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番外編
君の愛に酔う
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「わぁ!すごい!」
僕のはしゃいだ声があたりに響き渡ってしまった。
でもここには僕と蘭紗様の二人しかいない。
だから遠慮なく、叫んだっていいんだよ!
翠は、学び舎の行事でお泊り会。
僕は蘭紗様に連れられて藤の花を見に来たんだ。
これって、デートだよね!
「良かった、薫がそんなに喜んでくれて」
美しく垂れ下がる藤の花を軽く避けながら、蘭紗様は僕に近づいてきた。
「この藤棚は私たち王族のために城下町の皆が世話してくれているのだよ」
「え、城下町の方々がみんなで?」
「そうなのだ。皆、これを大事にしてくれている、樹齢も1000年を超えるんじゃないだろうか」
「ええ……」
僕は驚いて、広い藤棚の真ん中にある木の幹を見つめた。
それは遠くにあってあまりよく見えないけれど、確かにどっしりと構えていて、長年そこにあるという存在感を見せてくれている。
「すごい……」
「ふふ……薫はすごいすごいと、そればかりだな」
蘭紗様は藤棚からこぼれる日差しにまだらに照らされて、銀色に輝く美しい瞳を細くした。
「ほんとに蘭紗様は背が高いですねぇ……僕は見上げなきゃいけないのに、蘭紗様は目線のすぐ上にお花があるじゃないですか」
「はは!確かにそうだな」
愉快そうに微笑んだ蘭紗様はそんな僕をすっと抱き上げてくれた。
まるで幼い子を抱き上げるように片腕に乗せて、僕の顔を藤の花に近づけてくれたんだ。
「んは……!ちょっと!子供じゃないんだから!」
「暴れるでない薫、良いではないか、ここには誰もいないのだよ?」
「まあ、確かにそうですけど……重くはありませんか?」
「重くなどない、羽のように軽い……というと、そなたはまた気にするか?」
「ふふ……いえ、それが僕ですからね」
僕はたまらなくなって、すぐ近くにある蘭紗様の美しい顔の両頬に手をやり、そっと口付けた。
「ありがとうございます、蘭紗様……僕、こんなふうに何気なくデートに連れてきてもらうの、本当にうれしい」
「ふむ、デートな」
蘭紗様ははにかむように微笑んだ。
「ねえ、蘭紗様、藤の花ことばをご存じですか?」
「花言葉……さあ、知らぬな」
「『君の愛に酔う』ですよ」
その時、さぁっと爽やかな風が吹いてきて、蘭紗様の美しい髪の毛がさらりと舞った。
一本一本が光を纏い、きらめている。
「そうか……では、ふさわしいな」
「ん、僕もそう思います」
「我は、そなたの愛に酔っているよ、いつも」
「はい、僕もです……それから、『決して離れない』っていうのもあるみたいです」
「なるほど……ますます我らのようだな」
真顔の蘭紗様に僕は思わず吹いてしまった。
「あは!蘭紗様ってほんとに甘いんだから!」
「甘いのはそなただ」
コツンとおでこを合わせて軽いキスをした。
「日本の家に、小さな藤の木があったんですよ。祖母はいつも藤の花が咲くころになると、若いころの話をしてくれました」
「どんな話だ?」
「祖父は若いころから引退するまでずっと、それはそれは多忙で、ほとんど家にも帰らない時もあったそうなんです」
「うむ……さもありなん……そなたの祖父は国政を担っていたのだからな」
「はい……だから、藤の花が好きな祖母のためにこの木を庭に植えてくれたんだそうです、まだ僕の父が幼いころに」
「というと、そなたの祖父もまた、花言葉を知っていたのだろうか?」
「それは、わからないんです。聞いたことがなくて。だけど……なんだか知っていたような気がします」
「そうだな、我も、そんな気がする」
そして、蘭紗様は僕をトンと地に下ろし、今度は手を優しく取ってくれた。
「我らもずっと、決して離れないよ」
「はい、蘭紗様」
見渡す限りの美しい薄紫の折り重なり、そして柔らかな日差しが透けてくる。
ゆっくりと二人で歩きだして、そして笑顔で見つめあって。
また、来年、一緒にここに来ましょうね。
そんな言葉は言わなくてもきっと、蘭紗様にはお見通しですよね。
そして……いつもいつも、僕はあなたの愛に酔うのです。
僕のはしゃいだ声があたりに響き渡ってしまった。
でもここには僕と蘭紗様の二人しかいない。
だから遠慮なく、叫んだっていいんだよ!
