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氷竜ヒドラと目覚めた黒猫
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村に戻ると、村長への報告も早々に泊まる場所を用意してもらった。
前に赤の勇者達と泊まった家だったのは不快だったが、リリアの状態を考えると文句を言ってはいられなかった。
「強化っ」
回復促進と、もろもろの耐性アップを付与すると、布団の上に座らせた。
本当は着替えさせたほうがいいのだろうが、勝手に服を脱がせるわけにもいかない。
「流石にローブは寝にくいよな?宿でも脱いでたし。自分で脱げるか?」
リリアは薄く目を開けると、両手を上に向けた。
脱がせろ、ということらしい。
お姫様の執事だったら毎日こんなことをやっているのだろうか?
なんて、ちょっとそれたことを考えたのは、きっと現実逃避だ。
脱がせたローブの下は露出の多い服をしていて、肌色の面積がやたら多い。
おまけに腕を上げているもんだから、綺麗な脇が目の前にあった。
「えーっと…寒くないか?」
「うん、大丈夫…」
リリアは力なく答えると、自分で布団に潜っていった。
「ごめんなさい、私が安易に突っ込んだせいで」
「言いたいことがあるなら元気になってからな」
紅く染まった頬と、さっき見た脇を忘れるために視線をそらす。
お、ちょうどいいところに黒猫が。
こいつを撫でて落ち着こう。
「ごめん…いえ、ありがとう。そうさせてもらうわ」
それからものの数秒で、リリアは眠った。
宿の時もそうだったが、寝付きは相当いいらしい。
「これで一安心か。あとは起きた時のために薬草を用意してっと…」
立ち上がろうとして、膝の上で邪魔をするものがあった。
黒猫だ。
撫でていたせいか、いつもより気持ちよさそうに寝息を立てている。
「悪いけど、こっちで寝ていてくれ」
優しく掴むと、びくっと体が動いた。
それでも目を覚まししたわけではなかったので静かに枕の横に置いた。
「流石に寒いか?」
部屋の隅に転がっていたタオルケットを、布団代わりにかけておく。
「ちゃんと眠っているな」
一人と一匹。
それぞれの寝顔を見つめながら、俺は一人で家を出た。
「強化っ」
防犯用に、家の出入りを制限する。
これで中に入れるのは、勇者のパーティぐらいだ。
冷たかった村の空気は幾分かはましになり、薄手の長袖で歩けるぐらいになっていた。
それでも、外で遊ぶ子供も、井戸端会議をするおばちゃんもいない。
ヒドラがいなくなっても、すぐに恐怖が消えるわけではない。
数カ月後に、安心して遊べるようになっていればそれでいい。
そんなことを思いながら、木の下で立ち止まった。
「ここならいいかな」
ヒドラの恐怖は消えた。
村人がすぐには信じられないのと同じように、洞窟での出来事は俺にとっても信じがたいものだった。
「強化っ」
身体強化をすると、木をぶん殴った。
ぐらぐらと二度三度揺れて、木は地面に倒れた。
「夢じゃなかったんだな」
軽く殴ったつもりだったのに、効果は想像を越えていた。
これならひとりでも戦えるんじゃないか?
そんな錯覚さえしてくる。
「いやいや落ち着け、思い上がるな。一人でクエストをこなす冒険者がどこにいる」
今日のリリアを見ただろ?
どれだけ強かったって、油断や想定外はあり得る。
それを補ってくれるのがパーティだ。
「戻るか」
実を言えば、体はかなり疲れていた。
横になったらすぐに眠ってしまいそうだ。
ここまで意識を保てたのはリリアの存在があってこそだ。
赤の冒険者のパーティを追い出された。
一時はどうなることかと思ったが、リリアと出会えたのだからよかった。
彼女と一緒にいれば、楽しい冒険を出来るんじゃないだろうか。
家に戻る足取りは、自然と弾んでいた。
前に赤の勇者達と泊まった家だったのは不快だったが、リリアの状態を考えると文句を言ってはいられなかった。
「強化っ」
回復促進と、もろもろの耐性アップを付与すると、布団の上に座らせた。
本当は着替えさせたほうがいいのだろうが、勝手に服を脱がせるわけにもいかない。
「流石にローブは寝にくいよな?宿でも脱いでたし。自分で脱げるか?」
リリアは薄く目を開けると、両手を上に向けた。
脱がせろ、ということらしい。
お姫様の執事だったら毎日こんなことをやっているのだろうか?
なんて、ちょっとそれたことを考えたのは、きっと現実逃避だ。
脱がせたローブの下は露出の多い服をしていて、肌色の面積がやたら多い。
おまけに腕を上げているもんだから、綺麗な脇が目の前にあった。
「えーっと…寒くないか?」
「うん、大丈夫…」
リリアは力なく答えると、自分で布団に潜っていった。
「ごめんなさい、私が安易に突っ込んだせいで」
「言いたいことがあるなら元気になってからな」
紅く染まった頬と、さっき見た脇を忘れるために視線をそらす。
お、ちょうどいいところに黒猫が。
こいつを撫でて落ち着こう。
「ごめん…いえ、ありがとう。そうさせてもらうわ」
それからものの数秒で、リリアは眠った。
宿の時もそうだったが、寝付きは相当いいらしい。
「これで一安心か。あとは起きた時のために薬草を用意してっと…」
立ち上がろうとして、膝の上で邪魔をするものがあった。
黒猫だ。
撫でていたせいか、いつもより気持ちよさそうに寝息を立てている。
「悪いけど、こっちで寝ていてくれ」
優しく掴むと、びくっと体が動いた。
それでも目を覚まししたわけではなかったので静かに枕の横に置いた。
「流石に寒いか?」
部屋の隅に転がっていたタオルケットを、布団代わりにかけておく。
「ちゃんと眠っているな」
一人と一匹。
それぞれの寝顔を見つめながら、俺は一人で家を出た。
「強化っ」
防犯用に、家の出入りを制限する。
これで中に入れるのは、勇者のパーティぐらいだ。
冷たかった村の空気は幾分かはましになり、薄手の長袖で歩けるぐらいになっていた。
それでも、外で遊ぶ子供も、井戸端会議をするおばちゃんもいない。
ヒドラがいなくなっても、すぐに恐怖が消えるわけではない。
数カ月後に、安心して遊べるようになっていればそれでいい。
そんなことを思いながら、木の下で立ち止まった。
「ここならいいかな」
ヒドラの恐怖は消えた。
村人がすぐには信じられないのと同じように、洞窟での出来事は俺にとっても信じがたいものだった。
「強化っ」
身体強化をすると、木をぶん殴った。
ぐらぐらと二度三度揺れて、木は地面に倒れた。
「夢じゃなかったんだな」
軽く殴ったつもりだったのに、効果は想像を越えていた。
これならひとりでも戦えるんじゃないか?
そんな錯覚さえしてくる。
「いやいや落ち着け、思い上がるな。一人でクエストをこなす冒険者がどこにいる」
今日のリリアを見ただろ?
どれだけ強かったって、油断や想定外はあり得る。
それを補ってくれるのがパーティだ。
「戻るか」
実を言えば、体はかなり疲れていた。
横になったらすぐに眠ってしまいそうだ。
ここまで意識を保てたのはリリアの存在があってこそだ。
赤の冒険者のパーティを追い出された。
一時はどうなることかと思ったが、リリアと出会えたのだからよかった。
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家に戻る足取りは、自然と弾んでいた。
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