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【第1章】赤の勇者パーティから追放されました
大魔術師と森を抜けます
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「さて、そろそろ目的に向かおうか」
翌朝のリサは、目元が赤く腫れていることだけを除けばいつもどおりだった。出かける準備を終えると早々に部屋を出る。
「ヤゴシオ鉱山にはあとどれくらいで着くんだ?」
「普通に行けば3日、近道をすれば2日といったところだね」
宿で朝食を食べながら、その日の流れについて話し合った。
「近道なんてあるのか」
「ああ、ここと鉱山の間には森があってね。そこを突っ切れば早く着くよ。魔物が多いのが少々厄介だがね」
その言葉はまるで、魔物が出てくるけどいい方法はないのかと聞かれているようだった。
「魔物を避けられればいいわけか」
「そんなことができるのかい?」
まるでそう言うのが分かっていたかのように、リサの食いつきは想像以上だった。
俺は魔力感知能力によって、魔物がどこにいるのか分かる。赤の勇者パーティにいた時は常に先導し、できるだけ戦闘の起こらない道を選んで進んでいた。あいつらは弱い魔物だろうが魔王相手だろうが関係なく、最高火力をぶっ放すものだから、いちいち戦っていては地形の方が持たなかった。
「可能だ」
「そいつは興味深いね。ぜひ見せてもらおうか」
宿で朝食を食べるとすぐに町を出た。1時間ほどは道なりに進んでいたが、リサは急に道を外れて森に向かっていく。
森の入口でリサは立ち止まると、俺に視線を向けた。ここからは俺の出番ということか。
意識を集中させると、森の中の魔力を感じ取る。似たような魔力を持つ魔物が多数……これは群れだな。
「ワーウルフか」
「正解だ。そんなことも分かるとは凄いね」
魔物は種類ごとに独特の魔力の流れを持っている。おかげで離れていてもある程度の判別ができる。
「ワーウルフは確か、自分より格上の相手には戦いを挑まないはずだよな」
「そうだね。少し補足するならば『自分よりも圧倒的に格上の相手には』だけどね」
ならば簡単だ。わざわざ避けて進む必要はない。
俺の特技はふたつ。魔力の感知と体内の魔力量の調整。今はふたつめの魔力量の調整が役立つ時だ。
「魔王まではいらないか」
魔族は危険度順に、魔王・魔神・魔物に分けられる。さらに魔神と魔物は、上位と下位に分けられている。その強さを示す基準の一つに魔力量があった。
「マナリンク」
体内の魔力量を下位の魔神レベルに調整。マナリンクによってリサの魔力も下位の魔神レベルになった。
「こいつは驚きだ。マナリンクと言えば、冒険者としては外れスキルで有名だがこんな使い方があるとは」
マナリンクは対象の魔力をスキル発動者と同じにするユニークスキルだ。直接攻撃に参加できるスキルでも、他の冒険者のスキルの威力を上げるわけでもない。
攻撃を重視するパーティが多い中で、攻撃できないスキルは不遇な扱いを受けている。
「攻撃するだけが冒険じゃないからな」
「全くもってその通りだ」
俺の魔力を感じ取ったのか森のワーウルフの陣形が変わった。俺の場所から距離を取り、様子を伺っているようだ。
「さっさと森を抜けよう」
「そうだね。どうせ認知されているなら隠れる必要もない。ど真ん中を行くよ」
リサは迷うことなく森の中を突き進む。ワーウルフは完全に俺達から距離を置き、代わりに地面の下から別の気配がした。
「リサ、ストップだ」
「なにか来るのかい?」
「ああ、ドレインワームだ」
地面が揺れ、足元から巨大なミミズが姿を現した。その口は3メートル以上あり、多くの冒険者を飲み込んできた魔物だ。
ドレインワームの体のほとんどは魔力だけで構成されていて、魔力が多ければ多いほど巨大になる。常に魔力を欲していて、周囲の存在を食い続ける。もし魔力を得られず、体内の魔力が一定以下になると消滅する。
「どうやら俺の魔力に釣られてやってきたようだ」
「そいつはなかなか見る目があるね。それでどうやって倒すつもりだい?」
