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第2章~ヴァルキリーを連れ出せ~

ギルドの冒険者が立ちはだかります

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 第5支社は切り立った崖が目印の高い山の上にあった。まともに登ろうとすれば、崖崩れや突風、様々な自然災害に襲われ、頂上にたどり着くことが出来るのはごく一部だ。
 安全に登る手段があるとすれば、空路だけ。天馬に乗ることが出来れば障害はない。

 俺は迷うことなく空路を選んだ。そんなことは容易に予想が出来たのだろう。山の周囲には、天馬の群れが待ち受けていた。その首に光るのはシルバーのギルド証。彼らはレッドラグーンの冒険者ではなく、ギルドから派遣されてきた冒険者達だ。

「待っていたぞ、反逆者ヤマト」

 群れの中心から女の声が響いた。天馬が散り、そこにいたのは、俺と同じように背中に羽根を生やした女剣士だ。彼女は人の身でありながら、こう呼ばれることを許されている。
 
 天使。
 その正体は、6つの加護を得た冒険者、ギルドで最強とも名高いプラチナランクのラフテイだ。

「随分と手厚いご歓迎なことで」
「ほう、余裕なのだな」

 精いっぱいの皮肉を込めたつもりだったが、ラフテルは俺を見下ろし(みおろし)ながら、表情一つ変えない。どうやら俺の実力を測っているようだ。
 はっきり言って驚いた。俺はレッドラグーンの中でも無名だ。ラフテルほどの実力者であれば、問答無用で襲いかかってきてもおかしくない。

「俺はヴァルキリーに会いに来ただけだ。道を開けてくれないか」
「断る」

 交渉決裂だ。当然か。彼女は俺をヴァルキリーに近づけさせないためにここにいて、俺はヴァルキリーに会いに行きたい。話し合いが成立する要素などどこにもない。

「そんじゃあさいなら」

 一気に加速して横を通り抜ける…はずだったが、俺はUターンさせられた。
 首を切り落とすには完璧なタイミングで、剣が降りかざされたのだ。避けられたのはもう、ただの勘、もしかしたらヴァルキリーの誰かが守ってくれたのかもしれない。

「これは驚いた。かすりもしないとは」

 ラフテルの剣は白い光を帯び、長さは倍近くになっていた。光魔法による属性付与だ。軽減できるのは闇魔法による消滅だけだ。
 だが、無理に相手をする必要もない。剣の形状をしている以上、リーチに入りさえしなければ問題ない。
 
「加速っ」

 再び強行突破を試みる。かなり大回りで、剣と届かない距離を意識する。なのに、目の前を剣が振られたような風が吹き抜け、前髪が散った。
 その正体は光の遠距離魔法、ホーリーレイだ。本来ならば光の光線を飛ばす程度で、物理的ダメージはない。だがラフテルは、魔法を剣に重ねることで、物理的特性も付与している。前髪で済んだからよかったものの、あと数センチ前に出ていたら真っ二つになっていたところだ。

「発動するタイミングを誤ったか?」

 ラフテルは剣と俺を交互に見ると、首を怪訝な顔を浮かべた。その姿に満身はなかったが、圧倒的なまでの自信を感じた。まるで、光の刃を外したことはないとまでの。

 右に旋回すると、更に距離を取ってはま左に旋回。突破を試みる。

「甘いわ!」

 結果は先程と同じだった。光の刃が、俺の向かおうとした先を通過していった。今度はフェイントだけですぐに止まったから無傷だ。だが確信した。ラフテルには、俺がどうやって動くのかが分かっている。
 こいつは控えめに言って、絶体絶命というやつではないだろうか。

「ここを通りたければ私と戦え!」

 ラフテルは一気に距離を詰めてくると、勢いと体重を乗せた一撃をぶつけてくる。

「インベントリ…刀!」

 ミサからもらった刀を手に構える。この瞬間、ヴァルキリー、シュヴァルトライテの持つ武器への加護が発動する。今の俺は侍だ。目線や筋肉の動きから、どうすれば対処できるのかが分かる。

 カキン。
 金属と金属が振れる音がして、俺は体勢を崩した。

 無意識に刃で受け流したが、刀は中心で真っ二つになり、はるか下まで落ちていく。
 加護が、一瞬で打ち破られた!?嘘だろ!?こんなはずが…。

 焦っている間にも、ラフテルは手を緩めるなどと温情を与えてはくれない。今度は俺の心臓めがけて襲い掛かってくる。

「ガイアニードル!」

 崖の表面から鋭いトゲが生え、行く手を阻む。だが足止めにすらならない。トゲとトゲのわずかなが間をすり抜け、さらに速度を上げる。
 
「アイスシールド!」

 氷で盾を作り、攻撃を受け止めようとする。だが、氷はあっさり砕け、ラフテルの顔が真ん前に現れる。
 真剣な表情ですら美しい。ああ、これが天使か。
 見とれたように動けずにいると、彼女の剣が俺を斬った。体が勢いよく後ろに飛び、大の字で崖に埋まった。そのことに気が付いたのは、ドゴーンと激しい音がして、体が動かなかったからだ。痛みはない。だが、動く気力がない。
 
 無防備な俺に天使ラフテルは冷たい目を向けてくる。髪がなびき、彼女の後ろにもう一人、別のシルエットが重なった。実際にいるのではない。後押しする乙女ーヴァルキリーだ。

「まさか、ヴァルキリーと契約しているのか?」
「ほう…見えるのか」

 初めてラフテルの表情が変わった。感心したような顔を浮かべたがそれもほんの僅かな一瞬。すぐに冷たい目を浮かべる。

「残念ながらな」

 見えているから分かってしまった。そのヴァルキリーは、俺と契約している誰よりも強い力を持っている。

 誰なんだ?
 俺の疑問に、眠そうな顔をしていそうな声が答える。

 …レギンヘイヴ。

「レギンヘイヴだと?」
「ほう、彼女のことを知っているとは驚いた。ならば君は勝てないことにも気づいているのであろう?」

 ラフテルの剣は向きを変え、頭上からまっすぐに振り下ろされる。あー、俺は、死ぬのか?
 なんとなしに顔を見つめる。無表情のままでそしていきなり、驚きを浮かべた。

「ヴァルキリーが邪魔をするだと?」

 天使の剣を、緑の光を纏った剣が受け止めていた。
 胸から下を鎧に包み、深い緑色のおさげ髪を揺らす凛々しき乙女。彼女の名前はメルロ。俺が連れ出しに来たヴァルキリーだ。

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