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【エイラ視点】精霊使いはゾンビである
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【エイラ】
「そうか、精霊使いなんだな」
「な、どうしてそれを…」
「今調べた」
目の前の魔力回路師は平然と言うと、納得したような顔を浮かべていた。
どうして?
怖いと思わないの?
精霊使いになるためには、一度死にかける必要があるのだ。
それをたまたま精霊に救われたのが精霊使い…精霊に使われる者だ。
つまり私は、ゾンビなのだ。
「ゾンビなんて我が家にはいりません!」
そう言って家を追い出されたことは今でも忘れない。
☆☆☆
私は名門の家に生まれ、将来は領主になることを期待されて育った。
家は大きなお屋敷で、庭は広く、使用人も大勢いた。
何も不自由はなかった。
両親も家庭教師も優しくて、毎日が楽しかった。
たったひとつ、実技の授業を除いては。
私は生まれつき魔力が弱く、回路を作ることが出来なかった。
それでも、練習すれば魔力は強くなると言われ、発動もしない魔法陣をいくつも書かされた。
子供の落書きのような絵が、お屋敷の庭にはたくさん書かれた。
毎日毎日、何時間も続けた。
だが、いくらやっても魔法は上達しなかった。
先生は困った顔を浮かべていた。
お父様とお母様はさぞかし悲しんでいるのだろう。そう思ってお屋敷を歩く毎日だ。
だが、ふたりはいつも優しく笑いかけてくれた。
「どうして私は魔法を使えないんだろう…」
悔しかった。悲しかった。
みんなの期待に答えられない自分が。
時間があれば書庫に行き、役に立ちそうな本を探した。
そんなある日、声が聞こえた。
「魔法を使いたいのですね」
それは耳元で聞こえた気がする。
びっくりして振り返ったが、誰もいない。だけどはっきりと存在を感じる。
「それが貴方の望みならば叶えましょう」
「誰かわからないけど…お願い!私は魔法を使いたい!」
「分かりました」
声が消えると、感じていた存在もどこかに行ってしまった。
次の日、私は初めて魔法を使うことが出来た。
先生は驚き、泣き、喜びながら両親を呼びに行った。
「よかった、喜んでもらえる…」
だが、願いは叶わなかった。
両親がやってくる頃には、私は意識を失い、そのまま目を覚ますことはなかった。
「ごめんなさい」
深い眠りの中で声が聞こえた。
温かい光で体が満たされ、私は目を覚ました。
「ここはどこだろう?」
真っ暗でとても冷たい。
まるで金属の箱の中にでもいる気分だ。
無理やりそこから抜け出すと、周りにはたくさんの墓標があった。
「どうして私はこんなところに…あ、それよりもお腹が空いた。今何時だろう?早く帰らないとみんな心配するよね」
いつものように食卓に向かうと、いつもは優しいお母様とお父様の顔は険しかった。
そういえば私、気を失ったんだっけ。
心配かけちゃったかな?
「あのね、お父様、お母様」
声をかけようとして思わず固まった。
お父様もお母様も私に冷たい。
「なぜここにいる」
「なぜって…何を言っているの、お父様?朝食の時間でしょ?」
「ゾンビよ!死んだ人間が生き返るはずがないわ!追い出して頂戴!」
お母様は叫ぶと、警備の人たちを呼んで私を追い出した。
「どうして、私が何か悪いことをしたの!?それなら謝るから!!」
「ゾンビなんて我が家にはいりません!!」
門は閉じられ、再び開くことはなかった。
☆☆☆
精霊使いと分かっても、態度を変えなかったのはこの男で2人目だった。
1人目は私を育ててくれたお母さんだ。
あれ?身内以外、それも男だと初めてじゃない?
気がついた途端に、何を言ったらいいのかわからなくなってくる。
「気持ち悪い…魔力回路師ってやっぱりそうなのね…」
思わず悪態をついてしまった。
そうじゃない。そんなことを言いたいんじゃない。
「そうよね、初対面で追っかけまわして触ろうとしてくるような奴よね。魔力回路師で納得だわ」
「おいおい、凄い偏見だな」
魔力回路師は呆れたように笑った。
「いいえ、アンタで二人目。確定だわ!」
私は何を言っているの!?
