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アオアイに友来る3 蘭紗視点

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「ガラス工房だ。前、涼が言ってただろ、ガラスのクズを見て、ガラスって粉々になってもきれいだねって……あの工房だよ」
「そっか……じゃああの怖い親方に認められたの?」

そう言って涼鱗は声を上げて笑った。
トレムもプッと吹き出す。
我はわからずに二人を見つめていると、涼鱗が話しだした。

「あのね、あんまりきれいだからさ、その割れたガラスを二人で集めて遊んでたの。そしたらいきなり大声で怒鳴られてね!」
「ああ、怪我したらどうすんだ!あほうが!ってな」
「……なるほど……」

その言葉は理にかなっていると思う。

「あの割れたガラスは、うまく作れなかった物を親方が叩き割って作ったガラスくずの山だったらしくてな、それはゴミじゃなくてまた溶かして使う材料だったんだ」
「でね、その大事なものを盗もうとしてたわけ、僕たち」

涼鱗がエヘって笑うそばでトレムが優しいまなざしで涼鱗を見つめていた。

「だけど、親方は材料を盗むなと怒ったんじゃない、俺らが怪我しないようにって注意してくれただけだ」
「うん、そうだね、しかもその後レモン水をごちそうしてくれたしね」
「で、その後……何度かそこで手伝いをするようになってたんだが」
「そうなの?知らなかった……」
「ああ、その日のメシを買うぐらいの小遣いをくれたしな……でな、親のない俺のような孤児を雇ってくれるところなんて、あんまりないんだけどよ、あの親方は俺が字も書けるし数も数えられるなら雇ってやるって言ってくれてな、来月から弟子入りってことになったんだ」
「じゃあ、忙しくなるの?」
「ああ、それに、親方の家に住み込みだから自由も無くなる、もう涼と遊べなくなると思ってな」
「それでわざわざ?でも!二度と会えないわけじゃないしね!僕、ラハームに帰ったら尋ねるよ、年に二回は帰るんだし!」
「だが……お前がたまに帰国するとしても城で王族としての用事だってあるんだ、なかなか会えないことに変わりないさ。それに、あんな場所、王子が来るような場所じゃねえ……つまり、俺と仲良くするなんてはじめから良くないことだったと思うんだ、治安の悪い地域だし」
「何言ってんの、今更」

涼鱗はトレムの言葉を笑い飛ばした。

「そもそも、誰かに僕が負けるわけないでしょ、トレム、知ってるでしょ」
「まあ、そうかもしれえねえが……」
「だから僕のことは心配しないで!でも、会いに来てくれてうれしい」
「うん、俺もあえてよかったよ」

トレムは少年らしい笑顔を見せて笑った。

我の全く知らない種類の会話だった。
将来を本気で考える親のない子、そしてその彼と仲良く遊び、字や数学を教えて彼の人生を変えた涼鱗。
城だけで暮らしていたならば、決して会うことのなかった二人が心を通わせている姿は……なんだか眩しかった。



その日は涼鱗がトレムと一緒に夕食をとりたいと言うので、我が金を出すと、トレムは屋台に出かけ、抱えきれないアオアイ料理を買って来た。
我ら3人で狭いその一室で夕食となったのだ。

我が見慣れない屋台の食事をゆっくりと少しずつ食べていると「お上品だなあ!」とトレムは笑った。

「だが熱いじゃないか」
「ふっ 王子だよな、まったく……」

その言いぐさはどうかと思うが、ズズッと一気にかきこむ姿はその時なぜかとても男らしく見え、我も真似してみた。

だが、慣れないことをしてむせてしまい、二人は笑いながら背中を擦ってくれた。

そして、夕暮れになって我らが帰る時、涼鱗とトレムは抱き合って再会の約束をした。
トレムは粗末な鞄から大事そうに一つの包みを取り出した。
そして涼鱗にそれを渡し、開けるように言った。

涼鱗が首を傾げながら開けると、中にはきれいに夕日を反射させるガラスの玉が入っていた。
蛇族の家ではガラスの玉をお守りにし、棚に飾ると聞いたことがある。

「俺が初めて作ったんだ、親方が手を添えてくれたから一人でじゃないけどな」

恥ずかしそうにトレムは微笑んで、涼鱗を優しく見つめた。

「ありがとう……大切にするね……ほんとにすごくうれしい……そして、とってもきれいだね……トレムの瞳の色みたい……」

心に残ったのは、そのガラス玉が反射するオレンジの光。
キラキラと光って、涼鱗の白く美しい髪を彩っていた。


……

……


そして……その2年後、トレムは亡くなったと聞いた。

なぜなのか、理由までは聞けなかった、涼鱗があまりにもショックを受けていたからだ。
彼はぼろぼろになってしまい、食事も取れない有様で、我やカジャルや他の級友らも一生懸命に彼の世話を焼いた。

だが、なぜ涼鱗が悲しんでいるのか、真の理由を知るものは我だけだっただろう。
他の誰も、貧民街のトレムを知らない。

我は、トレムとは一度しか会っていないので友と言えるかはわからない。
それでも心が悲しく揺さぶられる経験となった。

友情を育むのにどこの生まれなのかなど、そんなことは関係のないことだ、それは心の底から思う。
目の前で、その美しい友情を見たからだ。

だからこそ思った。

彼が亡くなった原因は詳しくはわからずとも、彼が貧民街で苦労しその後も差別を受けていたことはわかる。
ならばこういうことを少しずつでも解決してゆくのが我らの仕事なのだろうと。


だが……そう思ったにもかかわらず、今まで自国の貧民街にも手を付けずに来てしまっていた。
そのことに気づかせてくれ、そして何かを変えることの力を与えてくれた薫を思った。



ありがとう……



感謝の気持ちを胸に秘め、我は紗国の行く末が明るいことを願った。


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