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白の勇者のクエスト

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 ひとまず、知っている情報を共有していく。

「そのロガーオトモだけど、既に死んでいるしいぞ」
「なるほど、先程から棒立ちなのはそのせいか」

 セシルはじっとロガーを見つめる。
 散々な扱いをしてきた割には、俺の言葉を疑う素振りは見えない。

「あっさり信じるんだな」

 セシルは剣を杖代わりにして立ち上がる。

「流石に余裕がなくてね、猫の手でも借りたい気分だ」
「そいつはちょうどいい。俺が今さっき伝えたのは猫の知識だ」
「なるほどね」

 セシルは立ち上がると、俺を見つめる。

「本来ならばリリアの客人の手を借りたくなかったんだがね。すまない、力を貸してほしい」

 言葉はいつもと変わらなかったが、焦っているのは十分伝わってきた。
 
 それでも、すぐには協力しようとは思えなかった。
 さっきまで俺をガン無視していたんだ。
 それがピンチだから力を貸せと言われても言われて、いい気はしない。

「客人?てっきり石ころぐらいに思われているのかと思っていたよ」

 精一杯の皮肉を込めたが、セシルは微笑みを浮かべた。
 男だと知らなかったら、うっかり惚れてしまいそうな、綺麗な笑みだ。

「そう思われても仕方ない態度を取ったとは思っているよ。けれどね、リリアがあんなに楽しそうなのは初めて見たんだ。もし君が傷つけばどんな顔をするか、そう思ったら戦わせたくはなかった」

 リリアは今も戦っている。
 戦闘中に楽しそうにするはずはなく、真剣な顔で杖を振り、傷ついた仲間を癒やし続ける。

 その笑顔が可愛らしいことを俺は知っている。
 俺だけじゃない。白の勇者のパーティもだ。

「まさか、俺を戦闘に参加させないためにあえて無視していたのか?」
「疎外感を与えれば、協力しようとは思わないだろ?」

 リリアの笑顔を守るために、全員が悪役に回ったってのか?
 おいおい、白の勇者のパーティはどんだけリリアのことが好きなんだよ…。

「お気に召してくれたかい?」
「ああ。呆れて協力する気にはなったよ」

 さっきの1割減の皮肉に、今度は苦笑いが返ってきた。
 俺の返答も想定済みってか?

「協力してほしいと言っておいて身勝手なのだが、怪我だけはしないでくれよ?」
「大丈夫だ、俺に戦闘能力はない。前に出たりはしないさ」

 嘘をついた。
 強化魔法を使えば、俺だって戦える。

 だがそんなことをすれば、リリアが悲しむ。
 約束を破り、万が一、いや兆が一で怪我でもしてみろ。
 大事おおごとになりかねないし、そんなことはあってはいけない。

 こんなことを思うのは、白の勇者のパーティに毒されているんだろうか?

「だけど、面白い芸当は出来る。強化っ」

 俺の腕から発せられた光はセシルを包み込む。
 セシルは驚いた顔を浮かべると、ぐるぐると腕を回した。

「無詠唱…それにこの効力…凄いな、想像以上だ。体は軽いし、傷は治っていく」
「そりゃどうも」

 想定通りの結果に、特に感慨はない。
 それよりも、ロガーとルーア。二体をどう倒すかのほうが重要だ。

「いい目だな。それで猫の知識的にはどうやったらあの悪魔を倒せるんだい?」
「ちょっと待ってくれ」

 黒猫は暖を求めてか、マフラーみたいに首に巻き付いている。
 それから目が合うと、可笑しそうに笑った。
 
「ルーアは三つ目の悪魔だ。見えている二つの目はあくまでも補助で三つ目が本体だよ。本体は離れたところから全体を見つめている」
「つまりその目を潰せばいいのか」
 
 黒猫はそれ以上答えない。
 あくびをすると、役目は終えたとばかりに腕の中に移動し、丸くなった。

「目がもう一つある。そいつを探すんだ」

 セシルが頷いたのを確認すると、俺も一歩前に出るのだった。
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