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彼女と彼と冒険者
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彼女に職業はなかった。強いて職業をつけるとするならば、観測者といったところだろうか。
200年生きている中で、周囲への熱意を失っていた。
だが興味がなくなったわけではなく、淡々と変化を見つめていた。
彼女の経験と知性は、ダンジョン攻略ではとても役に立った。
出会うモンスターの弱点からダンジョンのトラップまで、彼女はすべてお見通しだ。
そのおかげで、多分100年ぐらい前には、冒険者と行動をともにし、利用されたこともあった。
冒険者たちは実績が増えていくことに喜び、そして驕っていった。
自分たちに力があると思い込み、実力以上の難易度のダンジョンに挑んだ。
モンスターとの戦いでボロボロになり、最後はトラップに引っかかって崖の下に落ちていった。
その姿を彼女は、最後尾で見つめていた。
彼女は何も感じなかった。だって分かっていたから。
その冒険者たちがダンジョンの中で命を落とすことを。
100年の時を生きる彼女にとって、その冒険者たちは今たまたま一緒にいる相手に過ぎなかった。
共にいたのは1年と少しで、彼女にとっては些細な時間に過ぎなかった。
ダンジョン攻略の道具として使われていた彼女にとって、冒険者たちは暇つぶしの道具でしかなかった。
それから100年、冒険者と関わることなく過ごしていた彼女は彼に出会った。
城下町の武器屋でのことだった。
冒険者と関わりを持たなくなった彼女が、なぜそんな場所にいたのかは今となっては分からない。
それでも事実として言えるのは、彼女はたまたまそこにいて、たまたまいた彼に話かけた。
彼女は内向的で、本来ならば自分から話しかけたりはしない。
だけどこのときの彼女は、なぜか彼に話しかけていた。
経験からくる直感が彼女をそうさせたのかもしれない。
あるいはずっとひとりでいた寂しさが彼女をそうさせたのかもしれない。
だって最後に冒険者と関わってから100年が過ぎていたから。
「その武器はあなたには合わないよ」
彼女がそう告げると、彼は驚いた顔を浮かべた。
当時の彼は15歳で、冒険者になって1年がたった頃だった。
たった1年にしては彼は功績をあげている方だったが、満足はしていなかった。
そして彼は、アドバイスをしてくれる冒険者がいなくて、話しかけてもらってとても嬉しかったと後日語った。
だがそんな彼の心境を彼女は知る由もない。
話しかけてから少し後悔した。慣れないことをやったせいか、心臓がバクバク言っていた。
彼の次の言葉を聞くのが怖くて、その場から立ち去ろうと考えた。
そんな時だった。
「やっぱりか」
彼は短く呟いた。そして彼女に言った。
「どんな武器が合うだろうか」
彼女は即答できなかった。彼の持っている武器が合わないことは確信があった。
だが合う武器を答えるとなると、知るべきことがありすぎた。
彼がどんな冒険者を目指しているのか。
共に旅をする仲間はいるのか。
いるならどんな職業が集まっているのか。
すべてを考慮しなければ、彼に合う武器を答えられなかった。
こんなことを言うと面倒くさがられる。
彼女はかつて一緒にいた冒険者を思い出し、確信していた。
だが彼は違った。
彼女が思っていることを伝えると、話をしようと場所を変えた。
そして彼は自分のことを包み隠さず話した。
なぜ冒険者になったのか。
冒険者になって何をしたいのか。
彼の武器を決めるために必要な情報をすべて話した。
結論だけ言えば、彼はソロで、仲間はいなかった。
自分の思うままに冒険をしたい。
だから仲間を増やすつもりもない。
無駄ないざこざはしたくない。
彼はそう語っていた。
そして彼のその考え方は、彼女にとっても魅力的に聞こえた。
欲望まみれの冒険者と違い、とても純粋に映った。
彼は好奇心旺盛で、それでいて慎重だった。
彼女の言葉をよく聞き、すべて実践した。
体が細いから毎日筋トレをしろと言えば、その日の夜からはじめた。
挑戦したいダンジョンが無理だと伝えれば、理由を聞いて徹底的に準備をした。
そして1日の終わりには、彼女への感謝の言葉を口にした。
今日を生きられたのは彼女のおかげだと。
明日が楽しみなのは彼女のおかげだと。
そんなことを言われても彼女は無表情だった。
いや正確には、どう反応したらいいのか分からなかった。
だって彼女は200年の間、感謝の言葉なんて言われたことがなかったから。
彼の反応はとても新鮮で、思っていることを素直に伝えるようになっていた。
彼がダンジョンを攻略できるようにと必死に考えた。
気づけば彼は、冒険者ギルドでも有名になっていた。
それでも彼は変わらない。
自分が興味を持った依頼にしか興味を示さない。
そして依頼を受ける前には、決まって彼女に確認した。
とは言え、彼はすべてを丸投げしていたわけではない。
受ける受けないは自分で決めていたし、無理なクエストも理解していた。
興味があるけど難しいかもしれない。
そんな時に彼女に聞いていた。
そして彼女は、聞かれることを嬉しく感じるようになっていた。
だってそれは、一緒にクエストに行こうと誘われているようだったから。
嬉しくはあったが、彼女はすべてのクエストにイエスとは答えない。
無理なら無理とはっきり言う。
その感情が何なのか、彼女自身はまだ気がついていなかった。
彼女が無理だと伝えても、彼は態度を変えなかった。
それどころか、ありがとうと伝えた。