ドレインワームは、体から魔力が流れ出して表面に防御壁が生まれている。巨大であればあるほど、的が大きいのに攻撃が通りにくくなる。
「ボクがスキルでも使うかい?」
「いやもっと確実にいこう。マナリンク解除」
マナリンクを解除すると、サンドワームの口が俺に向けられた。攻撃されるの面倒なのでとっとと終わらせよう。
「マナリンク」
今度はサンドワームに対してマナリンクを発動した。すると体が大きくなり、周囲の木々を踏み潰した。
「おやおやこれは、魔神級のサンドワームとは恐ろしいね。町ひとつは平気で食われそうじゃないかい」
危険な魔物が生まれたというのに、リサはおかしそうに状況分析をしていた。
「魔力調整・魔物下位」
俺の体内の魔力を魔神下位から魔物下位に調整。マナリンクの対象になっているドレインワームも影響を受け、体がどんどん小さくなっていく。
「こいつは凄い」
リサが目を輝かせながら、縮んでいくドレインワームを見つめている。急に小さくなった体は耐えられず、ドレインワームはバラバラになって崩れ落ちた。
「こいつは凄い」
さっきと同じセリフを言いながら、リサはサンドワームの破片に触れた。
「この弾力はゴムのようだな。中には魔力を通す回路があるのか。ふむふむ……魔力量に合わせて広がる回路もある。これが体が大きくなる要因か」
拾った素材を手で掴んだり、中を除いたりしながらリサはサンドワームの体を分析する。本当に楽しそうなのが伝わってきた。
だが、あまり安心してもいられない。
「取込み中悪いが次の魔物だ」
「ほう、そいつはまさかワーウルフってやつじゃないのかい?」
「正解だ」
さっきまで距離を取っていたワーウルフの群れが、ドレインワームの消滅とともに近づいてきていた。
「戦うのかい?」
「正直面倒だから逃げたいところだな」
「ではそうしようか」
リサは頷くと、地面に落ちているワーウルフの体を袋に入れた。全部ではなく、一部を残したままで。
「これで時間稼ぎができるだろう」
リサの案内で俺達は森の中に身を潜めた。
ワーウルフの群れは30体で、サンドワームの体を見つけると貪りついた。その隙をついて、俺達はその場から離れた。
翌朝のリサは、目元が赤く腫れていることだけを除けばいつもどおりだった。出かける準備を終えると早々に部屋を出る。
「ヤゴシオ鉱山にはあとどれくらいで着くんだ?」
「普通に行けば3日、近道をすれば2日といったところだね」
宿で朝食を食べながら、その日の流れについて話し合った。
「近道なんてあるのか」
「ああ、ここと鉱山の間には森があってね。そこを突っ切れば早く着くよ。魔物が多いのが少々厄介だがね」
その言葉はまるで、魔物が出てくるけどいい方法はないのかと聞かれているようだった。
「魔物を避けられればいいわけか」
「そんなことができるのかい?」
まるでそう言うのが分かっていたかのように、リサの食いつきは想像以上だった。
俺は魔力感知能力によって、魔物がどこにいるのか分かる。赤の勇者パーティにいた時は常に先導し、できるだけ戦闘の起こらない道を選んで進んでいた。あいつらは弱い魔物だろうが魔王相手だろうが関係なく、最高火力をぶっ放すものだから、いちいち戦っていては地形の方が持たなかった。
「可能だ」
「そいつは興味深いね。ぜひ見せてもらおうか」
宿で朝食を食べるとすぐに町を出た。1時間ほどは道なりに進んでいたが、リサは急に道を外れて森に向かっていく。
森の入口でリサは立ち止まると、俺に視線を向けた。ここからは俺の出番ということか。
意識を集中させると、森の中の魔力を感じ取る。似たような魔力を持つ魔物が多数……これは群れだな。
「ワーウルフか」
「正解だ。そんなことも分かるとは凄いね」
魔物は種類ごとに独特の魔力の流れを持っている。おかげで離れていてもある程度の判別ができる。
「ワーウルフは確か、自分より格上の相手には戦いを挑まないはずだよな」
「そうだね。少し補足するならば『自分よりも圧倒的に格上の相手には』だけどね」
ならば簡単だ。わざわざ避けて進む必要はない。
俺の特技はふたつ。魔力の感知と体内の魔力量の調整。今はふたつめの魔力量の調整が役立つ時だ。
