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10.登山道の鳥居②(怖さレベル:★★☆)
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独り残った私は、
さっきの耳鳴りと頭痛はなんだったのだろうと
ウダウダ考えていました。
高山病ならば、
あんなに即治るはずがありません。
――と。
東がなにやら首をひねりつつ、
一人で戻ってきたのです。
「あれ、小野里は?」
「…………。
それがさ、いないんだよ……どこにも」
「えっ?!」
どこかまだノホホンとしていた気分が
一気に吹き飛びました。
「い、いないってどういう」
「あの神社の周辺さ、歩き回ったしアイツの名前も呼んだけど、
足跡もないし、反応もない。……こっち、すれ違ってないよねぇ」
「来てない……うわ、どうしよう」
まさか、
こんなところではぐれるなんて。
山の怖さなんて、学生の時に
イヤと言うほど身に染みています。
慌てて携帯で連絡しようとすれば、
「……えっ」
圏外。
まさか、そんなわけないのです。
この山は民家も随所にあって、
学生時代何度も登ったものの、
どのルートであっても電波が届かないなんてことありませんでした。
「嘘……」
東の携帯も同じらしく、
液晶を見つめて呆然としています。
「と、とにかく、もう一回さがそ。私も行くから」
「う、うん……」
と、二人揃って社の方へ行こうとした時です。
――シュッ、ボッ。
「えっ」
マッチの擦れるような音と主に、
目前の鳥居の足元から炎が吹き上がりました。
「えっ、何!?」
東もその炎に気づいて跳びあがります。
「うわ、どうしよ!?」
「け、消せるモンなんて持ってないし……!」
消火器なんてものはこの山中存在しませんし、
近場に水辺もありません。
その上連絡手段は絶たれていて、
消防車を呼ぶこともできないのです。
「お、小野里! ドコにいるの!?」
「小野里! 出てきてよ!!」
二人して慌てふためきながら周囲の森に
彼女の名を叫びますが、返答ひとつありません。
「と、とりあえず電波あるトコに行こう!
もしかしたら小野里も戻ってるかもしれないし!」
「そ、そうだね!」
鳥居の炎は次第に強さを増し、
周囲の木々や雑草に燃え移って、
神社にまでその触手を伸ばす勢いです。
小野里の姿は見つからぬものの、
このままここにいれば非常に危険でした。
私たちは携帯を片手に、
急いで元の道を戻り始めました。
「ッ、ハァ、ハァ……」
なかなか電波が入りません。
足がもつれそうになりながら、
歩きつづけてしばらく。
あの第一の鳥居が見えました。
「ッ、きたっ!」
鳥居をくぐって歩道に戻った瞬間、
ウソのように一瞬で電波が復活したのです。
「私、消防に連絡入れるから、東は小野里に!」
「わかった、すぐかける!」
携帯を取り落としそうになりつつ消防へ連絡を入れ、
山火事が起きていることを説明し、
例の神社の場所を話すもどうにも会話がかみ合いません。
『○○山ですよね? 鳥居、ですか……聞いたことがありませんが』
「え、でも、げんに煙だって上がってるんですよ! 今だって」
と、そこまで言ってさきほど歩いてきた道を振り返ると、
「えっ……?」
無いのです。
あの、通ってきた道が。
それどころか、
まさに今、
目印として帰ってきた鳥居それ自体も。
そこは、まるで最初からそうであったかのように、
ゆるやかな崖だけが存在していました。
『もしもし?』
「あ、す、すいません……確認してまたご連絡します……」
あまりのショックに呆然としていた意識がハッと戻り、
慌てて電話を切りました。
まるきりイタズラ電話のようになってしまったことを恥じつつ、
東の方へ視線を向けます。
「……つながらないなぁ……あっ、つながった!」
「え、ウソ!」
片足でタンタンと床を叩いていた東は、
ハッと両手で携帯を握りました。
「もしもし?! ……ちょ、心配させんなって。
…………え?」
ホッとしたような東の表情が、
みるみるうちに強ばりました。
「あんた……まだ、うちにいるの?」
「……えっ?」
彼女から漏れた言葉に、
私はゾっと冷たいものが走り抜けました。
東は隣で耳をそばだてるこちらに気づいて、
通話をスピーカーモードに切り替えました。
『うん。だって、予定来週じゃなかったっけ?
おっかしいなぁ……カレンダーにマークまでつけたのに。
……あ、河ちゃんも一緒だっけ? ゴメン、って謝っといて~』
ゆるゆるな彼女の声は、
確かに小野里のものに違いありません。
おまけに、後ろの方からは彼女の子どもと思われる、
男の子のグズリ声まで聞こえてきています。
「……河本」
通を終えた東が、
混乱と恐怖のごちゃ混ぜになった表情で言いました。
「あたしたち……危なかったのかな」
「……え」
「呼ばれてたのかな……あたしたち」
そう呟いて黙り込んだ東に、
私はなにも返事できませんでした。
あの鳥居を見つけたのも、
その先へ行こうと提案したのも、
あの場にいた小野里です。
しかし、その当人は、
ここから遠く離れた東京にいるというのです。
私たちと一緒に登った彼女は、
いったいなんだったのでしょうか?
