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朝起きて窓を開けてみた。
庭師が丹精込めて美しく整えてくれている和風庭園には、松や山茶花などが雪にお化粧されて美しい。
はぁと息を吐くと白くなって寒いんだなあと思う……
でも、足元からぽかぽかだから、寒さは感じないんだけどね、本当に不思議な暖房だよね。
「薫様、お目覚めですか?」
「うん、おはよう」
仙と真野が朝の支度の準備をして入室してきた。
僕の気配を敏感に感じ取ってくれる優秀な侍女たちなんだよね。
僕は暖かなぬるま湯で顔を洗って口をきれいにした。
それから今日の室内着に着替えるんだけど……あれ?これは外出着かな。
「えとなんだっけ、どこか行く用事あった?」
「はい、先程蘭紗様のお知らせが来まして、波成様のお帰りが近いのでご一緒に昼餐会をとのことでした」
「なるほど、じゃあもう体調がいいのかな」
あれから波成様は翠のお告げ通りに、王墓に日参して花を捧げてきた。
はじめは2日に一度は高熱を出したり、突然意識を失ったりなど不安定な状態が続いたのだが、最近は落ち着いてきていると聞いた。
「お忙しそうになさっていたからあまりお会いできなかったし……お帰りになると聞いたら少しさみしいな」
「さようでございますね……でも、今日明日ということはないでしょうから」
「そうだね」
僕は着替えて椅子に座り、国内や外国から寄せられた文を見た。
蘭紗様ほどではないけれど、僕にも国内からは請願や陳情が届いたり、外国の王族からのご機嫌伺いやお誘いのお手紙などが来るのだ。
僕は、国の政治にはあまり関わるつもりはないのだけど、一つだけ気になることがある。
それは孤児院のこととそれに付随して、まざりとその母のこと。
紗国の領土は広い。
翠のいた孤児院は城下町と森周辺の荘園地帯の孤児院だったけど、まだまだ他にもあるのだ。
それらの中にあのような悪徳貴族が食い物にしている孤児院が無いか?または、不当な扱いを受けている子供がいないか?を僕は調査している。
それにはカジャルさんの義兄・葛貫さんが協力してくれている。
来年の春からは根白川家の当主となることが正式に決まっている、恰幅の良い真面目な人だ。
その葛貫さんは僕が翠を助けた後、孤児院の建て直しや、世話人の選定まで何から何まで任せてしまったのだけど、とても頼りになる人だとわかって嬉しかった。
やはり自分ひとりではどうにもならないからね。
「お茶でございます」
サヨがいつも通りお茶を運んできてくれた。
まだ見習いながらしっかりと皆のことをお手本に頑張る姿がかわいい。
「ありがとうね」
僕が微笑むと必ず恥ずかしそうに少し赤くなる。
「あ……」
僕は一通の文を手に固まった。
それはこの冬に雪崩被害のあったあの山間部の長老からだった。
僕は急いで中を見た。
そこには、雪の中なかなか進まないが、それでも頑張って復興していこうとする意欲や、春にはぜひ美しい花を見に来てほしいとの内容が書かれていた。
そう言えば僕は山間部のことをほとんど知らない。
春、若葉が芽吹き、そして花が咲いて、それは美しいだろうと想像して嬉しくなった。
悲しいことがあっても、その先に少しでも希望があれば……きっと立ち直っていけるよね。
次の文は城下町の新しい孤児院長からの報告だった。
町の大商人だと紹介を受けたが、そのとおりの印象の豪傑な文字で子らの成長と安全、そして日々の暮らしのことが細やかに書かれていて、安心できた。
あの子たちも再教育され、今は村の分校に通っているという。
きちんとお勉強して、希望の職があればそれにつけるよう後押しもしてあげなくてはと思う。
どこの世界でも後ろ盾があるのと無いのとでは、就職の際は雲泥の差だ。
それがわからないほど僕も世間知らずではない……つもり……
そして、各地の長からの報告によると、城下町の孤児院ほどではないけれど、どこも似たりよったりで、あまり子に対して良い生育環境とは言い難いとの厳しい報告が集まっていた。
僕はそれをまとめながら、仙に話しかけた。
「仙、カジャルさんと葛貫さんを呼んでもらえるかな?ちょっと急ぎで話したいの」
「はい……でもまずは少しでも何かをお召し上がりになってください」
「そう……だね。でも、昼餐会もあるし、じゃあ、なにか果物を切ってくれる?」
「かしこまりました」
仙が優雅に果物の準備をしてくれている間、僕はまた文を読み始めた。
瀬国王妃ザーニヨ様からのものだ。
美しい透かしの入った便箋に流れるような流麗な文字が書かれている。
貴婦人!という感じだよね……すこし、我が強そうなところもまた……
内容は、水着の試着をして大変気に入ったが、着姿を見て夫がとても心配しているとのことだ。
そのため女性だけの水の遊び場の建設を春から行うことになったとある。
手足を豪快に出したデザインなんだから、そんなものを見慣れない世の中の男はびっくりもするだろうね。
でもだからって早速、海水浴場なのかプールなのかわからないけど……それ専用に作らせるあたり……さすが王族だよね……
取り敢えず、まだまだ研究段階なのでもう少し待っていただくようお返事を書かねば。
僕はいくつかの文にその場でお返事を書き、仙に託した。
