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彼女と彼は旅を続ける
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彼女が彼と出会って5年が経った。
少年だった彼は成長し、立派な青年になった。
その容姿は、すれ違った相手が振り返るほどに整っていて、見知らぬ女に声をかけられることも少なくない。
だが近づいてきた女たちは、彼女を見るとすぐに離れていく。
彼女は無自覚ながら、ものすごい威圧感を放っていた。
それは独占欲とでも呼ぶべきだろうか。
殺意にも近いその視線に、半端な気持ちで近づく女が耐えられるはずがなかった。
もちろん、近づいてきたのはそのへんの女だけではない。
冒険者の女もいる。
女冒険者たちは、彼が優秀な冒険者だと知っている。
財産や功績を狙いで、時には色じかけをしてくることもあった。
それはいつも彼の隣にいる彼女への当てつけにも思えた。
彼女は小柄で、お世辞にも色気があるとは言えない。
人混みでは常にローブを被っていて、その顔を見たことがある者もいない。
だから彼以外のの冒険者は、彼女の顔立ちが整っていて、一度見たら二度と忘れない美しさと可愛らしさを秘めていることを知らない。
だから彼は、そのへんの女冒険者に興味を持たない。
いや、そもそもとして、彼は外見で人を判断するような人物でなかった。
彼は気づいていた。
自分が彼女に惹かれていることに。
そんなある日のことだった。
彼女と彼は雲の上にある宮殿の前にいた。
たどり着いたのは本当に偶然で、彼女も戸惑っていた。
なにせ雲の上の宮殿なんて来るのははじめてだ。
どんなモンスターがいるのかもどんなトラップがあるのかも知らない。
彼と一緒に旅を始めてから、はじめての無力感を彼女は感じていた。
どうしたらいいのか必死に考える。だけど答えは出ない。
だって彼女には、答えにたどり着くための情報が一切ないのだから。
「行ってみようか」
そう言ったのは彼だった。
彼女は否定も肯定もしない。
考えることに精いっぱいで反応できずにいる。
「危なそうだったら引き返せばいい」
彼の言葉に彼女はようやくうなずいた。
結論から言えば、洞窟の中には何もいなかった。
壁一面には七色に光る窓があり、外の光を受けて輝く。
床には赤いカーペットが敷かれていて、奥へと続いている。
まるで式場のような場所。
彼女と彼は警戒しながらも赤い道を進んだ。
最奥まで進むと宝箱が置かれていた。
彼女は彼に目で合図を送った。気を付けたほうがいいと。
彼が宝箱に近づくために一歩前に進んだ。
その時、窓から差し込む光の角度が変わった。
宝箱の前には光の柱が出来上がり、中では人影が動いた。
「お客さんとは珍しいね」
影はそう言った。
正体は分からない。だけど少なくとも敵意は感じない。
「そんなに睨まなくても大丈夫。 ボクは君らの敵ではない」
彼女には影が笑ったように見えた。
「来客は珍しいからね。 少し話をしたくなったのさ」
影は光から飛び出し、白い羽をはやした天使が姿を現した。
「歓迎するよ。 人間と……おや君は、こいつは珍しい」
天使の視線は彼女を見て止まった。
彼女は見た目では普通の人間だ。しかもかなり幼く見える。
だが実際は200年以上生きている。
死ねない定めを背負わされてしまったのだ。
「それは祝福か、あるいは呪いか」
彼女は答えない。だが少なくとも、最初の200年は呪いだと思っていた。
人間として生きたいのに、人間とは時の流れが違いすぎた。
人間にとっての10年は”10年も”なのに、彼女にとっての10年は”たったの10年”だった。
「もし君が死を望むならまた来るといい。 力になるよ」
天使は再び光の中に消えていく。
「そうそう、宝箱の中身はトラップじゃないよ。 出会えた記念だ、ぜひ持っていっておくれ」
光は完全に消え、声も聞こえなくなった。
彼は宝箱に近づくと、ふたを開けた。
中に入っていたのは指輪だった。
リングは白と青が入り混じり、宝石は透き通った青をしている。
この世のものとは思えない美しさに、彼女は思わず目を奪われた。
彼は指輪を手にすると彼女の前で差し出した。
「これは君のものだ」
彼女は思わず、左手の薬指を差し出した。
彼は少し戸惑ったような笑みを浮かべたが、それでも彼女の要望に応えた。
