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精霊解放

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「わたしなら大丈夫ですよ」
 
 エイラがそう言った。
 けどこれは…エイラじゃない?

「初めまして。私はシルフィード。貴方たちで言うところの精霊です」
「これはご丁寧にどうも。ミキヤだ」
「疑わないのですね」

 精霊は不思議そうな顔を浮かべた。

「変な現象は見慣れたからな。それで言いたいことは何だ?」
「私を彼女の体から分離させてください」
「いいのか?アンタは消えないか?」

 まさに俺が悩んでいたことだった。

「心配ありません。しばらくすれば元に戻ります」
「それでエイラは不安がらないか?」

 エイラは精霊を救うために来たんだ。
 話もせず、いなくなられたら消えたと思ってもおかしくはない。

「彼女とはすでに話してあります」
「手が早いな」
「それで、貴方にはお願いがあるんです」
「なんだ?」
「我が娘、エイラを救っていただきたいのです」

 やけに神妙に言うから何事かと思えば、そんなことか。
 
「当然だ。だが気になる言い方だな。普通に魔力を抜くとやっぱり死ぬのか?」
「はい。ですので精霊の生命力をわずかに残します」
「右耳みたいにか」
「はい。ですが、出来れば一か所にではなく全身に流したいのです」

 想像が出来なかった。精霊の魔力が全身に流れると死ぬ。それが常識だ。
 
「時間が経てば、彼女の体に同化し、無害になります。今回のように私の力の影響を受けることはなくなるでしょう」
「話は分かった。それで俺にどうしろと?」
「全身に精霊の力を流し続けるのは精密な管理が必要になります。管理を誤れば彼女は死にます」
「そいつはまた大仕事だな。赤ん坊でも生まれたみたいだ」

 夜泣きしないだけましだろうか。

「期間は?」
「人の年月にして約1年」

 本気で赤ん坊じゃねえか。

「そんなもんでいいのか。いいぞ」
「即答ですか。さすがに驚きました」
「どうせしばらくはぶらぶらするつもりだしな」

 旅のお供が一人増えるぐらいなら問題ない。
 元より目的なんてないんだからな。

「では必要な情報を貴方に流します。お使いください」

 シルフィードは俺の頭に手を当てると、脳には情報が流れ込んでくる。
 それは精霊を構成するすべてだ。

 その気になれば、精霊の存在自体を書き換えることが出来る。

 俺の思考に気が付いたのか、フィルフィードはにっこりと笑った。

「貴方なら同胞を救ってくれるかもしれません」
「悪用するかもしれないぞ?」
「悪用する人はそんなことを言いませんよ。それではお願いします」

 そう言うと、シルフィードの気配は消えていき、制御を失ったエイラの体が倒れて来た。

「これは確信犯なのか?」

 眠るエイラの顔を胸に、首を傾げるのだった。

「さて、始めますか」
「ことにミキヤ、どうやって分離するのじゃ」
「簡単だ。ほら」

 そう言って指パッチンをすると、全身から緑の力があふれ出す。
 
「これはすごいのう。1つぐらいもらってもよいか?」
「言いわけあるか。キノコでも食っとけ」
「うむ、そうじゃな」

 魔力より食い意地。面白い魔族だな。
 魔力はゆっくり消えていき、最後にはシルフィードが笑った気がした。

「それでコネよ」
「なんじゃ藪から棒に」
「少し寝る。護衛を頼む」
「まったく、魔族使いの荒い奴じゃのう」

 仕方ないだろ…魔族の魔力を借りないと使えないほどの魔法陣を作ったんだ。
 頭がパンクするわ。

 って、やば。

 エイラを抱えたまま寝そべったもんだから、添い寝するみたいになった。
 まあいいか。

 目を閉じると、布団を掛けられた。
 ったく、無駄に気の利く魔族だよ。
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