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愛念1
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蘭紗様の部屋にある美しい装飾の棚に、綺麗な色の石が並べられている。
僕はそれを眺めてクスリと笑った。
翠が小さな手で一生懸命集めてきて、蘭紗様のお部屋に毎日届けにくるのだ。
お忙しい蘭紗様に会えない時もあるのが寂しいようで、僕といる時もよく蘭紗様のことを聞いてくる。
「おうさまは何が好きですか?」そう聞かれて、きれいなものがお好きかな?って何の気なしに答えたのがきっかけ……だとしたら。
これは僕のせいなのかも……
「これなんて、完全に透明なのだ。どこで拾ってくるのか……翠はすごいな」
隣の蘭紗様も嬉しそうに笑顔で見つめている。
この人の隣にいて、当たり前のように愛してくれて大事にしてくれる。
こんな幸せを手に入れることができるとは……日本にいる頃の僕は考えもしなかった。
そしてこの生活に慣れてしまったから、これが奇跡のようなことだったということを忘れていたのかもしれない。
先代のお嫁様は薬漬けになって痩せて衰えて……あの姿が自分と重なって恐ろしかった。
彼の姿を哀れと思うのではなく、自覚させられたのだ……僕はこういう存在だったのだと。
少しなにかの歯車が狂えば、ああなっていたのは僕だ。
そして……考えたくはないけど。
もしも先代のお嫁様が先代とうまく会えていて、結ばれていたとしたら……蘭紗様と僕は会えなかったんじゃないのかな……
そんな恐ろしいことが胸に浮かび、苦しくて仕方がない。
こんな時に自分のことばかり考えるなんて……浅ましいとは思うけど。
「薫……」
気づけば蘭紗様が心配気に僕を見つめていた。
「蘭紗様……」
おそらく、蘭紗様だってそのことには気づいているはず。
僕たちが出会って今一緒にいるのは、多くの犠牲の上になり立っている危うい現実だったということに。
静かにゆっくりと抱きしめてくれた蘭紗様の胸に目を閉じて縋り付く。
今だけは、先代のお嫁様のことを忘れよう……そう思った。
「翠紗が……また泣き出さないかと思ってだな……ずっと自重していたのだが……」
「え?」
僕は目をまんまるにして蘭紗様を見上げた。
「その……前に、すごく泣いていただろう?あんなことがあった時にまた気づけぬようでは困ると思ってな」
そう言いながら僕の髪の毛を指で梳いていく。
蘭紗様に頭を撫でられるのが大好きだ。
「んと……そのことなんですけど……」
「どうした?」
「翠は、僕たちの気配が急に無くなったのが怖かったんだそうですよ。その時にちょうど目覚めていたのかもしれませんし、寝ていても気配を感じるのかはわかりませんが」
「なんだって?」
蘭紗様は眉根を寄せて考え出した。
「あれですよ、僕たち魔力が多いでしょ?だから翠には見えるんですって、どこにいても僕たちのことが」
「うむ……そういうことだったのか……そういえば、翠は魔力の多いものの気配を感じるのだったな」
「ええ、それで、蘭紗様は僕たちがエッチする時に空間魔法をお使いになるでしょ?あれで気配が消えて不安になったんじゃないかと……そう思うんですよね」
蘭紗様はふぅと溜息をついてから、僕を横抱きにしてベッドにポスンと寝かしてくれた。
「ならば……空間魔法を使わねば大丈夫なわけだな……」
「でもそしたら今度は……」
「侍女たちが気になるのか?」
「まあ……そうですね……」
「だが……薫は我が空間魔法を使っていることに気づいてなかったのだろう?」
意地悪そうな目つきで見つめられて、僕は頬が熱くなっていくのを感じた。
「……だったら……静かになるべく……えっと……誰にも気づかれないように……」
僕の言葉を聞いて、声を出して笑いながら蘭紗様も僕の横に座った。
「ならば……そうしようか?」
少し声を落として耳のすぐそばでそんなことを言われたら、体中が熱くなっていってしまう。
僕は蘭紗様に顔を引っ付けるようにして囁いた。
「あのね……長くなっちゃうと声でちゃうから……短めで……」
