお出迎えしてくれた。
「ヤマト、今ならクランに戻ることを許してやろう」
そう言って胸を張るのは、剣聖ハヤテ。レッドラグーンのリーダーだ。さっき影を刀でぶった斬ったはずなのにピンピンしている。大した精神力だ。
「本来なら再加入は認めていない。喜ぶがいい」
腕をくんで大きく頷いているのは、聖騎士タケヤだ。背中から胸にかけてドでかい穴を開けたはずなのに、平然としている。何という頑丈さだろう。
「そうよ、感謝なさい」
黒魔道士マヤだけは、いい終えると二人の後ろに隠れた。
それにしても、何という上から目線だろうか。勝手にクランから追い出しておいて、戻ってくることを許すだと?
そんなのこっちから願い下げだ。
「何を言っているのかしら」
俺の心を代弁したのはレティだった。まさか俺をかばって…。
「シグルズはわたくしのものよ」
あーうん、レティはレティだった。
だが彼女のことを知らないヤマトたちにとっては予想外のことだったのだろう。驚いた顔を浮かべて固まっている。いまだけは、いつものように絡んできてほしかったところだ。
そんな俺の願いを叶えたのは、もうひとりのヴァルキリー、メルロだった。
「待つんだブリュンヒルデ」
良かった。メルロならまともな判断をしてくれるはずだ。
「彼はみんなのものだ」
んんん…?何を言っているんだ?
しかも真顔だ。メルロらしからぬ発言に思わず言葉を失った。
だが、レティが許すはずはなかった。
「何を言っているのかしら」
満面の笑みを浮かべながら、メルロを見つめる。顔は笑っているが、目は笑っていない。
「あまりわたくしの邪魔をするとお仕置きが必要になるわ」
「私も言いたいわけではない。ただジークルーネから伝言を頼まれていてな。悪いことをしたらお仕置き、だそうだ」
レティは髪を掻き上げると、忌々しそうに城の先を見つめた。そっちはイレギュラーの拠点があって、ジークルーネがいる方角だ。
「またあの子…本当に面倒ね」
「気になっていたんだけど、セイラはそんなにすごいのか?」
レティは答えたくないのか、珍しく俺から離れていく。残ったメルロは俺の質問に答えてくれた。
「少なくとも私は戦いたくはないな。それ以上は本人に聞いてくれ。どこまで言うことが許されるのか分からない」
セイラがヴァルキリーから怖がられているということは分かった。俺も次からは怒らせないように注意したほうがいいのか?…怒っている姿が全く想像できない。
「話し合いは終わったか?さあ、早く戻ってこい」
俺が悩んでいると、何を勘違いしたのかハヤテが高圧的な姿勢を見せてきた。
うーん…セイラは同じようなことをされたら怒るのか?後が怖そうだからやらないけど。
ああ、そうそう、ハヤテにも一応返事をしておかないとな。
「断る」
あからさまに怪訝そうな顔をした。どうしたら俺が断らないと思うのか、その思考のほうが知りたい。
「二度目はないぞ?」
「いらない」
ハヤテは顔に手を当てると、全身を震わせた。眼光の見開き、怒り狂った顔を向けると、剣を抜いた。
「ならば仕方ない。ヴァルキリーを置いてここから立ち去れ!」
「断る」
俺が言い終えると同時に、向けられていた剣が砕けた。ハヤテは武器を失ったが、剣を構えた格好のままで動きを止めている。
「小癪な真似を!タケヤ!」
「あいよ!」
盾を構えた巨体が突進してくる。一直線に向かってくる姿はイノシシのようだ。
「アークニードル!」
地面が浮き上がり、タケヤの進行方向の地面に穴が空き、尖った棘が生えてくる。盾でなんとか受け止めたが、勢いまで殺すことは出来ずに、そのまま宙に浮き上がる。大の字になったところを狙って、首と腕、腕と足、足と足の間を計5本の棘が突き刺し、タケヤを空中で拘束した。
「なにしやがる!」
必死に抜け出そうとするが、土魔法は強度が強く、簡単に破壊することは出来ない。
「先に手を出したのはそっちだろ」
もっと痛めつける必要があるだろうか?俺としてはこれで終わりにしておきたい。
その答えは残った一人に委ねることにしよう。
「マヤはどうする」
二人の後ろに隠れていた魔道士は、かばってくれる者を失って立ち往生している。下を向き、ぶつぶつとなにやら呟いている。魔法の呪文というわけではなさそうだが、本気なのは伝わってきた。
「私だってまだ…」
マヤは俺の後ろに立つヴァルキリーに目を向けた。一瞬で恐怖が浮かび、震える唇はそれ以上の言葉を紡がない。回れ右をすると、そのまま駆けだす。だがその片足は突然凍り、動きの自由を失ったマヤは顔面から転んだ。
「何をするのよ!!」
俺は何もしていない。手を出したのはレティだ。黒い髪を揺らしながら、ハヤテの横を素通りし、マヤの前に立った。
「わたしとシグルズの仲を引き裂こうとしたのは貴方よね?だめよ、いくら彼が良い男だからって人のものを取ったりしたら」
レティは右手を頬に添えると、頬を染め、うっとりした顔を浮かべる。マヤに手を出しておきながら、すでに眼中にはないようだ。
「そんなことはしていないわ!大体、そんな奴に興味はない!」
その瞬間、気温が10度ほど下がった気がした。マヤを取り巻くように氷が生まれ、天井に出来たつららは地面に落ちて砕けた。
「わたくしのシグルズを愚弄するなんて、イケない子」
「ひ、ひえ…たすけて…」
マヤは杖に力を込めると、魔法を発動する。黒魔導士の彼女は闇魔法を使うことが出来る。精神をいたぶり、体の中から崩壊させる恐ろしい魔法だ。
黒い光がレティの周囲を取り巻き、包み込もうとする。だが、ある距離を境に近づくことは出来ない。黒い光は、まるでレティ自身が生み出しているかのように彼女を包み、最後は氷に変わった。
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あの夜がどの夜か知らなが、そんなやりとりがあったとは。
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「どこへ行くつもりだ」
退路を断つように、メルロが立ちはだかった。
「邪魔をするな!」
払いのけようと振った腕は、余裕で掴まれた。
「なんなんだお前は!!」
「ヴァルキリーだ」
見た目で分かることを、ハヤテは気がついていなかったようだ。
たった一言で、すぐにおとなしくなった。
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あがくマヤの前で、レティは本気で悩んでいる。死に方を決めているのに、明日の朝食をパンにするかご飯にするか決めるぐらいの軽さだ。ちなみに俺はご飯派だが、こっちの世界に来てからは食べられていない。誰か米の作り方を教えてくれ。
「決めました。体を引きちぎって氷漬けにして、別々の場所に埋めましょう。もしかしたら優しい誰かがくっつけてくれるかもしれないわ」
バラバラ殺人の現場に、俺は今遭遇しようとしている。テレビのニュースで見たときは、酷いことをするやつもいるもんだと、他人事のように思っていたが、ふと目の前にするとすこしばかり同情もする。
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