庭師が丹精込めて美しく整えてくれている和風庭園には、松や山茶花などが雪にお化粧されて美しい。
はぁと息を吐くと白くなって寒いんだなあと思う……
でも、足元からぽかぽかだから、寒さは感じないんだけどね、本当に不思議な暖房だよね。
「薫様、お目覚めですか?」
「うん、おはよう」
仙と真野が朝の支度の準備をして入室してきた。
僕の気配を敏感に感じ取ってくれる優秀な侍女たちなんだよね。
僕は暖かなぬるま湯で顔を洗って口をきれいにした。
それから今日の室内着に着替えるんだけど……あれ?これは外出着かな。
「えとなんだっけ、どこか行く用事あった?」
「はい、先程蘭紗様のお知らせが来まして、波成様のお帰りが近いのでご一緒に昼餐会をとのことでした」
「なるほど、じゃあもう体調がいいのかな」
あれから波成様は翠のお告げ通りに、王墓に日参して花を捧げてきた。
はじめは2日に一度は高熱を出したり、突然意識を失ったりなど不安定な状態が続いたのだが、最近は落ち着いてきていると聞いた。
「お忙しそうになさっていたからあまりお会いできなかったし……お帰りになると聞いたら少しさみしいな」
「さようでございますね……でも、今日明日ということはないでしょうから」
「そうだね」
僕は着替えて椅子に座り、国内や外国から寄せられた文を見た。
蘭紗様ほどではないけれど、僕にも国内からは請願や陳情が届いたり、外国の王族からのご機嫌伺いやお誘いのお手紙などが来るのだ。
僕は、国の政治にはあまり関わるつもりはないのだけど、一つだけ気になることがある。
それは孤児院のこととそれに付随して、まざりとその母のこと。
紗国の領土は広い。
翠のいた孤児院は城下町と森周辺の荘園地帯の孤児院だったけど、まだまだ他にもあるのだ。
それらの中にあのような悪徳貴族が食い物にしている孤児院が無いか?または、不当な扱いを受けている子供がいないか?を僕は調査している。
それにはカジャルさんの義兄・葛貫さんが協力してくれている。
来年の春からは根白川家の当主となることが正式に決まっている、恰幅の良い真面目な人だ。
その葛貫さんは僕が翠を助けた後、孤児院の建て直しや、世話人の選定まで何から何まで任せてしまったのだけど、とても頼りになる人だとわかって嬉しかった。
やはり自分ひとりではどうにもならないからね。
「お茶でございます」
サヨがいつも通りお茶を運んできてくれた。
まだ見習いながらしっかりと皆のことをお手本に頑張る姿がかわいい。
「ありがとうね」
僕が微笑むと必ず恥ずかしそうに少し赤くなる。
「あ……」
僕は一通の文を手に固まった。
それはこの冬に雪崩被害のあったあの山間部の長老からだった。
僕は急いで中を見た。
そこには、雪の中なかなか進まないが、それでも頑張って復興していこうとする意欲や、春にはぜひ美しい花を見に来てほしいとの内容が書かれていた。
そう言えば僕は山間部のことをほとんど知らない。
春、若葉が芽吹き、そして花が咲いて、それは美しいだろうと想像して嬉しくなった。
悲しいことがあっても、その先に少しでも希望があれば……きっと立ち直っていけるよね。
次の文は城下町の新しい孤児院長からの報告だった。
町の大商人だと紹介を受けたが、そのとおりの印象の豪傑な文字で子らの成長と安全、そして日々の暮らしのことが細やかに書かれていて、安心できた。
あの子たちも再教育され、今は村の分校に通っているという。
きちんとお勉強して、希望の職があればそれにつけるよう後押しもしてあげなくてはと思う。
どこの世界でも後ろ盾があるのと無いのとでは、就職の際は雲泥の差だ。
それがわからないほど僕も世間知らずではない……つもり……
そして、各地の長からの報告によると、城下町の孤児院ほどではないけれど、どこも似たりよったりで、あまり子に対して良い生育環境とは言い難いとの厳しい報告が集まっていた。
僕はそれをまとめながら、仙に話しかけた。
「仙、カジャルさんと葛貫さんを呼んでもらえるかな?ちょっと急ぎで話したいの」
「はい……でもまずは少しでも何かをお召し上がりになってください」
「そう……だね。でも、昼餐会もあるし、じゃあ、なにか果物を切ってくれる?」
「かしこまりました」
仙が優雅に果物の準備をしてくれている間、僕はまた文を読み始めた。
瀬国王妃ザーニヨ様からのものだ。
美しい透かしの入った便箋に流れるような流麗な文字が書かれている。
貴婦人!という感じだよね……すこし、我が強そうなところもまた……
内容は、水着の試着をして大変気に入ったが、着姿を見て夫がとても心配しているとのことだ。
そのため女性だけの水の遊び場の建設を春から行うことになったとある。
手足を豪快に出したデザインなんだから、そんなものを見慣れない世の中の男はびっくりもするだろうね。
でもだからって早速、海水浴場なのかプールなのかわからないけど……それ専用に作らせるあたり……さすが王族だよね……
取り敢えず、まだまだ研究段階なのでもう少し待っていただくようお返事を書かねば。
僕はいくつかの文にその場でお返事を書き、仙に託した。
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