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家族1 蘭紗視点
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ヴァヴェル王国の側近は総勢5名だったが、そのうちの4名が翌日の明け方、空の門から静かに風の音も立てずに帰っていった。
割と強めに降っている雨の中、無駄な音をたてず悠然と飛んで行く。
一方アイデンは到着した際、城を震えさせるほどの振動を与えたというではないか……
アイデンは幼体というだけあって飛ぶのも下手なのだろう。
100歳は越えているというのに。
「蘭紗、世話になるな!」
えへへと少年のように笑うのはアイデンだ。
「お前は……王だというのに他国に遊学したいとは何事なんだ……」
「だって僕、世間を知らないからさあ、それに、薫くんの話に興味があるんだ」
「ほう……ああ、あの通信機器のことか」
「それもだし、お嫁様として渡った異世界の者が、これまでも阿羅国に拉致されていたって話だけど……あれ、僕たちなんとなく知ってたかもしれなくてさ。なんかいまさらながら申し訳なくて。ちょっとでも研究のお手伝いになればと思ってるの」
「え?」
我は耳を疑った。
知っていただと?
「でもまあ、一言で済むような話じゃないし、涼鱗や薫くんがいるところで話したいから、研究所に行ってから話すよ。どうせ急を要する話じゃないんだ」
「……まあ……そうだな。了解した」
「昨夜泊まった離宮をそのまま貸し出してくれるって本当?」
「ああ、あそこは元々王族のためのものだから作りは十分に豪華だ、居心地もいいだろう」
「うん、ベッドもふかふかだったし……でもあれなんだよね?龍の体になっちゃいけないんだっけ?」
「……お前、普通にしているだけであの体だと他を威圧してしまうんだ、当たり前だろうが」
「だけどおかしいよね、アオアイの港で飛んでた時は薫くんだってあんなふうに怯えたりしなかったのに」
「……それは我の結界が船全体を包んでいたからだ……あれ船ぐらいの大きさならば、かなりの強度の結界が張れるので、そなたの気もこちらには影響なかっただけだ」
「なるほど……まあ、嫌われたくないし我慢するよ」
今度は舌を出して片目を瞑った。
こういう軽薄な態度がなんとも似合う外見で困る。
普通の感覚で見ると15才くらいのいかにも王家の男子だ。
装束は我らに似た着物だが、上から独特の袍という上着を重ねている。
その装束がやけに気品高く見える。
「今日から研究所にお勤めだよ!ねえ、僕、大人みたい!」
「いや……普通に大人として振る舞ってくれ、頼むから」
「うん、努力するよ!」
じゃあねといって、手をヒラヒラさせたアイデンが、離宮に向かうために退出した後も、我はその戸を見ながら溜息をつく。
なんでうちの国には他国の王子や王が居つくのだ……
まあ、涼鱗は結局、紗国の者になったが……
色々と考えつつ足は寝室へ向かう。
朝早い王国側近達の旅立ちだったため、大げさな見送りはいらぬと言うことで、我と喜紗のみの見送りだったのだ。
薫はまだ寝ているだろう。
そう思いながら、そっと扉を開くと意外なことにベッドの中に寝ているはずの薫の姿がなかった。
「……」
もしかしてと思い、翠の部屋に行ってみると、扉越しにかわいらしい笑い声が聞こえてきた。
「おうひさま、こそばゆい」
「そうなの?でも、ちゃんと塗らないと、こら翠」
「きゃははは!」
ぱたぱたと足音が聞こえて、扉がぱっと開かれた。
満面の笑みの翠が扉を開けたようだ、嬉しそうに抱きついてきたので、よしよしと抱き上げた。
「え……またなの?蘭紗様がいらしたのが、わかったってこと?」
「うん、わかった」
「それ……なんの特技なの?」
「何の話だ」
