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前夜祭2
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蘭紗様と一緒に各国の使節団と、それから祭りにいらした王侯貴族の相手をして周る。
僕は喜紗さんとみっちり予習してあるので、今日の来賓の方々の名前と出身がちゃんと頭に入っていた。
話の端々に、お国のことを褒める文言を入れていくことが礼儀のようだけど、あの勉強が無くてはとても無理だった。
主たる国だけではなく、どこの国にも属していない少数民族の人たちもいるからだ。
本当に喜紗さんには頭が上がらない、素晴らしい先生だ。
そして今日のメインのお客様は……僕は阿羅国の2人を探した。
楽団も連れているはずで目立つはずなのだけど……
「薫さま……お初にお目にかかる」
「え……シャオリーステア様」
僕は目の前の彫刻のように美しい女性に目を奪われた。
真っ白な肌は陶器そのものに見えるし、水色の頭髪はまるで水のように流れを感じる。
実際にリアルな生き物なのか?と疑うほどに儚げだ。
そして、その不思議な見た目に心がきゅっと締め付けられるような気分になった。
背から生えた透明で虹色の羽をフルっと震わせて微笑んだその人は、妖精国の女王だ。
「やっと会えました、昨今どこでもあなたの噂を聞きますから、早くお会いしたかったのです」
「僕もです……まさかシャオリーステア様がいらっしゃるなんて夢にも思わず」
「フフ……直前まで終わらぬ用事をしていたので、来れるか来れないか微妙なところだったのですよ、しかし、国のことは助手に全部やらせることにして一人で参りました……しかし、よく私がシャオリーステアだとわかりましたね」
髪と同じ水色の瞳でじっと見つめられて、一瞬クラっとめまいを起こしそうになった。
深い水の底に引き込まれるような感覚を覚えたのだ。
「……いえ……絵姿を拝見していたものですから……」
「なるほど。私もあなたの絵姿を見ていましたが……あなたは絵よりも実物のほうが美しい。だいたいの者が美化して描かれて、絵のほうがきれいなものですのにね」
「シャオリー様……少々お口が悪うございます」
シャオリー様の横にスッと寄って来られたのは、ラハーム王国の王妃で涼鱗さんのお母様だ。
「ほんとうに……なぜあなたはそうお口が悪いのです」
「そなたも私と似たようなものでしょう」
「ま……何を……私のような常識人を捕まえて」
ラハーム王妃は持っていた扇でピテっとシャオリー様の手を叩いた。
あれだ、漫才のツッコミのように。
「まあでも、薫様がかわいらしいのは本当ですからねえ、シャオリーの言うとおりかもしれません」
「そうでしょう?」
二人は今度はニヤリと笑い合って目を合わせた。
そうだった……この二人は100年来の友人同士なのだった。
僕そっちのけで二人で機関銃のように話し始めた二人を苦笑して見つめていると、後ろから声をかけられた。
「薫様」
「波成様!」
つい先日会ったばかりの波成様は、にこやかな笑顔で波羽彦王と一緒に立っていらした。
「素敵な会場ですね、天井から植物を吊るすなんて……幻想的です」
「ありがとうございます、波成様さすがですね、会場の設えを気になさるなんて」
「はい、そのうち阿羅国でこのような催物があるでしょうから、その時に色々と考えなくてはいけませんからね。勉強になります」
「勉強だなんて」
横に立っていた波羽彦王は優しげな眼差しで挨拶をしてくれて、久しぶりに声を聞いた。
「薫様、とてもお元気そうで安心しましたよ。阿羅国では本当におつらそうでしたからね」
「あの時は本当に、お世話になって」
「いえいえ、当たり前です、父のせいなんですから……」
少しさみしげに微笑む姿に、なんとなく新人君の面影を感じた。
黒い髪に黒い瞳、薄く黄みがかった肌は日本人そのものだ。
「明日、久利紗様との見合いがあると……そう言われていましてね……なあ蘭紗、私はどうしても久利紗様を娶るほかないのだろうか?波成がいればそれでいいのだが……」