そして、あの鳥居が燃えてしまったのも、
なにか関係があったのでしょうか。
彼女たち二人とは、それをキッカケに、
よく連絡をとるようになりました。
どうしてか、彼女たちといると、
不思議なことによく遭遇するんです。
また、機会があったらお話させて頂きますね。
ありがとうございました。
さっきの耳鳴りと頭痛はなんだったのだろうと
ウダウダ考えていました。
高山病ならば、
あんなに即治るはずがありません。
――と。
東がなにやら首をひねりつつ、
一人で戻ってきたのです。
「あれ、小野里は?」
「…………。
それがさ、いないんだよ……どこにも」
「えっ?!」
どこかまだノホホンとしていた気分が
一気に吹き飛びました。
「い、いないってどういう」
「あの神社の周辺さ、歩き回ったしアイツの名前も呼んだけど、
足跡もないし、反応もない。……こっち、すれ違ってないよねぇ」
「来てない……うわ、どうしよう」
まさか、
こんなところではぐれるなんて。
山の怖さなんて、学生の時に
イヤと言うほど身に染みています。
慌てて携帯で連絡しようとすれば、
「……えっ」
圏外。
まさか、そんなわけないのです。
この山は民家も随所にあって、
学生時代何度も登ったものの、
どのルートであっても電波が届かないなんてことありませんでした。
「嘘……」
東の携帯も同じらしく、
液晶を見つめて呆然としています。
「と、とにかく、もう一回さがそ。私も行くから」
「う、うん……」
と、二人揃って社の方へ行こうとした時です。
――シュッ、ボッ。
「えっ」
マッチの擦れるような音と主に、
目前の鳥居の足元から炎が吹き上がりました。
「えっ、何!?」
東もその炎に気づいて跳びあがります。
「うわ、どうしよ!?」
「け、消せるモンなんて持ってないし……!」
消火器なんてものはこの山中存在しませんし、
近場に水辺もありません。
その上連絡手段は絶たれていて、
消防車を呼ぶこともできないのです。
「お、小野里! ドコにいるの!?」
「小野里! 出てきてよ!!」
二人して慌てふためきながら周囲の森に
彼女の名を叫びますが、返答ひとつありません。
「と、とりあえず電波あるトコに行こう!
もしかしたら小野里も戻ってるかもしれないし!」
「そ、そうだね!」
鳥居の炎は次第に強さを増し、
周囲の木々や雑草に燃え移って、
神社にまでその触手を伸ばす勢いです。
小野里の姿は見つからぬものの、
このままここにいれば非常に危険でした。
私たちは携帯を片手に、
急いで元の道を戻り始めました。
「ッ、ハァ、ハァ……」
なかなか電波が入りません。
足がもつれそうになりながら、
歩きつづけてしばらく。
あの第一の鳥居が見えました。
「ッ、きたっ!」
鳥居をくぐって歩道に戻った瞬間、
ウソのように一瞬で電波が復活したのです。
「私、消防に連絡入れるから、東は小野里に!」
「わかった、すぐかける!」
携帯を取り落としそうになりつつ消防へ連絡を入れ、
山火事が起きていることを説明し、
例の神社の場所を話すもどうにも会話がかみ合いません。
『○○山ですよね? 鳥居、ですか……聞いたことがありませんが』
「え、でも、げんに煙だって上がってるんですよ! 今だって」
と、そこまで言ってさきほど歩いてきた道を振り返ると、
「えっ……?」
無いのです。
あの、通ってきた道が。
それどころか、
まさに今、
目印として帰ってきた鳥居それ自体も。
そこは、まるで最初からそうであったかのように、
ゆるやかな崖だけが存在していました。
『もしもし?』
「あ、す、すいません……確認してまたご連絡します……」
あまりのショックに呆然としていた意識がハッと戻り、
慌てて電話を切りました。
まるきりイタズラ電話のようになってしまったことを恥じつつ、
東の方へ視線を向けます。
「……つながらないなぁ……あっ、つながった!」
「え、ウソ!」
片足でタンタンと床を叩いていた東は、
ハッと両手で携帯を握りました。
「もしもし?! ……ちょ、心配させんなって。
…………え?」
ホッとしたような東の表情が、
みるみるうちに強ばりました。
「あんた……まだ、うちにいるの?」
「……えっ?」
彼女から漏れた言葉に、
私はゾっと冷たいものが走り抜けました。
東は隣で耳をそばだてるこちらに気づいて、
通話をスピーカーモードに切り替えました。
『うん。だって、予定来週じゃなかったっけ?
おっかしいなぁ……カレンダーにマークまでつけたのに。
……あ、河ちゃんも一緒だっけ? ゴメン、って謝っといて~』
ゆるゆるな彼女の声は、
確かに小野里のものに違いありません。
おまけに、後ろの方からは彼女の子どもと思われる、
男の子のグズリ声まで聞こえてきています。
「……河本」
通を終えた東が、
混乱と恐怖のごちゃ混ぜになった表情で言いました。
「あたしたち……危なかったのかな」
「……え」
「呼ばれてたのかな……あたしたち」
そう呟いて黙り込んだ東に、
私はなにも返事できませんでした。
あの鳥居を見つけたのも、
その先へ行こうと提案したのも、
あの場にいた小野里です。
しかし、その当人は、
ここから遠く離れた東京にいるというのです。
私たちと一緒に登った彼女は、
いったいなんだったのでしょうか?
そして、あの鳥居が燃えてしまったのも、
なにか関係があったのでしょうか。
彼女たち二人とは、それをキッカケに、
よく連絡をとるようになりました。
どうしてか、彼女たちといると、
不思議なことによく遭遇するんです。
また、機会があったらお話させて頂きますね。
ありがとうございました。
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