彼女の表情は変わらない。
だけど、じっと指輪を見つめるその目は、いつもよりも熱を帯びていた。
少年だった彼は成長し、立派な青年になった。
その容姿は、すれ違った相手が振り返るほどに整っていて、見知らぬ女に声をかけられることも少なくない。
だが近づいてきた女たちは、彼女を見るとすぐに離れていく。
彼女は無自覚ながら、ものすごい威圧感を放っていた。
それは独占欲とでも呼ぶべきだろうか。
殺意にも近いその視線に、半端な気持ちで近づく女が耐えられるはずがなかった。
もちろん、近づいてきたのはそのへんの女だけではない。
冒険者の女もいる。
女冒険者たちは、彼が優秀な冒険者だと知っている。
財産や功績を狙いで、時には色じかけをしてくることもあった。
それはいつも彼の隣にいる彼女への当てつけにも思えた。
彼女は小柄で、お世辞にも色気があるとは言えない。
人混みでは常にローブを被っていて、その顔を見たことがある者もいない。
だから彼以外のの冒険者は、彼女の顔立ちが整っていて、一度見たら二度と忘れない美しさと可愛らしさを秘めていることを知らない。
だから彼は、そのへんの女冒険者に興味を持たない。
いや、そもそもとして、彼は外見で人を判断するような人物でなかった。
彼は気づいていた。
自分が彼女に惹かれていることに。
そんなある日のことだった。
彼女と彼は雲の上にある宮殿の前にいた。
たどり着いたのは本当に偶然で、彼女も戸惑っていた。
なにせ雲の上の宮殿なんて来るのははじめてだ。
どんなモンスターがいるのかもどんなトラップがあるのかも知らない。
彼と一緒に旅を始めてから、はじめての無力感を彼女は感じていた。
どうしたらいいのか必死に考える。だけど答えは出ない。
だって彼女には、答えにたどり着くための情報が一切ないのだから。
「行ってみようか」
そう言ったのは彼だった。
彼女は否定も肯定もしない。
考えることに精いっぱいで反応できずにいる。
「危なそうだったら引き返せばいい」
彼の言葉に彼女はようやくうなずいた。
結論から言えば、洞窟の中には何もいなかった。
壁一面には七色に光る窓があり、外の光を受けて輝く。
床には赤いカーペットが敷かれていて、奥へと続いている。
まるで式場のような場所。
彼女と彼は警戒しながらも赤い道を進んだ。
最奥まで進むと宝箱が置かれていた。
彼女は彼に目で合図を送った。気を付けたほうがいいと。
彼が宝箱に近づくために一歩前に進んだ。
その時、窓から差し込む光の角度が変わった。
宝箱の前には光の柱が出来上がり、中では人影が動いた。
「お客さんとは珍しいね」
影はそう言った。
正体は分からない。だけど少なくとも敵意は感じない。
「そんなに睨まなくても大丈夫。 ボクは君らの敵ではない」
彼女には影が笑ったように見えた。
「来客は珍しいからね。 少し話をしたくなったのさ」
影は光から飛び出し、白い羽をはやした天使が姿を現した。
「歓迎するよ。 人間と……おや君は、こいつは珍しい」
天使の視線は彼女を見て止まった。
彼女は見た目では普通の人間だ。しかもかなり幼く見える。
だが実際は200年以上生きている。
死ねない定めを背負わされてしまったのだ。
「それは祝福か、あるいは呪いか」
彼女は答えない。だが少なくとも、最初の200年は呪いだと思っていた。
人間として生きたいのに、人間とは時の流れが違いすぎた。
人間にとっての10年は”10年も”なのに、彼女にとっての10年は”たったの10年”だった。
「もし君が死を望むならまた来るといい。 力になるよ」
天使は再び光の中に消えていく。
「そうそう、宝箱の中身はトラップじゃないよ。 出会えた記念だ、ぜひ持っていっておくれ」
光は完全に消え、声も聞こえなくなった。
彼は宝箱に近づくと、ふたを開けた。
中に入っていたのは指輪だった。
リングは白と青が入り混じり、宝石は透き通った青をしている。
この世のものとは思えない美しさに、彼女は思わず目を奪われた。
彼は指輪を手にすると彼女の前で差し出した。
「これは君のものだ」
彼女は思わず、左手の薬指を差し出した。
彼は少し戸惑ったような笑みを浮かべたが、それでも彼女の要望に応えた。
彼女の表情は変わらない。
だけど、じっと指輪を見つめるその目は、いつもよりも熱を帯びていた。
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