蘭紗様は僕の横で静かに首を振った。
「我にも、神の真意はわからぬのだ。しかし、紗国としてはお告げがあったのに無視もできない」
「そうか……だが……私はこのままでは、波成の父に殺されないだろうか」
最後の部分はひじょうに小さい声で囁かれた。
僕は思わず吹き出してしまったし、蘭紗様も笑いを噛みしめる顔になった。
「いや……波呂には我からよく言って聞かせてある。あれも紗国人だ。始祖様のお告げがどれほど大事なのかわからないはずはない」
「そうかな……」
「波羽彦様、私は、久利紗様がいらしても嫌なんかじゃありませんよ。3人いれば力も大きくなるのです。これから阿羅国を盛り上げていくには、2人より3人のほうがいいに決まってますし、それに……お二人のお子ならば、私は愛せます」
「波成……」
「久利紗様を助け、私も一緒に子育てをしてまいりますから」
波羽彦さんは困った顔のまま泣きそうになって波成様を見つめた。
波成様は僕の顔をじっと見て、そして微笑んだ。
「ね、薫様、そうですよね」
「……はい、波成様。誰から生まれた子であろうとも、波成様ならきっと良い子に育てられるでしょう」
微笑んだ波成様はとてもきれいだった。
「我が姉は、15年もの間、誰にも会わずに閉じこもっていた王女だ。それゆえ、常識を知らぬし、それにできることも少ないと思う。だが、波成をないがしろにしたり、子を産んだからと我が物顔で覇権を取ろうなどという人でないと思う……波羽彦が波成に遠慮して躊躇するのはわかるが、どうか、始祖様のお告げを受けてほしい」
「……蘭紗……わかった。明日、お目通りには波成も連れて行く。それはいいだろう?」
「ああ、もちろんだ」
波成様は静かに波羽彦様の手を取り、2人はしばらく見つめ合って……そして微笑みあった。
「楽団か?その後ろの者たちは」
「ああ、そうだ……この後、薫様のお計らいにより演奏を許されているのだ、薫様、ありがとう」
「いえ、お礼はこちらが言うことですよ、宴会に楽団は付き物です。素敵な演奏を楽しみにしていますよ」
2人の後ろに控えていた12人からなる楽団のメンバー達はポッと頬を赤らめ嬉しそうに頷いた。
僕は喜紗さんとみっちり予習してあるので、今日の来賓の方々の名前と出身がちゃんと頭に入っていた。
話の端々に、お国のことを褒める文言を入れていくことが礼儀のようだけど、あの勉強が無くてはとても無理だった。
主たる国だけではなく、どこの国にも属していない少数民族の人たちもいるからだ。
本当に喜紗さんには頭が上がらない、素晴らしい先生だ。
そして今日のメインのお客様は……僕は阿羅国の2人を探した。
楽団も連れているはずで目立つはずなのだけど……
「薫さま……お初にお目にかかる」
「え……シャオリーステア様」
僕は目の前の彫刻のように美しい女性に目を奪われた。
真っ白な肌は陶器そのものに見えるし、水色の頭髪はまるで水のように流れを感じる。
実際にリアルな生き物なのか?と疑うほどに儚げだ。
そして、その不思議な見た目に心がきゅっと締め付けられるような気分になった。
背から生えた透明で虹色の羽をフルっと震わせて微笑んだその人は、妖精国の女王だ。
「やっと会えました、昨今どこでもあなたの噂を聞きますから、早くお会いしたかったのです」
「僕もです……まさかシャオリーステア様がいらっしゃるなんて夢にも思わず」
「フフ……直前まで終わらぬ用事をしていたので、来れるか来れないか微妙なところだったのですよ、しかし、国のことは助手に全部やらせることにして一人で参りました……しかし、よく私がシャオリーステアだとわかりましたね」
髪と同じ水色の瞳でじっと見つめられて、一瞬クラっとめまいを起こしそうになった。
深い水の底に引き込まれるような感覚を覚えたのだ。
「……いえ……絵姿を拝見していたものですから……」
「なるほど。私もあなたの絵姿を見ていましたが……あなたは絵よりも実物のほうが美しい。だいたいの者が美化して描かれて、絵のほうがきれいなものですのにね」
「シャオリー様……少々お口が悪うございます」