前に変な魔力回路師に会ったことがあるけど、この人は多分違う。
「まあいいや。ついて来るなら好きにしていいぞ」
「その代わりに服を脱げって言うつもりね!」
私の暴言は、自分でも分かるぐらいに照れ隠しだった。
だが、この男は気がついていないようだ。
「どっかで聞いたセリフだな…言わない言わない」
言われ慣れているのか、適当にあしらわれた。
何よ、私はこんなに緊張しているのに…なんかムカいてきた。
「行くのか行かないのかどっちだ」
「い、行くわ!」
「決まってるなら細かいことはいいだろ」
「だけど…」
確かにそうなんだけど、言われるがままになっているみたいで嫌だ。
「迷っている間に俺の問いに答えろ。行くなら名前を言え。言わないなら置いていく」
それだけ言うと、さっさと歩き出した。
このままでは置いていかれる。それは嫌だ!
「エイラ!エイラよ!!って…止まりなさいよ!ちゃんと名前を言ったじゃない!!!」
私が名前を言っても男は止まらない。
慌てて駆け寄っても一向にこちらを見ようとはしない。
もしかして嫌われた?
無言の時間が重く感じる。
そのまま森に進んでいき、模様の書かれた壁が見えてきた。
目的地だったのだろう。魔力回路師の表情が真剣なものに変わっていく。
そして、私を無視して動き続けた足は止まった。
「なあ、もしここで服を脱げって言ったらどうする」
「え、えーっと…ここまで来ちゃったし…でもここは奥だから誰も来ないし…あーもう、変なこと言わないでよ!」
何よ、やっぱり変態なんじゃない!?
びっくりしすぎて変な反応しちゃったし…あーもう、なんか可愛そうな子を見るような目を向けられてるし最悪…。
「それだけ元気なら大丈夫だな。行くぞエイラ、ああそういえば俺の名前を言ってなかったな。ミキヤだ」
そう言ってミキヤは懐を弄ると、石みたいなのを壁に向けた。
壁の模様は消えていき、どこかに繋がく道が開かれた。
驚いて見つめていると、ミキヤは先に進んでいく。
マズイ、今度こそ置いていかれる。
そう思って踏み出そうとした瞬間、手を掴まれた。
「早くしろ」
ぶっきらぼうな言い方とは反対に、手を引く力は優しかった。
この人は安全だ。
この人ならきっと、精霊を救ってくれる。
「そうか、精霊使いなんだな」
「な、どうしてそれを…」
「今調べた」
目の前の魔力回路師は平然と言うと、納得したような顔を浮かべていた。
どうして?
怖いと思わないの?
精霊使いになるためには、一度死にかける必要があるのだ。
それをたまたま精霊に救われたのが精霊使い…精霊に使われる者だ。
つまり私は、ゾンビなのだ。
「ゾンビなんて我が家にはいりません!」
そう言って家を追い出されたことは今でも忘れない。
☆☆☆
私は名門の家に生まれ、将来は領主になることを期待されて育った。
家は大きなお屋敷で、庭は広く、使用人も大勢いた。
何も不自由はなかった。
両親も家庭教師も優しくて、毎日が楽しかった。
たったひとつ、実技の授業を除いては。
私は生まれつき魔力が弱く、回路を作ることが出来なかった。
それでも、練習すれば魔力は強くなると言われ、発動もしない魔法陣をいくつも書かされた。
子供の落書きのような絵が、お屋敷の庭にはたくさん書かれた。
毎日毎日、何時間も続けた。
だが、いくらやっても魔法は上達しなかった。
先生は困った顔を浮かべていた。
お父様とお母様はさぞかし悲しんでいるのだろう。そう思ってお屋敷を歩く毎日だ。
だが、ふたりはいつも優しく笑いかけてくれた。
「どうして私は魔法を使えないんだろう…」
悔しかった。悲しかった。
みんなの期待に答えられない自分が。
時間があれば書庫に行き、役に立ちそうな本を探した。
そんなある日、声が聞こえた。
「魔法を使いたいのですね」
それは耳元で聞こえた気がする。
びっくりして振り返ったが、誰もいない。だけどはっきりと存在を感じる。
「それが貴方の望みならば叶えましょう」
「誰かわからないけど…お願い!私は魔法を使いたい!」
「分かりました」
声が消えると、感じていた存在もどこかに行ってしまった。
次の日、私は初めて魔法を使うことが出来た。
先生は驚き、泣き、喜びながら両親を呼びに行った。
「よかった、喜んでもらえる…」
だが、願いは叶わなかった。
両親がやってくる頃には、私は意識を失い、そのまま目を覚ますことはなかった。
「ごめんなさい」
深い眠りの中で声が聞こえた。
温かい光で体が満たされ、私は目を覚ました。
「ここはどこだろう?」
真っ暗でとても冷たい。
まるで金属の箱の中にでもいる気分だ。
無理やりそこから抜け出すと、周りにはたくさんの墓標があった。
「どうして私はこんなところに…あ、それよりもお腹が空いた。今何時だろう?早く帰らないとみんな心配するよね」
いつものように食卓に向かうと、いつもは優しいお母様とお父様の顔は険しかった。
そういえば私、気を失ったんだっけ。
心配かけちゃったかな?
