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昇格~敵の実力~

先輩現る

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 近くあった舞踏場へと舞台は移された。
 うちのクラスだけでなく、隣のクラスの奴らまで見物に来ている。

「なかなか面白興業をやっていますわね、笹ヶ瀬先生」

 ピンクの髪の女がねっとりとした声で言った。
 両目が閉じられていて、表情がわかりにくい。

「これぐらいした方が生徒のやる気もあがるので。試しに柳瀬先生も導入してみては?」
「私はそんな物騒なことはしませんよ」

 なんだか分からないが、教師同士でにらみ合っている。
 どうやら仲はよろしくないらしい。

「ではどうして見に来たんだ?」 
「わたしだって興味はありますわよ。学年主席を押しのけて、生き残った生徒さんには」

 どうやら俺は、自分で思っているよりも注目されているらしい。
 あいつを殺すタイミングを見誤ったか?

 まあいい。
 起きたことはどうしようもない。

 それよりも今の戦いをどう乗り越えるかだ。

「準備は出来ているか?」

 眼鏡は、殺意を乗せた剣先を向けてくる。
 手加減は無用ってわけか。

「ああ、いいぜ」
 
 俺は、準備室から借りて来た剣を向けた。
 うーん、リーチの短い武器は力の加減が分からない。
 これなら適当な棒を拾ってきた方がましだったな。

「今からこの石を投げる。地面に落ちたタイミングが試合開始の合図だ」

 担任は俺たちの間に立つと、石を放り投げた。
 落ちるまではあと3秒。さて、眼鏡はどう来る?
 2秒。体が後ろに傾いた。
 1秒。腰をかがめた。
 0秒。走った。

「はあっ!」

 一瞬で距離を詰めてくると、まっすぐに首を狙ってきた。
 そいつを剣で弾くと、見下したように笑った。

「ほう、生きるつもりはあったか」

 挑発にしてはつまらない言葉だ。
 が、バカにした態度をとるだけのことはある。

 さっきの一撃、一瞬でも反応が遅れていたらやられていた。

「来ないならこちらから行くぞ!」
 
 再び、眼鏡が動いた。
 だが動きは単調だ。これなら先に攻撃を当てられる!
 今度はこっちが首を落とす番だ。

 今だ!

 手にしている武器を振った…が、感触はない。
 しまった!
 こいつは槍ではなく、剣だ。
 攻撃の範囲は圧倒的に短い。
 
 空振りをした俺を見て、眼鏡がほくそ笑むのが見えた。
 だがまだだ、狙いはわかっている。

 90度体をそらすと、さっきまで胸があった場所を、剣はすり抜けていった。

「随分と体が柔らかいのだな。それに奇妙だ」

 見つめるのは俺の剣だった。

「君は本気で俺を倒しに来た。それだけではない。倒せると確信していた。だが、その空振り。実に奇妙だ。まるで、普段はもっとリーチの長い武器を使っている様だ 
 
 こいつ、この短時間でそこまで分析しやがったのか。
 油断ならない。

「それともう一つ。君は俺の動きを見ていない。まるでそこに来るのがわかっているかのように、先に動いている」

 この舞踏場の周りにはには背の高い木が何本もあっていて、影を落としている。
 俺と眼鏡の影がそこから離れないようにさえ気を付ければ、相手の動きなどお見通しだ。
 影と影がつながっている限り、俺が負けることはない。


「さて、どんな手品を使っているのか…」
「あー何やってんのーーーーーー」

 離れた場所から、やたら騒がしい声が聞こえてきた。
 こいつには聞き覚えがある。

 振り向くと、やっぱりいた。
 真っ白な髪をなびかせて、目をこれでもかとばかりに広げ、俺を指さしている。

「カケルじゃない!なんでいるの!?てかなんて大志と戦ってるの?私も混ぜてよ!」

 腕を体の前にくっつけ、体をうねられながらまくしたててくる。
 駄々っ子かよ、まったく。
 有無を言わさずまくし立ててくるもんだから、すぐ横で言われているぐらいにはっきり聞こえる。

「あーもう、騒がしい!今はサボっていた後輩に制裁を加えていたところだ!邪魔をするな!」
「制裁を?カケルに?嘘ーウケるぅー」

 今度はお腹を抱えてゲラゲラと笑い出した。
 本当に忙しいやつだ。

 彼女のことを知らない連中は、何事かとざわつき始めた。

「制裁を加えるのはいいんだけどさ、ねえカケル、どうしてそんな短い得物を持っているの?」
「これしかなかったんだよ」
「確かにそれじゃあ、サボっているって思われても仕方がないわね。アナタは私、陽同院咲ようどういんさきが認めた相手よ。簡単に負けるなんて認めないわ」

 陽同院咲。
 その名前に、何事かと見つめていた奴らも騒ぎ立てる。

 魔術師ならば彼女の名を知らないとさえ言われる若手のホープ。
 そのランクはBでもうすぐAに上がるとさえ言われている。

「そこのあなた良いものを持っているわね。ちょっと借りてもいいかしら?」
「え、はい。いいですけど?」

 近くにいた奴から、槍を掻っ攫うと、咲は片手で構えた。

「さあ、受け取りなさい!」
 
 投げられた槍は、俺の前で地面に刺さった。
 まったく、強引だな。

「勝手に逃げ場を塞ぐのはやめてほしいんだけどな…」

 仕方なく、さっきより長い得物を手に取った。
 やはり、こちらの方がしっくりくる。
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