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14.廃墟探索ホラー動画②(怖さレベル:★★☆)
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ウォーワォン!!
突如として、
犬の鳴き声が響きました。
ワンワン! ワォン!!
緊張で固まっていた身体の自由が戻り、
僕はあわてて窓辺に寄りました。
真っ暗な外の景色の下、
年配のお爺さんが散歩のリードを持った犬を必死で抑えています。
「こら! 人ん家に向かってほえるんじゃない!」
ウォーワンワンワン!
犬はまるで命令を聞かず、
しきりに吠えついています。
窓の下には、
誰一人姿はありません。
それでも、僕はあわてて窓のカギをロックし、
隣室の弟の部屋に飛び込みました。
「うっわ、兄ちゃん、なんだよ」
「かっ、カギ、窓のカギ閉めろ!!」
何やら携帯をいじっていた弟は、
突然の僕の訪問に呆れた表情を浮かべました。
「んだよ、締めるけど……なんかいた?」
「い、いない……けど、これから来るかもしれない、から」
「はあ?」
まるきり意味不明といった表情をしている弟に、
さきほど起こった事情を説明するも、
「兄ちゃん……その年でそんな……」
「バッカお前、アレを見てないからそんなこと言えんだよ!!
さっき犬だって吠えてただろ!」
「ハイハイ……んじゃ、
いちおー玄関のカギも見てきてあげますよ」
完全にバカにし切った表情で両手を振る弟にイラつきを覚えたものの、
戸締り確認はしておかないとと、
自分もリビングや風呂のカギをチェックしました。
「兄ちゃん、これで満足?」
「……おう」
これ以上言葉を重ねても弟の呆れが増すばかりと判断し、
僕は短く返事をして再び部屋に戻りました。
「……あ」
つけっぱなしだった動画は再生を終了していて、
次の動画へのリンクページを示しています。
「…………」
さっきのは、
いったい何だったのだろう。
もう一度確認したいような気持ちになりましたが、
その時はそれよりも恐怖が勝って、
その日、僕はそうそうパソコンを閉じてしまいました。
――ジリリリリ。
朝を告げる目覚ましの音。
あんなことがあったものの、
両親はいつも通り帰宅し、
家族四人で食卓を囲み、
なにごともなく夜は眠りにつきました。
正直、あのできごとがあったため、
とても寝られないだろう――と思った心境に反し、
僕はいつの間にかまどろみの中に落ちていたのです。
目覚まし時計代わりにしている携帯のアラームを止め、
時刻に目をやります。
朝の六時。
あと十分は眠れる、と
再びもぞもぞと布団に潜り込もうとした時です。
ピン、
とカメラモードが起動されました。
あれ、変なところ触ったかな、と
カメラを終了しようと画面に視線を向けた時です。
「……い、っ」
喉が、
異様な音を鳴らしました。
その、液晶画面。
その画面は、
真っ赤に濁っていたのです。
カーテンを閉め切った室内、
赤い光源なんて存在しません。
カメラを通してみた室内は、
まるで赤黒い血がまき散らされた惨劇の現場のような――
カシャッ
唐突に、
シャッターが切れる音がしました。
僕は、
いっさい画面に触れていないのに。
カシャ、
カシャカシャカシャカシャ。
携帯が、
ものすごい勢いでシャッター音を鳴らします。
「う、わ……っ」
真っ暗な室内。
赤い画面を連射する携帯。
カシャカシャカシャカシャ
耳を塞ぎたくなるほどの、
気が狂いそうになるその音色。
「う、あ……うわあぁあっ!」
あまりの恐怖に、
僕はそれを叩きつけるかのように
壁に放り投げました。
カシャ――ガツン!!
にぶい打撃音が響いたのち、
ボトリと携帯が落下しました。
「なっ……あ……」
正気に戻った僕は、
慌ててカーテンを引き開けました。
既に日は登っており、
明るい光に照らされた室内は、
なんてことのない朝の風景を映しています。
コンコン
「おーい、兄ちゃん」
ビクッ、と大げさなほどに身体が揺らぐも、
続いて聞こえた弟の声にホッと肩の強ばりが抜けました。
「遅刻するよー」
「あ、ああ……今行く」
床に落ちた携帯を拾う気にはとてもなれなくて、
僕はそのまま朝の食卓へと向かいました。
食事の後、いくらか回復した気分のまま携帯を拾い、
しかし自室で内容を確認する気にはとてもなれず、
学校の休み時間に、恐る恐る写真のフォルダを見てみたんです。
あれほどシャッターの音がしていたにも関わらず、
あの赤みを帯びた部屋の写真はなにひとつありませんでした。
寝起きに見た、
ただの夢。
僕も、
それで済ませたかった。
でも――一枚。
一枚だけ、写真が残っていたんです。
薄暗闇の中、
寝ている僕を真上から撮影した、写真。
どうやったって、
撮れないはずのその角度のそれを、
いつ、
だれが撮影したのでしょう。
幽霊らしき影を見たわけでもない、
なにか危害を加えられたわけでもない、
でも、
とてつもない恐怖だけが心に深く残されました。
そうそう、あと、あの見放題サービスで見た、
あの廃墟探索の動画ですが。
あれも、数日たってから恐る恐る確認したところ、
同じシーンは、なんの見覚えのない、
ただの廃墟の映像でしかありませんでした。
もう、携帯もパソコンも変えてしまいましたが、
霊感の無いボクが出会った、
今までで一番恐ろしい体験です。
突如として、
犬の鳴き声が響きました。
ワンワン! ワォン!!
