上 下
21 / 56
第2章~ヴァルキリーを連れ出せ~

いよいよ因縁の相手との直接対決です

しおりを挟む
「この火災の原因はアンタね。許さないわ!」

 どの口が言うんだよ…。どう考えても部屋に勝手に押しかけてアンナを怒らせたのが原因じゃねえか。

「さすがマヤ様。犯人は現場に戻るとはお見事です!」

 取り巻きまでアホだったー!?それもそうか、まともな奴がいたら俺は追放なんてされてないか。

「何か言い残すことはあるかしら?一応聞いておいてあげるわ。右から左にね」
「聞くつもりねえじゃないか…そもそもなんもないけど」
「そう、じゃあ死になさい!」

 殺人予告を合図に、魔術師一行は呪文を唱え始める。

「炎よ、巨大な紅蓮の業火となりて、焼き払え」

 連携魔法だ。全員の魔力を一つにして、大きな炎を作り出している。
 そういえば俺たちはまだクランの魔法陣の上にいたな。

「アンナ、その魔法陣に力を供給しなくていいぞ」
「あ、そうなんだ」

 あっさりと答えると、地面の魔法陣から光が失わていく。それに呼応するように、大きな炎もしぼんでいく。

「なにをしているの!?」

 マヤはただただ叫ぶ。火魔法の加護が失われたことにも気が付かず。
 その間にも炎は小さくなっていき、空気中ではじけて消えていき、おとりまき様達は肩で息をしながら膝をついた。

「帰っていいか?」
「まだよ!まだ私たちは負けてはいない…闇よ、帳を下ろし、かの者の命を食らえ!」

 闇魔法、シャドウイート。対象の魔力を奪い、時には命の危機にさえ陥らせる精神魔法だ。
 だが残念。俺にはラガナから与えられた鈍感、精神魔法への耐性がある。

「さあ、苦しみなさい!」
「うわー、やられたー」

 可愛そうなので、両手をあげて前に倒れてみた。大根役者なんてレベルじゃない。小学生でももっとましな演技をしそうだ。

「さすがですマヤ様!」
「素晴らしいですマヤ様!」

 嘘だろ!?とりまきは歓声を上げると、元気を取り戻し、立ち上がった。
 これにはアンナも呆れている。

「ふっふふ、私は最強なのよ!さあ、ひれ伏せ!泣いて罪を償いなさい!」

 腰に手を当てると、高笑いを始める。うーん……小者臭が半端ないな。
 一応これでも巨大クランレッドラグーンで二番目に偉いんだけどな。

「飽きたんだけど」

 アンナに言われて俺も立ち上がる。うん、飽きたな。

「帰るか……」
「そうね」

 立ち去ろうとすると、叫び声がした。

「ちょっと、何勝手に立ち上がってんのよ!土下座なさい!」
「断る」

 俺は野球盤ゲームで負けたわけ覚えはない。再戦を申し込んでくるのならばアンナの方からだ。

「ちょっと君たち、遅くないかい?」

 瓦礫の上を歩いてきたのは、外で待機していたはずのユミネだった。それもあろうことか、マヤ達側からやってきて、あ、囲まれた。

「彼女はご友人かしら?じゃあこうなったらどうする?」

 マヤはナイフを取り出すと、あろうことかユミネの首元に突き付けた。

「最悪だな」
「そうでしょ、そうでしょ、さあ、土下座なさい!」

 なぜそこまで土下座に拘るのだろうか。相変わらず高笑いを続けているが、自分の身の心配をした方がいいのではないだろうか?

「君、誰に向かってそのような態度をとっているんだい?」

 ユミネはご立腹だ。あまり不機嫌になることはないんだけど、庭園の時から怒ってばかりだ。今日一日で、過去に見た怒りの総量をすでに越えているんじゃなかろうか。

「あら、ご自分の立場が分かっていないようで?」
「ヤマト、バーニングでいいよ」

 あ、うん。死んだわ、マヤが。

「ねえ、私の部屋に入ってきたのはアンタの仲間よね?」
「そうね。だったら何かしら?」
「バーニング!!」

 マヤが燃えた。一瞬で全身が炎に包まれ、装備が服が燃えていく。

「うがああああああああああああああああああああああああああああああ」

 執念からか、燃えながらもユミネを解放する様子はない。必死にナイフで首を切ろうと手を動かすが、頼みの刃物は灰になっている。

「まったく、グリムゲルデに頼んだ覚えはないんだがな。さすがに少し熱いよ」
「これでも手加減してあげてるんだから」

 全身から発火するマヤを前にして、ユミネは平然としてる。髪の先が少し焦げはしたが、見たところ無傷だ。

「あまり暴力は好きじゃないんだが、さすがにムカついたよね」

 ユミネは頭一個分ぐらいある瓦礫を拾うと、マヤの頭に打ちつけた。
 うわぁ…考えるだけでいたいぞそりゃ。

 当然マヤが耐えられるはずもなく、気絶した。体中から焦げた臭いと煙を出している。
 素っ裸ではあるが、色気もなんもない。とりまきも終始見ていたが、恐怖のあまり声をだすことも出来ずにいる。

「帰るか……」

 意図せずとして第2支社を制圧した俺の名は、一瞬でギルドに広まることになった。反逆者として。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!

鏑木 うりこ
ファンタジー
 幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。 勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた! 「家庭菜園だけかよーー!」  元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?  大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...