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愛のかたち1
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土の地面を踏みしめて王墓へと歩く。
僕の気持ちの乱れを少しでも抑えたくて。
このままの気持ちで蘭紗様に会ってしまったら、責めてしまいそうだから。
蘭紗様は何も悪くないのに、それじゃ八つ当たりだ。
この気持ちの落とし所はどこなんだろう?
僕がここで気を揉んでも何の解決にもならない……そんなことはわかっているんだけど。
それにしても、どうしてあんなお告げがあったんだろう……どうして……
僕は波成様にも久利紗様にも幸せであってほしかった。
細い山道を歩いていると、やがて見えてきた丸い屋根に心が休まる思いをした。
静かに礼をして中に入る。
ひんやりとした清浄な空気の中で、ぼくは何度も深呼吸をして気持ちを鎮めようとした。
そして、手に持つ花を祭壇に捧げる。
ここは蘭紗様のお父様のお墓だ。
一緒に祀られているのは4人の王妃達と夭逝された瀬里紗様、それから……お嫁様のハリル様もいらっしゃる。
ハリル様はお亡くなりになるその瞬間まで蘭紗様のお父様に会いたいと夢みていらした。
今は満足されているのだろうか。
それから瀬里紗様……北海道の別荘で見たあの小さな子狐の姿を僕は忘れることができない。
……僕の声を日本に届けてもくれた。
本当にありがとうございます、僕は今元気で頑張っています。
そう、感謝するしかできないけれど。
でも
でも……
「なぜなのでしょうか?……波成様や久利紗様のお気持ちを大事にしてほしかったです……僕、今回のことは納得がいきません……」
こうやって天に召され今は穏やかにお過ごしなのかもしれないけれど……
生きていた頃……人であった頃の心の苦しさを忘れてしまうのだろうか。
波羽彦王も波成様も二人とも苦しみながら生きてきた人だ。
その二人のやっと掴んだ幸せに波風をたてるようなことをどうしてなさるんだろうか。
カツン……と足音が響いてハッとして振り向いた。
王族しか入ってこれない王墓に来るとしたら……
「え?波成様?」
「あ、やっぱり!後ろ姿がそうじゃないかと!薫様お久しぶりです」
にっこりと笑顔を輝かせた波成様がそこに立っていた。
手に可愛らしい大きな赤い花束を持って、阿羅国の着物をお召しだ。
「どうしてここに?港町の迎賓館でお過ごしなのでは?」
「フフ……夢をね、見たんですよ。それで、居ても立ってもいられなくてね……飛翔してきたんです」
「え……夢って……」
「薫様こそどうなさったんです?」
「えっと僕は……」
上手くごまかせなくて口ごもった。
すると波成様が、ふと真面目な顔になってなにか言いたげに口を少し開いて止まった。
「薫様?……もしかして、薫様もお告げが?」
「え!」
僕は『お告げ』という言葉に反応してしまって驚いてしまった。
「そうですか……」
そう言って静かに微笑んだ。
「ならば……やはりあれは私の思い違いなんかじゃないのですね……」
波成様は穏やかな表情で赤い花束を祭壇に捧げた。
「夢とは?」
「……ふふ……おかしな夢でした……外にお出にならないはずの久利紗様を波羽彦様の王妃とせよと、そう夢枕に立っておっしゃるのです……」
「え!そんな……それを見たんですか?」
「ええ」
「どなたから告げられたのですか?」
「……先代の王、汀紗様です……」
「え……」
僕は思考が固まってしまって動けなかった。
なにか言わなくちゃと思っても口がうまく動かせない。
佐良紗様が始祖様から受けたお告げは、波成様が先代王から告げられたことと一緒なんだ……
「ですから、それを確かめにここに来ずにはいられませんでした。もしもそれが天のお考えに間違いないのなら……」
そこまで言って波成様は微笑んだ。
「阿羅国としては久利紗様を大事にお守りしていく覚悟を決めなければなりませんからね」
波成様は先代王の霊獣だ……僕たちよりも天に近い存在。
つまり、このお告げが本当のものだと最初からわかっていらしたはず。
そしてここに僕がいたことで確信されたのかもしれない。
どっちにしても、もうすでに覚悟を決めたかに見える波成様の凛としたお顔からは、悲しみの色は伺えない。
「……お嫌ではないのですか?」
不躾だとは思いながらも、聞かずにはいられなかった。
つい視線を外し、自分の足元を見てしまう。
王墓の中の床はモザイクタイルが貼られていて、美しい。
今はその美しささえ悲しく映る。
「薫様、私は……どちらかというとね、安心したのかもしれません」
「あんしん?」
僕は俯いていた顔をのろのろと上げて波成様の小さくておきれいな、どことなく翠に似た顔を見つめた。
僕の気持ちの乱れを少しでも抑えたくて。
このままの気持ちで蘭紗様に会ってしまったら、責めてしまいそうだから。
蘭紗様は何も悪くないのに、それじゃ八つ当たりだ。
この気持ちの落とし所はどこなんだろう?
