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ブリリアント4姉妹の再会

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 ギルドに戻るとベヒーモス討伐報告は既になされていた。
 さすがエーミット、仕事が早い。

 受付嬢のサユリは、俺がクエストに向かった後のことを教えてくれた。
 主にケディのことだ。
 クエストを他のメンバーに押し付けようとして、最後まで非を認めなかったようだ。
 それがギルドマスターの逆鱗に触れ、ギルドだけでなく、国外追放になった。

 元パーティメンバーのサクマとレントは事実を告白。
 2週間の謹慎となった。

 ここまで出てきた名前は想像通りだ。
 だが、最後に出て来た名前には驚いた。

「カナはどこに行ったの?」

 魔力回路師カナが同行していたと言うのだ。
 洞窟を出てすぐに別れたので、現在の行方は分からないらしい。

「すみません、一応捜索はしていますが、ギルドとしての優先順位は低いです」

 サクマとレントの主張により、カナには何の責任もないとみなされていた。

「それは仕方ないわ。それよりも問題は、どうしてカナが彼らに加わったかってことよ」
「男好きなんだろ?それだけじゃダメなのか?」
「それは…そうなんだけど…なんか違和感が…」

 ミサキはもやもやを言葉に出来ないようでいらいらしていた。
 その隣のサクラは力なく笑うだけだ。

「先輩、いいでしょうか?」
「なんだ、タエ」

 俺が頷くと、タエは静かに話し出す。

「カナは回路を作るために男の人に接触することはあっても、クエストまで一緒にいくことはなかったはずです」
「そう、それよ!」
「そういうことか」

 確かに、危険なクエストまで一緒に行くメリットはない。
 そもそもブリリアント4姉妹として活動していたんだ。そんな時間もないはずだ。

「じゃあどうして、よりにもよってあいつらと一緒にいたんだ?」

 疑問は膨らむばかりだ。
 みんなで首をかしげていると、エーミットがやって来た。
 その顔は険しく、犯罪者でも捕まえてきたかのようだ。
 
 彼の後ろには、女の子がいた。
 小柄で可愛らしく、とても悪さをするような子には見えない。
 
「「「カナっ」」」

 声が上がったのは同時だった。
 ブリリアント3姉妹はついに、4人目と出会うことが出来たのだ。

 3人は涙を浮かべて喜んだが、カナだけは下を向いたままだ。

「カナ、今までどこにいたの?」
「そうよ、探したのよ」

 心配そうに声を掛けられても、カナは口を横に結んだままで答えない。
 
「エーミット、彼女は何をしたんだ?」
「人身売買です」
「は?」

 予想外の言葉に変な声が出た。

「捕まえた男を売っていたのか?」
「いえ、売られる側です…というか売り込んでました」
「売り込む?」
「はい。どんなことでもするから自分を買わないか、と」
「それは本当ですか?」

 タエは俺たちの近くに来ると、エーミットよりも更に険しい顔を浮かべた。

「信じられないかもしれないですが…」

 振り返ると、カナはサクラとミサキに責めたてられている。
 だがまるで、届いていないようだ。

 それにしても妙だな…。

 カナの魔力回路はボロボロだ。
 呼吸をするのと同じ感覚で、俺達魔力回路師は体内の回路を維持している。
 
 それが出来ていない。

 それだけじゃない。
 俺の勘が正しければ、回路師の器官が機能していない。

「とにかく話を聞いてみよう…って、タエ?」

 先に歩き始めた俺の追い抜くとタエはカナの前に立った。
 サクラとミサキは驚いた顔をしていたが、静かに状況を見守る。
 やがて、タエの手が動き、パシッと小気味いい音が響き渡った。

「痛い…」

 ずっと無言だったカナは、よくや口を開き、顔を上げた。

「当り前だよ。勝手にいなくなって、迷惑をかけて、無言なんて許さない」

 いつものタエとはまるで別人だった。
 そして、多分無意識に、目に魔力が集まっている。

「どうして逃げたの」
「それは…」
「回路を作れなくなるから?」

 カナは目を見開くと、すぐにそらした。

「気づいてたんだ…いつから?」
「ずっと前から。多分、魔王の部下と戦った1週間後ぐらい」

 カナの目からは涙がこぼれた。

「きっといつか言ってくれると思ってた」
「ごめん」

「男の人に反応するようになったのもその後からだよね?」
「ごめん」

「どうしていなくなったの?」
「ごめん」

 何を言っても、カナは謝るばかりだ。
 それでも、タエの目魔眼に見つめられた彼女は動くことが出来ない。

 だがこれでは、あまりにもカナがかわいそうだ。
 言いたいことも言えないだろう。

「タエ、それぐらいにしておけ」
「先輩の言葉でも今は無理です」

 いつものいい子はいなかった。 
 ならば仕方ない。

「コネクト」

 魔力をタエの体につなげる。
 これは…初めての感覚だ。
 
 タエの中に魔力回路はない。
 魔力が意志を持っているかのように、自然とその目に集まっているのだ。
 
 集まった魔力は一つ一つ独立していて、つながってはいない。
 魔力が密集したことで神経が活性化され、魔眼は発動したようだ。

 だったら魔力を移動させれば魔眼は消える。
 
 タエの中に回路を作ると、魔力は自然と流れ出す。
 それでも強情な魔力体がいくつかあったので、細い回路を何本もつなげて無理やり小さくした。
 
 やがて魔眼は消え、拘束が解けたカナは膝から崩れ落ちた。

「あれ?」

 同時に、タエも力が抜けたかのようにふらついた。
 予想がついていた俺は、後ろでその小さな体を抱きとめた。

「頭を冷やせ」
「先輩…ごめんなさい」
「それじゃあさっきのカナと同じだな」

 俺のジョークに、誰も笑ってくれなかった。

「サユリ、空いている部屋はあるか?」
「すぐに手配します」

 それから俺たちは、用意された会議室に移動した。
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