翠は、学び舎の行事でお泊り会。
僕は蘭紗様に連れられて藤の花を見に来たんだ。
これって、デートだよね!
「良かった、薫がそんなに喜んでくれて」
美しく垂れ下がる藤の花を軽く避けながら、蘭紗様は僕に近づいてきた。
「この藤棚は私たち王族のために城下町の皆が世話してくれているのだよ」
「え、城下町の方々がみんなで?」
「そうなのだ。皆、これを大事にしてくれている、樹齢も1000年を超えるんじゃないだろうか」
「ええ……」
僕は驚いて、広い藤棚の真ん中にある木の幹を見つめた。
それは遠くにあってあまりよく見えないけれど、確かにどっしりと構えていて、長年そこにあるという存在感を見せてくれている。
「すごい……」
「ふふ……薫はすごいすごいと、そればかりだな」
蘭紗様は藤棚からこぼれる日差しにまだらに照らされて、銀色に輝く美しい瞳を細くした。
「ほんとに蘭紗様は背が高いですねぇ……僕は見上げなきゃいけないのに、蘭紗様は目線のすぐ上にお花があるじゃないですか」
「はは!確かにそうだな」
愉快そうに微笑んだ蘭紗様はそんな僕をすっと抱き上げてくれた。
まるで幼い子を抱き上げるように片腕に乗せて、僕の顔を藤の花に近づけてくれたんだ。
「んは……!ちょっと!子供じゃないんだから!」
「暴れるでない薫、良いではないか、ここには誰もいないのだよ?」
「まあ、確かにそうですけど……重くはありませんか?」
「重くなどない、羽のように軽い……というと、そなたはまた気にするか?」
「ふふ……いえ、それが僕ですからね」
僕はたまらなくなって、すぐ近くにある蘭紗様の美しい顔の両頬に手をやり、そっと口付けた。
「ありがとうございます、蘭紗様……僕、こんなふうに何気なくデートに連れてきてもらうの、本当にうれしい」
「ふむ、デートな」
蘭紗様ははにかむように微笑んだ。
「ねえ、蘭紗様、藤の花ことばをご存じですか?」
「花言葉……さあ、知らぬな」
「『君の愛に酔う』ですよ」
その時、さぁっと爽やかな風が吹いてきて、蘭紗様の美しい髪の毛がさらりと舞った。
一本一本が光を纏い、きらめている。
「そうか……では、ふさわしいな」
「ん、僕もそう思います」
「我は、そなたの愛に酔っているよ、いつも」
「はい、僕もです……それから、『決して離れない』っていうのもあるみたいです」
「なるほど……ますます我らのようだな」
真顔の蘭紗様に僕は思わず吹いてしまった。
「あは!蘭紗様ってほんとに甘いんだから!」
「甘いのはそなただ」
コツンとおでこを合わせて軽いキスをした。
「日本の家に、小さな藤の木があったんですよ。祖母はいつも藤の花が咲くころになると、若いころの話をしてくれました」
「どんな話だ?」
「祖父は若いころから引退するまでずっと、それはそれは多忙で、ほとんど家にも帰らない時もあったそうなんです」
「うむ……さもありなん……そなたの祖父は国政を担っていたのだからな」
「はい……だから、藤の花が好きな祖母のためにこの木を庭に植えてくれたんだそうです、まだ僕の父が幼いころに」
「というと、そなたの祖父もまた、花言葉を知っていたのだろうか?」
「それは、わからないんです。聞いたことがなくて。だけど……なんだか知っていたような気がします」
「そうだな、我も、そんな気がする」
そして、蘭紗様は僕をトンと地に下ろし、今度は手を優しく取ってくれた。
「我らもずっと、決して離れないよ」
「はい、蘭紗様」
見渡す限りの美しい薄紫の折り重なり、そして柔らかな日差しが透けてくる。
ゆっくりと二人で歩きだして、そして笑顔で見つめあって。
また、来年、一緒にここに来ましょうね。
そんな言葉は言わなくてもきっと、蘭紗様にはお見通しですよね。
そして……いつもいつも、僕はあなたの愛に酔うのです。
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