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愛のかたち2

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「だって……私の命がいつまであるのか、わからないでしょ?私のような麒麟がこの世に生まれた理由は先代王の戴冠に対しての『天からの祝い』です。ですが……今はもう先代王はお隠れになっていらっしゃる。……つまりもう、この世は私の世ではないのです。お役目が終わっている以上、ずっとこのまま長生きというわけではないでしょう」
「ちょっと待って下さい……どうしてそんなことをおっしゃるのです?お体は前よりも丈夫になられて調子も良いと……これならば寿命も伸びただろうと……」

僕は必死に波成様に問いかけた。
だけど困った顔になるばかりで……そして僕の手をぎゅっと握ってくれた。

「確かにね、私はそう言いましたよね。ですけどね、それは何百年もとかそういうことではありませんよ。本来、お嫁様を得て長生きになった王のそばにいる霊獣は、それこそ何百年も生きたのでしょうが……そう、翠紗様のようにですね」

そして、にっこりと微笑まれた。

「蘭紗様は薫様がそばにいらっしゃれば、この先ずっと長きに渡り良い国造りができるでしょう。そのそばにおられる翠紗様はきっといつも幸せでずっと笑っていられるに違いない。……あなたもです、薫様」
「……」
「私は本来、あと2、3年だと兄から言われていました。ですが今は、少し天から寿命を授かったようですからね、その幸運があるのならば2、30年ぐらいは生きられる、そんな気はしています、だから今すぐに死んだりなんかしません。……ね、だからそんな顔しないでくださいな。それに私は今、健康体を手に入れて楽しく暮らしてるんですしね」

そして、綺麗な白い細い手で僕の頬を流れる涙を拭ってくれた。

「だけど、波羽彦様は違うのです。あの方はやはり阿羅彦様の血を濃く継ぐ者なのです。今後、何百年も生きて行かれるでしょう。そしてそのおそばには誰かが……いてあげてほしい……そう思っていたのです。……波羽彦様のこれまでの人生は孤独でした。悪しき者に囲まれ、お気の休まる時は無かったでしょう。……波羽彦様のお幸せだけを私は願っているのです。このお告げは、私の願いでもありました。今、私はとても安心して、そしてうれしいのです」

僕は拭っても拭っても溢れ出る涙が止まらなかった。

こんな悲しくて、そして美しい願いがあるのだろうか?

「……薫様……私のことでそんなに泣いてくださるなんて……」
「波成様……僕は……あなたを尊敬もしているし、そして大切な友だとも思っております。どうか、死んでいくことをそんな当たり前みたいにおっしゃらないでください」
「フフ……薫様、ありがとうございます。私にはいつの間にか、こんな素敵な友ができていたのですね。……うれしい」
「このことは……波羽彦王はご存知なのですか?」
「いえ、まだ話していませんよ、何と伝えればいいのやらと、考えあぐねておりました……薫様は、どこでこのお告げを?」
「義姉の佐良紗様から先ほど……なんでも始祖様からお告げを受けられて、蘭紗様に報告するよりも先に久利紗様にそれを伝えたかったということで、久利紗様がお呼ばれになったのですが、その付添いにご一緒したのです」
「薫様は、久利紗様とお会いしたのですか?!」
「はい、はじめは留紗が森の中で偶然お見かけしたことがきっかけで……先日留紗と翠を連れて離れの宮に寄らせていただきました」

波成様は興味深そうに僕をじっと見つめて頷くと、僕の手を取って、静かに王墓外に出た。
そして少し歩いて丘の上まで来た。

「せっかくの春の日差しですからね。ここからなら歴代の王の墓が見通せます。ここでお話しませんか?」
「はい……そうですね!」

僕は深呼吸して森の匂いを嗅いだ。
心が休まって、そして、落ち着いてきた。

「さあ、こちらへ」

見ると、波成様が大きな布を開いて手をトントンとした。

「お花をくるんできただけなので、汚れてないと思いますから!ここに座りましょ、ね?」
「はい!」

王墓を見通せる丘の上に二人で並び、そして笑顔で顔を見合わせた。

「薫様は、ついにあの久利紗様のお心までも溶かしたのですね……」
「え?」
「……久利紗様がどうして離れの宮に隠れるようにお過ごしになっているのか、それは……知る人ぞ知る謎でしたが……私は跳光の家の出です。だいたいのことは把握してるんですよ。もちろん全容ではないですが」
「そうですか……久利紗様は……その、罪の意識があまりにもお強く……そして、我慢強く自分を律しておいででした。ですがもう、ご自分をお許しになっても良いのでは?と、僕はそう問いかけた、それだけです」
「でも、その薫様の言葉に久利紗様は救われたのですね、あなたの言葉は本当に人を思いやるもので溢れていますから」

波成様はそばに生えている小さな草花を撫でて微笑んだ。

「久利紗様は阿羅国に行かれることを、どうお考えなのでしょうか」
「僕にはわかりません……ですが……森の神殿でこうおっしゃいました『紗国王が決めて阿羅国王が了承するのなら、嫁いで子を産みましょう』と」

波成様はそれを聞いて嬉しそうに破顔した。

「そうですか!そうですか!」
「……波成様……その……お辛くはないのですか?本当に」
「フフ……ヤキモチですか?……えっと少しはね……」

そう言って恥ずかしそうに顔を赤らめて俯いた。

「でもね……それ以上に嬉しいのです。波羽彦様にお子がお生まれになるということが。……薫様は翠紗様のお母様として、なんとなくなら僕の気持ちもわかりませんか?」
「というと……」
「自分が産んだ子じゃなくても、それが愛する人の大切な子なら、私にとっても大切なんです、それに久利紗様のことも……私がいなくなった後もきっと波羽彦様を支えてくださる大切な方……だから、早くお会いしたい……そう思います」

波成様の声は本当に心から嬉しそうに響いた。
それがたとえ強がりだったとしても、ここでそれを指摘するなんて野暮だ。

「そうですか……あなたは強いひとです……」

僕はまた涙が出そうになったけど、一生懸命我慢した。
本当に涙もろくて困っちゃうんだよね。

「さあ」と言って立ち上がって二人で手を繋いで丘を駆けて降りた。
僕達の友情を祝福してくれるかのように、山桜の花びらが舞い散ってきた。

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