彼女には、彼の心境は理解できない。
それでも、一緒にいられると分かって内心では安堵していた。
200年生きている中で、周囲への熱意を失っていた。
だが興味がなくなったわけではなく、淡々と変化を見つめていた。
彼女の経験と知性は、ダンジョン攻略ではとても役に立った。
出会うモンスターの弱点からダンジョンのトラップまで、彼女はすべてお見通しだ。
そのおかげで、多分100年ぐらい前には、冒険者と行動をともにし、利用されたこともあった。
冒険者たちは実績が増えていくことに喜び、そして驕っていった。
自分たちに力があると思い込み、実力以上の難易度のダンジョンに挑んだ。
モンスターとの戦いでボロボロになり、最後はトラップに引っかかって崖の下に落ちていった。
その姿を彼女は、最後尾で見つめていた。
彼女は何も感じなかった。だって分かっていたから。
その冒険者たちがダンジョンの中で命を落とすことを。
100年の時を生きる彼女にとって、その冒険者たちは今たまたま一緒にいる相手に過ぎなかった。
共にいたのは1年と少しで、彼女にとっては些細な時間に過ぎなかった。
ダンジョン攻略の道具として使われていた彼女にとって、冒険者たちは暇つぶしの道具でしかなかった。
それから100年、冒険者と関わることなく過ごしていた彼女は彼に出会った。
城下町の武器屋でのことだった。
冒険者と関わりを持たなくなった彼女が、なぜそんな場所にいたのかは今となっては分からない。
それでも事実として言えるのは、彼女はたまたまそこにいて、たまたまいた彼に話かけた。
彼女は内向的で、本来ならば自分から話しかけたりはしない。
だけどこのときの彼女は、なぜか彼に話しかけていた。
経験からくる直感が彼女をそうさせたのかもしれない。
あるいはずっとひとりでいた寂しさが彼女をそうさせたのかもしれない。
だって最後に冒険者と関わってから100年が過ぎていたから。
「その武器はあなたには合わないよ」
彼女がそう告げると、彼は驚いた顔を浮かべた。
当時の彼は15歳で、冒険者になって1年がたった頃だった。
たった1年にしては彼は功績をあげている方だったが、満足はしていなかった。
そして彼は、アドバイスをしてくれる冒険者がいなくて、話しかけてもらってとても嬉しかったと後日語った。
だがそんな彼の心境を彼女は知る由もない。
話しかけてから少し後悔した。慣れないことをやったせいか、心臓がバクバク言っていた。
彼の次の言葉を聞くのが怖くて、その場から立ち去ろうと考えた。
そんな時だった。
「やっぱりか」
彼は短く呟いた。そして彼女に言った。
「どんな武器が合うだろうか」
彼女は即答できなかった。彼の持っている武器が合わないことは確信があった。
だが合う武器を答えるとなると、知るべきことがありすぎた。
彼がどんな冒険者を目指しているのか。
共に旅をする仲間はいるのか。
いるならどんな職業が集まっているのか。
すべてを考慮しなければ、彼に合う武器を答えられなかった。
こんなことを言うと面倒くさがられる。
彼女はかつて一緒にいた冒険者を思い出し、確信していた。
だが彼は違った。
彼女が思っていることを伝えると、話をしようと場所を変えた。
そして彼は自分のことを包み隠さず話した。
なぜ冒険者になったのか。
冒険者になって何をしたいのか。
彼の武器を決めるために必要な情報をすべて話した。
結論だけ言えば、彼はソロで、仲間はいなかった。
自分の思うままに冒険をしたい。
だから仲間を増やすつもりもない。
無駄ないざこざはしたくない。
彼はそう語っていた。
そして彼のその考え方は、彼女にとっても魅力的に聞こえた。
欲望まみれの冒険者と違い、とても純粋に映った。
彼は好奇心旺盛で、それでいて慎重だった。
彼女の言葉をよく聞き、すべて実践した。
体が細いから毎日筋トレをしろと言えば、その日の夜からはじめた。
挑戦したいダンジョンが無理だと伝えれば、理由を聞いて徹底的に準備をした。
そして1日の終わりには、彼女への感謝の言葉を口にした。
今日を生きられたのは彼女のおかげだと。
明日が楽しみなのは彼女のおかげだと。
そんなことを言われても彼女は無表情だった。
いや正確には、どう反応したらいいのか分からなかった。
だって彼女は200年の間、感謝の言葉なんて言われたことがなかったから。
彼の反応はとても新鮮で、思っていることを素直に伝えるようになっていた。
彼がダンジョンを攻略できるようにと必死に考えた。
気づけば彼は、冒険者ギルドでも有名になっていた。
それでも彼は変わらない。
自分が興味を持った依頼にしか興味を示さない。
そして依頼を受ける前には、決まって彼女に確認した。
とは言え、彼はすべてを丸投げしていたわけではない。
受ける受けないは自分で決めていたし、無理なクエストも理解していた。
興味があるけど難しいかもしれない。
そんな時に彼女に聞いていた。
そして彼女は、聞かれることを嬉しく感じるようになっていた。
だってそれは、一緒にクエストに行こうと誘われているようだったから。
嬉しくはあったが、彼女はすべてのクエストにイエスとは答えない。
無理なら無理とはっきり言う。
その感情が何なのか、彼女自身はまだ気がついていなかった。
彼女が無理だと伝えても、彼は態度を変えなかった。
それどころか、ありがとうと伝えた。
彼女には、彼の心境は理解できない。
それでも、一緒にいられると分かって内心では安堵していた。
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