「あのね、お父様、お母様」
声をかけようとして思わず固まった。
お父様もお母様も私に冷たい。
「なぜここにいる」
「なぜって…何を言っているの、お父様?朝食の時間でしょ?」
「ゾンビよ!死んだ人間が生き返るはずがないわ!追い出して頂戴!」
お母様は叫ぶと、警備の人たちを呼んで私を追い出した。
「どうして、私が何か悪いことをしたの!?それなら謝るから!!」
「ゾンビなんて我が家にはいりません!!」
門は閉じられ、再び開くことはなかった。
☆☆☆
精霊使いと分かっても、態度を変えなかったのはこの男で2人目だった。
1人目は私を育ててくれたお母さんだ。
あれ?身内以外、それも男だと初めてじゃない?
気がついた途端に、何を言ったらいいのかわからなくなってくる。
「気持ち悪い…魔力回路師ってやっぱりそうなのね…」
思わず悪態をついてしまった。
そうじゃない。そんなことを言いたいんじゃない。
「そうよね、初対面で追っかけまわして触ろうとしてくるような奴よね。魔力回路師で納得だわ」
「おいおい、凄い偏見だな」
魔力回路師は呆れたように笑った。
「いいえ、アンタで二人目。確定だわ!」
私は何を言っているの!?
前に変な魔力回路師に会ったことがあるけど、この人は多分違う。
「まあいいや。ついて来るなら好きにしていいぞ」
「その代わりに服を脱げって言うつもりね!」
私の暴言は、自分でも分かるぐらいに照れ隠しだった。
だが、この男は気がついていないようだ。
「どっかで聞いたセリフだな…言わない言わない」
言われ慣れているのか、適当にあしらわれた。
何よ、私はこんなに緊張しているのに…なんかムカいてきた。
「行くのか行かないのかどっちだ」
「い、行くわ!」
「決まってるなら細かいことはいいだろ」
「だけど…」
確かにそうなんだけど、言われるがままになっているみたいで嫌だ。
「迷っている間に俺の問いに答えろ。行くなら名前を言え。言わないなら置いていく」
それだけ言うと、さっさと歩き出した。
このままでは置いていかれる。それは嫌だ!
「エイラ!エイラよ!!って…止まりなさいよ!ちゃんと名前を言ったじゃない!!!」
私が名前を言っても男は止まらない。
慌てて駆け寄っても一向にこちらを見ようとはしない。
もしかして嫌われた?
無言の時間が重く感じる。
そのまま森に進んでいき、模様の書かれた壁が見えてきた。
目的地だったのだろう。魔力回路師の表情が真剣なものに変わっていく。
そして、私を無視して動き続けた足は止まった。
「なあ、もしここで服を脱げって言ったらどうする」
「え、えーっと…ここまで来ちゃったし…でもここは奥だから誰も来ないし…あーもう、変なこと言わないでよ!」
何よ、やっぱり変態なんじゃない!?
びっくりしすぎて変な反応しちゃったし…あーもう、なんか可愛そうな子を見るような目を向けられてるし最悪…。
「それだけ元気なら大丈夫だな。行くぞエイラ、ああそういえば俺の名前を言ってなかったな。ミキヤだ」
そう言ってミキヤは懐を弄ると、石みたいなのを壁に向けた。
壁の模様は消えていき、どこかに繋がく道が開かれた。
驚いて見つめていると、ミキヤは先に進んでいく。
マズイ、今度こそ置いていかれる。
そう思って踏み出そうとした瞬間、手を掴まれた。
「早くしろ」
ぶっきらぼうな言い方とは反対に、手を引く力は優しかった。
この人は安全だ。
この人ならきっと、精霊を救ってくれる。
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