「ぷっ……」
蘭紗様は吹き出して笑い出しながら僕の上にのしかかってきた。
僕はそれを眺めてクスリと笑った。
翠が小さな手で一生懸命集めてきて、蘭紗様のお部屋に毎日届けにくるのだ。
お忙しい蘭紗様に会えない時もあるのが寂しいようで、僕といる時もよく蘭紗様のことを聞いてくる。
「おうさまは何が好きですか?」そう聞かれて、きれいなものがお好きかな?って何の気なしに答えたのがきっかけ……だとしたら。
これは僕のせいなのかも……
「これなんて、完全に透明なのだ。どこで拾ってくるのか……翠はすごいな」
隣の蘭紗様も嬉しそうに笑顔で見つめている。
この人の隣にいて、当たり前のように愛してくれて大事にしてくれる。
こんな幸せを手に入れることができるとは……日本にいる頃の僕は考えもしなかった。
そしてこの生活に慣れてしまったから、これが奇跡のようなことだったということを忘れていたのかもしれない。
先代のお嫁様は薬漬けになって痩せて衰えて……あの姿が自分と重なって恐ろしかった。
彼の姿を哀れと思うのではなく、自覚させられたのだ……僕はこういう存在だったのだと。
少しなにかの歯車が狂えば、ああなっていたのは僕だ。
そして……考えたくはないけど。
もしも先代のお嫁様が先代とうまく会えていて、結ばれていたとしたら……蘭紗様と僕は会えなかったんじゃないのかな……
そんな恐ろしいことが胸に浮かび、苦しくて仕方がない。
こんな時に自分のことばかり考えるなんて……浅ましいとは思うけど。
「薫……」
気づけば蘭紗様が心配気に僕を見つめていた。
「蘭紗様……」
おそらく、蘭紗様だってそのことには気づいているはず。
僕たちが出会って今一緒にいるのは、多くの犠牲の上になり立っている危うい現実だったということに。
静かにゆっくりと抱きしめてくれた蘭紗様の胸に目を閉じて縋り付く。
今だけは、先代のお嫁様のことを忘れよう……そう思った。
「翠紗が……また泣き出さないかと思ってだな……ずっと自重していたのだが……」
「え?」
僕は目をまんまるにして蘭紗様を見上げた。
「その……前に、すごく泣いていただろう?あんなことがあった時にまた気づけぬようでは困ると思ってな」
そう言いながら僕の髪の毛を指で梳いていく。
蘭紗様に頭を撫でられるのが大好きだ。
「んと……そのことなんですけど……」
「どうした?」
「翠は、僕たちの気配が急に無くなったのが怖かったんだそうですよ。その時にちょうど目覚めていたのかもしれませんし、寝ていても気配を感じるのかはわかりませんが」
「なんだって?」
蘭紗様は眉根を寄せて考え出した。
「あれですよ、僕たち魔力が多いでしょ?だから翠には見えるんですって、どこにいても僕たちのことが」
「うむ……そういうことだったのか……そういえば、翠は魔力の多いものの気配を感じるのだったな」
「ええ、それで、蘭紗様は僕たちがエッチする時に空間魔法をお使いになるでしょ?あれで気配が消えて不安になったんじゃないかと……そう思うんですよね」
蘭紗様はふぅと溜息をついてから、僕を横抱きにしてベッドにポスンと寝かしてくれた。
「ならば……空間魔法を使わねば大丈夫なわけだな……」
「でもそしたら今度は……」
「侍女たちが気になるのか?」
「まあ……そうですね……」
「だが……薫は我が空間魔法を使っていることに気づいてなかったのだろう?」
意地悪そうな目つきで見つめられて、僕は頬が熱くなっていくのを感じた。
「……だったら……静かになるべく……えっと……誰にも気づかれないように……」
僕の言葉を聞いて、声を出して笑いながら蘭紗様も僕の横に座った。
「ならば……そうしようか?」
少し声を落として耳のすぐそばでそんなことを言われたら、体中が熱くなっていってしまう。
僕は蘭紗様に顔を引っ付けるようにして囁いた。
「あのね……長くなっちゃうと声でちゃうから……短めで……」
「ぷっ……」
蘭紗様は吹き出して笑い出しながら僕の上にのしかかってきた。
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