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使命
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前から小さな男の子が近づいてくる。それが私のターゲットだった。なるべくならばやりたくない。しかしこれは使命なのだ。自分に言い聞かせて、私は男の子に話しかけに行く。
「坊や、一人でどこに行くんだい?」なるべく自然な調子でたずねる。
「あのね、ママに頼まれておつかいに行ってるの」
「そうなのかい、偉いね坊やは。でもスーパーはあっちじゃないかな?」
「ううん、こっちで合ってるよ、いっつもママと行ってるもん」
「そっかあ。すごいねえ。おじさんびっくりしたよ。坊やにお菓子をあげるから向こうの方で待っててくれないかな?」
「ううん。ぼくおつかいの途中だからダメだよ」
賢い子供だ。残念ながら子供だましの手法は通用しそうにない。こうなれば仕方がなく私は覚悟を決める。男の子の耳にそっと近づくと、できる限りドスの効いた声で言った。
「おい、今すぐ引き返せ、ぶっ殺すぞ」
男の子はわっ、と泣くと走って逃げていった。
きっとこの部分はカットされ、男の子が寂しくなって泣きだしたかのように編集されるだろう。罪悪感は消えるものではない。しかしこれは、尺を伸ばして、盛り上げ場を作るという私の使命なのだ。
こうして今週も、「はじめてのおつかい」の収録は無事に終わった。
「坊や、一人でどこに行くんだい?」なるべく自然な調子でたずねる。
「あのね、ママに頼まれておつかいに行ってるの」
「そうなのかい、偉いね坊やは。でもスーパーはあっちじゃないかな?」
「ううん、こっちで合ってるよ、いっつもママと行ってるもん」
「そっかあ。すごいねえ。おじさんびっくりしたよ。坊やにお菓子をあげるから向こうの方で待っててくれないかな?」
「ううん。ぼくおつかいの途中だからダメだよ」
賢い子供だ。残念ながら子供だましの手法は通用しそうにない。こうなれば仕方がなく私は覚悟を決める。男の子の耳にそっと近づくと、できる限りドスの効いた声で言った。
「おい、今すぐ引き返せ、ぶっ殺すぞ」
男の子はわっ、と泣くと走って逃げていった。
きっとこの部分はカットされ、男の子が寂しくなって泣きだしたかのように編集されるだろう。罪悪感は消えるものではない。しかしこれは、尺を伸ばして、盛り上げ場を作るという私の使命なのだ。
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