緊張で固まっていた身体の自由が戻り、
僕はあわてて窓辺に寄りました。
真っ暗な外の景色の下、
年配のお爺さんが散歩のリードを持った犬を必死で抑えています。
「こら! 人ん家に向かってほえるんじゃない!」
ウォーワンワンワン!
犬はまるで命令を聞かず、
しきりに吠えついています。
窓の下には、
誰一人姿はありません。
それでも、僕はあわてて窓のカギをロックし、
隣室の弟の部屋に飛び込みました。
「うっわ、兄ちゃん、なんだよ」
「かっ、カギ、窓のカギ閉めろ!!」
何やら携帯をいじっていた弟は、
突然の僕の訪問に呆れた表情を浮かべました。
「んだよ、締めるけど……なんかいた?」
「い、いない……けど、これから来るかもしれない、から」
「はあ?」
まるきり意味不明といった表情をしている弟に、
さきほど起こった事情を説明するも、
「兄ちゃん……その年でそんな……」
「バッカお前、アレを見てないからそんなこと言えんだよ!!
さっき犬だって吠えてただろ!」
「ハイハイ……んじゃ、
いちおー玄関のカギも見てきてあげますよ」
完全にバカにし切った表情で両手を振る弟にイラつきを覚えたものの、
戸締り確認はしておかないとと、
自分もリビングや風呂のカギをチェックしました。
「兄ちゃん、これで満足?」
「……おう」
これ以上言葉を重ねても弟の呆れが増すばかりと判断し、
僕は短く返事をして再び部屋に戻りました。
「……あ」
つけっぱなしだった動画は再生を終了していて、
次の動画へのリンクページを示しています。
「…………」
さっきのは、
いったい何だったのだろう。
もう一度確認したいような気持ちになりましたが、
その時はそれよりも恐怖が勝って、
その日、僕はそうそうパソコンを閉じてしまいました。
――ジリリリリ。
朝を告げる目覚ましの音。
あんなことがあったものの、
両親はいつも通り帰宅し、
家族四人で食卓を囲み、
なにごともなく夜は眠りにつきました。
正直、あのできごとがあったため、
とても寝られないだろう――と思った心境に反し、
僕はいつの間にかまどろみの中に落ちていたのです。
目覚まし時計代わりにしている携帯のアラームを止め、
時刻に目をやります。
朝の六時。
あと十分は眠れる、と
再びもぞもぞと布団に潜り込もうとした時です。
ピン、
とカメラモードが起動されました。
あれ、変なところ触ったかな、と
カメラを終了しようと画面に視線を向けた時です。
「……い、っ」
喉が、
異様な音を鳴らしました。
その、液晶画面。
その画面は、
真っ赤に濁っていたのです。
カーテンを閉め切った室内、
赤い光源なんて存在しません。
カメラを通してみた室内は、
まるで赤黒い血がまき散らされた惨劇の現場のような――
カシャッ
唐突に、
シャッターが切れる音がしました。
僕は、
いっさい画面に触れていないのに。
カシャ、
カシャカシャカシャカシャ。
携帯が、
ものすごい勢いでシャッター音を鳴らします。
「う、わ……っ」
真っ暗な室内。
赤い画面を連射する携帯。
カシャカシャカシャカシャ
耳を塞ぎたくなるほどの、
気が狂いそうになるその音色。
「う、あ……うわあぁあっ!」
あまりの恐怖に、
僕はそれを叩きつけるかのように
壁に放り投げました。
カシャ――ガツン!!
にぶい打撃音が響いたのち、
ボトリと携帯が落下しました。
「なっ……あ……」
正気に戻った僕は、
慌ててカーテンを引き開けました。
既に日は登っており、
明るい光に照らされた室内は、
なんてことのない朝の風景を映しています。
コンコン
「おーい、兄ちゃん」
ビクッ、と大げさなほどに身体が揺らぐも、
続いて聞こえた弟の声にホッと肩の強ばりが抜けました。
「遅刻するよー」
「あ、ああ……今行く」
床に落ちた携帯を拾う気にはとてもなれなくて、
僕はそのまま朝の食卓へと向かいました。
食事の後、いくらか回復した気分のまま携帯を拾い、
しかし自室で内容を確認する気にはとてもなれず、
学校の休み時間に、恐る恐る写真のフォルダを見てみたんです。
あれほどシャッターの音がしていたにも関わらず、
あの赤みを帯びた部屋の写真はなにひとつありませんでした。
寝起きに見た、
ただの夢。
僕も、
それで済ませたかった。
でも――一枚。
一枚だけ、写真が残っていたんです。
薄暗闇の中、
寝ている僕を真上から撮影した、写真。
どうやったって、
撮れないはずのその角度のそれを、
いつ、
だれが撮影したのでしょう。
幽霊らしき影を見たわけでもない、
なにか危害を加えられたわけでもない、
でも、
とてつもない恐怖だけが心に深く残されました。
そうそう、あと、あの見放題サービスで見た、
あの廃墟探索の動画ですが。
あれも、数日たってから恐る恐る確認したところ、
同じシーンは、なんの見覚えのない、
ただの廃墟の映像でしかありませんでした。
もう、携帯もパソコンも変えてしまいましたが、
霊感の無いボクが出会った、
今までで一番恐ろしい体験です。
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