「魔王まではいらないか」
魔族は危険度順に、魔王・魔神・魔物に分けられる。さらに魔神と魔物は、上位と下位に分けられている。その強さを示す基準の一つに魔力量があった。
「マナリンク」
体内の魔力量を下位の魔神レベルに調整。マナリンクによってリサの魔力も下位の魔神レベルになった。
「こいつは驚きだ。マナリンクと言えば、冒険者としては外れスキルで有名だがこんな使い方があるとは」
マナリンクは対象の魔力をスキル発動者と同じにするユニークスキルだ。直接攻撃に参加できるスキルでも、他の冒険者のスキルの威力を上げるわけでもない。
攻撃を重視するパーティが多い中で、攻撃できないスキルは不遇な扱いを受けている。
「攻撃するだけが冒険じゃないからな」
「全くもってその通りだ」
俺の魔力を感じ取ったのか森のワーウルフの陣形が変わった。俺の場所から距離を取り、様子を伺っているようだ。
「さっさと森を抜けよう」
「そうだね。どうせ認知されているなら隠れる必要もない。ど真ん中を行くよ」
リサは迷うことなく森の中を突き進む。ワーウルフは完全に俺達から距離を置き、代わりに地面の下から別の気配がした。
「リサ、ストップだ」
「なにか来るのかい?」
「ああ、ドレインワームだ」
地面が揺れ、足元から巨大なミミズが姿を現した。その口は3メートル以上あり、多くの冒険者を飲み込んできた魔物だ。
ドレインワームの体のほとんどは魔力だけで構成されていて、魔力が多ければ多いほど巨大になる。常に魔力を欲していて、周囲の存在を食い続ける。もし魔力を得られず、体内の魔力が一定以下になると消滅する。
「どうやら俺の魔力に釣られてやってきたようだ」
「そいつはなかなか見る目があるね。それでどうやって倒すつもりだい?」
ドレインワームは、体から魔力が流れ出して表面に防御壁が生まれている。巨大であればあるほど、的が大きいのに攻撃が通りにくくなる。
「ボクがスキルでも使うかい?」
「いやもっと確実にいこう。マナリンク解除」
マナリンクを解除すると、サンドワームの口が俺に向けられた。攻撃されるの面倒なのでとっとと終わらせよう。
「マナリンク」
今度はサンドワームに対してマナリンクを発動した。すると体が大きくなり、周囲の木々を踏み潰した。
「おやおやこれは、魔神級のサンドワームとは恐ろしいね。町ひとつは平気で食われそうじゃないかい」
危険な魔物が生まれたというのに、リサはおかしそうに状況分析をしていた。
「魔力調整・魔物下位」
俺の体内の魔力を魔神下位から魔物下位に調整。マナリンクの対象になっているドレインワームも影響を受け、体がどんどん小さくなっていく。
「こいつは凄い」
リサが目を輝かせながら、縮んでいくドレインワームを見つめている。急に小さくなった体は耐えられず、ドレインワームはバラバラになって崩れ落ちた。
「こいつは凄い」
さっきと同じセリフを言いながら、リサはサンドワームの破片に触れた。
「この弾力はゴムのようだな。中には魔力を通す回路があるのか。ふむふむ……魔力量に合わせて広がる回路もある。これが体が大きくなる要因か」
拾った素材を手で掴んだり、中を除いたりしながらリサはサンドワームの体を分析する。本当に楽しそうなのが伝わってきた。
だが、あまり安心してもいられない。
「取込み中悪いが次の魔物だ」
「ほう、そいつはまさかワーウルフってやつじゃないのかい?」
「正解だ」
さっきまで距離を取っていたワーウルフの群れが、ドレインワームの消滅とともに近づいてきていた。
「戦うのかい?」
「正直面倒だから逃げたいところだな」
「ではそうしようか」
リサは頷くと、地面に落ちているワーウルフの体を袋に入れた。全部ではなく、一部を残したままで。
「これで時間稼ぎができるだろう」
リサの案内で俺達は森の中に身を潜めた。
ワーウルフの群れは30体で、サンドワームの体を見つけると貪りついた。その隙をついて、俺達はその場から離れた。
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