シャオリー様の横にスッと寄って来られたのは、ラハーム王国の王妃で涼鱗さんのお母様だ。
「ほんとうに……なぜあなたはそうお口が悪いのです」
「そなたも私と似たようなものでしょう」
「ま……何を……私のような常識人を捕まえて」
ラハーム王妃は持っていた扇でピテっとシャオリー様の手を叩いた。
あれだ、漫才のツッコミのように。
「まあでも、薫様がかわいらしいのは本当ですからねえ、シャオリーの言うとおりかもしれません」
「そうでしょう?」
二人は今度はニヤリと笑い合って目を合わせた。
そうだった……この二人は100年来の友人同士なのだった。
僕そっちのけで二人で機関銃のように話し始めた二人を苦笑して見つめていると、後ろから声をかけられた。
「薫様」
「波成様!」
つい先日会ったばかりの波成様は、にこやかな笑顔で波羽彦王と一緒に立っていらした。
「素敵な会場ですね、天井から植物を吊るすなんて……幻想的です」
「ありがとうございます、波成様さすがですね、会場の設えを気になさるなんて」
「はい、そのうち阿羅国でこのような催物があるでしょうから、その時に色々と考えなくてはいけませんからね。勉強になります」
「勉強だなんて」
横に立っていた波羽彦王は優しげな眼差しで挨拶をしてくれて、久しぶりに声を聞いた。
「薫様、とてもお元気そうで安心しましたよ。阿羅国では本当におつらそうでしたからね」
「あの時は本当に、お世話になって」
「いえいえ、当たり前です、父のせいなんですから……」
少しさみしげに微笑む姿に、なんとなく新人君の面影を感じた。
黒い髪に黒い瞳、薄く黄みがかった肌は日本人そのものだ。
「明日、久利紗様との見合いがあると……そう言われていましてね……なあ蘭紗、私はどうしても久利紗様を娶るほかないのだろうか?波成がいればそれでいいのだが……」
蘭紗様は僕の横で静かに首を振った。
「我にも、神の真意はわからぬのだ。しかし、紗国としてはお告げがあったのに無視もできない」
「そうか……だが……私はこのままでは、波成の父に殺されないだろうか」
最後の部分はひじょうに小さい声で囁かれた。
僕は思わず吹き出してしまったし、蘭紗様も笑いを噛みしめる顔になった。
「いや……波呂には我からよく言って聞かせてある。あれも紗国人だ。始祖様のお告げがどれほど大事なのかわからないはずはない」
「そうかな……」
「波羽彦様、私は、久利紗様がいらしても嫌なんかじゃありませんよ。3人いれば力も大きくなるのです。これから阿羅国を盛り上げていくには、2人より3人のほうがいいに決まってますし、それに……お二人のお子ならば、私は愛せます」
「波成……」
「久利紗様を助け、私も一緒に子育てをしてまいりますから」
波羽彦さんは困った顔のまま泣きそうになって波成様を見つめた。
波成様は僕の顔をじっと見て、そして微笑んだ。
「ね、薫様、そうですよね」
「……はい、波成様。誰から生まれた子であろうとも、波成様ならきっと良い子に育てられるでしょう」
微笑んだ波成様はとてもきれいだった。
「我が姉は、15年もの間、誰にも会わずに閉じこもっていた王女だ。それゆえ、常識を知らぬし、それにできることも少ないと思う。だが、波成をないがしろにしたり、子を産んだからと我が物顔で覇権を取ろうなどという人でないと思う……波羽彦が波成に遠慮して躊躇するのはわかるが、どうか、始祖様のお告げを受けてほしい」
「……蘭紗……わかった。明日、お目通りには波成も連れて行く。それはいいだろう?」
「ああ、もちろんだ」
波成様は静かに波羽彦様の手を取り、2人はしばらく見つめ合って……そして微笑みあった。
「楽団か?その後ろの者たちは」
「ああ、そうだ……この後、薫様のお計らいにより演奏を許されているのだ、薫様、ありがとう」
「いえ、お礼はこちらが言うことですよ、宴会に楽団は付き物です。素敵な演奏を楽しみにしていますよ」
2人の後ろに控えていた12人からなる楽団のメンバー達はポッと頬を赤らめ嬉しそうに頷いた。
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