僕がここで気を揉んでも何の解決にもならない……そんなことはわかっているんだけど。
それにしても、どうしてあんなお告げがあったんだろう……どうして……
僕は波成様にも久利紗様にも幸せであってほしかった。
細い山道を歩いていると、やがて見えてきた丸い屋根に心が休まる思いをした。
静かに礼をして中に入る。
ひんやりとした清浄な空気の中で、ぼくは何度も深呼吸をして気持ちを鎮めようとした。
そして、手に持つ花を祭壇に捧げる。
ここは蘭紗様のお父様のお墓だ。
一緒に祀られているのは4人の王妃達と夭逝された瀬里紗様、それから……お嫁様のハリル様もいらっしゃる。
ハリル様はお亡くなりになるその瞬間まで蘭紗様のお父様に会いたいと夢みていらした。
今は満足されているのだろうか。
それから瀬里紗様……北海道の別荘で見たあの小さな子狐の姿を僕は忘れることができない。
……僕の声を日本に届けてもくれた。
本当にありがとうございます、僕は今元気で頑張っています。
そう、感謝するしかできないけれど。
でも
でも……
「なぜなのでしょうか?……波成様や久利紗様のお気持ちを大事にしてほしかったです……僕、今回のことは納得がいきません……」
こうやって天に召され今は穏やかにお過ごしなのかもしれないけれど……
生きていた頃……人であった頃の心の苦しさを忘れてしまうのだろうか。
波羽彦王も波成様も二人とも苦しみながら生きてきた人だ。
その二人のやっと掴んだ幸せに波風をたてるようなことをどうしてなさるんだろうか。
カツン……と足音が響いてハッとして振り向いた。
王族しか入ってこれない王墓に来るとしたら……
「え?波成様?」
「あ、やっぱり!後ろ姿がそうじゃないかと!薫様お久しぶりです」
にっこりと笑顔を輝かせた波成様がそこに立っていた。
手に可愛らしい大きな赤い花束を持って、阿羅国の着物をお召しだ。
「どうしてここに?港町の迎賓館でお過ごしなのでは?」
「フフ……夢をね、見たんですよ。それで、居ても立ってもいられなくてね……飛翔してきたんです」
「え……夢って……」
「薫様こそどうなさったんです?」
「えっと僕は……」
上手くごまかせなくて口ごもった。
すると波成様が、ふと真面目な顔になってなにか言いたげに口を少し開いて止まった。
「薫様?……もしかして、薫様もお告げが?」
「え!」
僕は『お告げ』という言葉に反応してしまって驚いてしまった。
「そうですか……」
そう言って静かに微笑んだ。
「ならば……やはりあれは私の思い違いなんかじゃないのですね……」
波成様は穏やかな表情で赤い花束を祭壇に捧げた。
「夢とは?」
「……ふふ……おかしな夢でした……外にお出にならないはずの久利紗様を波羽彦様の王妃とせよと、そう夢枕に立っておっしゃるのです……」
「え!そんな……それを見たんですか?」
「ええ」
「どなたから告げられたのですか?」
「……先代の王、汀紗様です……」
「え……」
僕は思考が固まってしまって動けなかった。
なにか言わなくちゃと思っても口がうまく動かせない。
佐良紗様が始祖様から受けたお告げは、波成様が先代王から告げられたことと一緒なんだ……
「ですから、それを確かめにここに来ずにはいられませんでした。もしもそれが天のお考えに間違いないのなら……」
そこまで言って波成様は微笑んだ。
「阿羅国としては久利紗様を大事にお守りしていく覚悟を決めなければなりませんからね」
波成様は先代王の霊獣だ……僕たちよりも天に近い存在。
つまり、このお告げが本当のものだと最初からわかっていらしたはず。
そしてここに僕がいたことで確信されたのかもしれない。
どっちにしても、もうすでに覚悟を決めたかに見える波成様の凛としたお顔からは、悲しみの色は伺えない。
「……お嫌ではないのですか?」
不躾だとは思いながらも、聞かずにはいられなかった。
つい視線を外し、自分の足元を見てしまう。
王墓の中の床はモザイクタイルが貼られていて、美しい。
今はその美しささえ悲しく映る。
「薫様、私は……どちらかというとね、安心したのかもしれません」
「あんしん?」
僕は俯いていた顔をのろのろと上げて波成様の小さくておきれいな、どことなく翠に似た顔を見つめた。
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