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VSバハムート

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「随分と余裕そうだな」

 皮肉と焦りが込もった。
 黒猫に文句を言っても仕方がない。

 そんなことは分かっている。
 それでも、余裕でいられるような状況ではない。

「ひとまず防げばいいのかい?」

 黒猫は、食事の誘いでもするかのように、軽く言ってみせる。

「それが出来たら苦労はしないって」
「簡単なことさ。僕が全てを受け止めよう」

 二足歩行になると、前足を広げた。
「さあ飛び込んでこい」と言わんばかりだ。

「そんな簡単そうに言われても」
「簡単さ。君は一度同じことをやっているじゃないか」

 俺が?

 心当たりがない。
 広範囲に渡る同時攻撃。
 そんなものがあったか?

「あの盾君に触手を集中させたじゃないか」
「盾君ってボーラのことか?」
「名前なんてどうでもいいさ。とにかく、あの時と同じようにやるといい」

 本当にそれで助かるのか?
 確証はない。

 だけど一つ、大きな事実は存在する。
 過去に何度も、黒猫には救われてきている。

 だったら今回も、頼らせてもらう!

「強化っ、強化っ、強化っ」

 そもそも黒猫に俺の強化魔法が効くのか?
 そう思ったのは、強化魔法を唱えてからのことだった。

 上空の炎は一気に降り注ぐ。

 ベニロスに、セシルに、それから…この場にいる全員に向かって。

 炎の対象は一人ひとりで、落ちる方向はまばらだ。
 決して、黒猫だけを襲ったりはない。

「だめなのかっ」

 そうだよな。
 そんなうまい話はないよな。
 諦めかけたその時、またも呑気な声がした。

「おっと忘れていたよ。顕現っ」

 黒猫がそう言った瞬間、炎の軌道が変わった。
 そのすべてが一斉に、黒猫に突撃していく。

「流石に炎は食べられないな。どうせなら美味しいもののほうが良かったのだけれど」

 ベニロスみたいなことを言いながら、黒猫は漆黒の炎に包まれる。
 本当に良かったのか?
 もしこれで、黒猫が死んじまったとしたら…。
 それは俺が殺したのと同じなんじゃないのか?

 いつしか、同じことを思った気がする。
 あれは確か、ヒドラと戦った時だ。

「心配には及ばないさ」

 炎の中心から声がしたかと思うと、漆黒は一気に消え去った。

「残念だったね黒龍。そうだ、邪魔したついでにもっと面白い見世物をしようじゃないか」

 黒猫のもとに、リリアが駆け寄った。

「そのお声、あなたはもしや」
「おっと聖女よ、それ以上は禁句だ。君にやってほしいことはただ一つ。寝ている奴らを起こしてやってくれ」

 軽い口調は変わらない。
 けれど、リリアの発言ははっきりと拒否した。

「ですが、どうすれば」
「セイクリッドヒールを範囲魔法にしてしまえばいい」

 当たり前のように言われ、リリアは顔をしかめた。

「そんなことができるのですか?」
「出来るさ。ああ、僕には無理だよ。けれどここにはもうひとりいる」

 そう言って、黒猫は俺の肩に降り立った。

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