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赤の勇者がやってきた

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「というのが俺が聞いた話だよ」

 赤の勇者の敗北について教えてくれたのは、遠方からやってきたと言う冒険者だった。

「ありがとう。なかなか興味深い話だった」

 白の勇者パーティの支援もあり、強化屋の仕事は軌道に乗っていた。
 今では常連客もできて、毎日来てくれる人だっている。

「しかし悪運の強い連中だな。ドラゴンに負けたのに生き延びるなんて」

 Sランクモンスターとの戦いは死闘だ。
 殺るか殺られるか。
 常にその緊張感に立たされることになる。

「それにさ、赤の勇者のパーティに4人目がいるなんて知らなかったから驚いたよ」

 その4人目は全く役に立たず、戦闘の途中に姿を消したようだったが。

「それで、負けた赤の勇者のパーティはどうしているんだ?」

 俺が尋ねると、冒険者は答えてくれる。

「さてな。風の噂では本当の4人目を見つけに行っているとか聞いたが、それの真偽もわからないな」

 ゆっくりと話をしていると、馬車が通過し、地面が激しく揺れた。
 俺の強化屋は冒険者施設の集まった一角、その中でも通りに面した好立地をあてがわれた。
 元々は老冒険者が店を開いていたが、体力の限界で引退を考えていたらしく、快く明け渡してくれた。

「それにしても今日は馬車が多いな」

 さっきので10台目か。
 物流が盛んとはいえ、いつもはこの半分ぐらいだ。

「なんでも遠方で大旅行があったらしい。その集団はここを通るらしいから、ちょうどそれが今日なのかもな」
「遠方ってのはどのあたりなんだ?」
「レッドマウンテンのあたりだったかな」

 その名前を聞いた途端に、嫌な予感がよぎった。
 レッドマウンテンはその名の通り真っ赤な山で、モンスターが多く生息している。
 冒険者にとって、格好の狩場の一つで、そこをメインで活動しているパーティの一つが赤の勇者のパーティだ。

「そんなまさかな」

 と思いたかったが、冒険者施設には騒がしい声が響き渡った。

「おい、クソ野郎はどこにいるっ」

 聞かれた店の主人は怯え、首を横に振るばかりだ。
 そりゃあそうだ、クソ野郎とだけ言われても、誰を探しているかなんてわかりっこない。

「仕方がない。金にはならないが、こうなったら一件ずつ見ていくしかない」

 盗賊まがいのことを言い出したこいつらは、れっきとした冒険者だ。
 それもかなりの手慣れで、証として真っ赤な防具と真っ赤な武器を携えている。

「なんだよあいつらは…随分と柄の悪い連中だけど…」

 冒険者は怯えながらもチラッと目をやる。
 間が悪いことに目が合ってしまい、真っ赤な装備の集団は近づいてきた。

「おいてめえ、なんか文句でもあんのか?」
「い、いや別に…赤い装備なんて見慣れないものだからつい気になって」
 
 いかにもな言い訳だったが、パーティは上機嫌に笑い出す。

「そうだろそうだろ。なにせ俺達は強いからな」
「ああ、金さえくれればどんな敵も倒すことを約束しよう」
「ついでに美味いものも頼む」

 口々に言う三人を、俺は見間違うはずがない。
 こいつらはついさっきの話に出ていた、赤の勇者のパーティだ。
 
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