「うん、アイデン王がいらした時も、黒い鳥が西の方から来るって指さして教えてくれたんですよね……なんか気配を察知できるのか……目がいいのか耳が良いのかわかりませんが……」
我ははて?と翠を見つめた。
宝石のような若草色の瞳は、龍の鱗よりも更に美しいと我は思う。
この愛らしい小さな生き物が息子なのだ……そう思うだけで広がる充足感がたまらない。
「見えるのか?」
「ん?んー……見えないけどわかる感じ」
「ふむ……では、他のものも皆の動きがわかるのか?」
「んと、わかるのは、おうさまとか、おうひさまとか、りょうりんさまとか、あいでんおうさまとか、じいとか」
なるほど魔力の高い者を検知できるということか……
これだけでは異能とは呼べぬが……
「ちょっと蘭紗様、翠をおろしてもらえます?まだクスリを塗り終えてないのですよ」
「きゃはは!やだ!」
嬉しそうに足をジタバタさせて薫から逃げようとする翠を捕まえたままポスンとベッドに寝かせた。
「どこに塗るのだ?」
「背中なんです」
「背中?」
「ええ、肩甲骨あたりの羽毛を痒がるので、僑先生に伝えたら軟膏をくださって。でも塗るとこそばゆいらしくて、笑いながら逃げちゃうんですよね」
薫は可愛い顔で困っている。
「こら翠、だめじゃないか、困らせては」
我も笑顔で怒ったふりだ。
「でもー」
「みせてごらん?背中」
翠は笑いながらも着物を脱いで我に背中を見せた。
ちいさな痩せた体だが、はじめに見た時に比べいくらか肉がついたようで、ふっくらしてきているし、肌艶も良くなったことにホッとする。
「ここ、かゆいの」
なるほどそこにはみっちりと羽毛が生えていた。
割と強めに降っている雨の中、無駄な音をたてず悠然と飛んで行く。
一方アイデンは到着した際、城を震えさせるほどの振動を与えたというではないか……
アイデンは幼体というだけあって飛ぶのも下手なのだろう。
100歳は越えているというのに。
「蘭紗、世話になるな!」
えへへと少年のように笑うのはアイデンだ。
「お前は……王だというのに他国に遊学したいとは何事なんだ……」
「だって僕、世間を知らないからさあ、それに、薫くんの話に興味があるんだ」
「ほう……ああ、あの通信機器のことか」
「それもだし、お嫁様として渡った異世界の者が、これまでも阿羅国に拉致されていたって話だけど……あれ、僕たちなんとなく知ってたかもしれなくてさ。なんかいまさらながら申し訳なくて。ちょっとでも研究のお手伝いになればと思ってるの」
「え?」
我は耳を疑った。
知っていただと?
「でもまあ、一言で済むような話じゃないし、涼鱗や薫くんがいるところで話したいから、研究所に行ってから話すよ。どうせ急を要する話じゃないんだ」
「……まあ……そうだな。了解した」
「昨夜泊まった離宮をそのまま貸し出してくれるって本当?」
「ああ、あそこは元々王族のためのものだから作りは十分に豪華だ、居心地もいいだろう」
「うん、ベッドもふかふかだったし……でもあれなんだよね?龍の体になっちゃいけないんだっけ?」
「……お前、普通にしているだけであの体だと他を威圧してしまうんだ、当たり前だろうが」
「だけどおかしいよね、アオアイの港で飛んでた時は薫くんだってあんなふうに怯えたりしなかったのに」
「……それは我の結界が船全体を包んでいたからだ……あれ船ぐらいの大きさならば、かなりの強度の結界が張れるので、そなたの気もこちらには影響なかっただけだ」
「なるほど……まあ、嫌われたくないし我慢するよ」
今度は舌を出して片目を瞑った。
こういう軽薄な態度がなんとも似合う外見で困る。
普通の感覚で見ると15才くらいのいかにも王家の男子だ。
装束は我らに似た着物だが、上から独特の袍という上着を重ねている。
その装束がやけに気品高く見える。
「今日から研究所にお勤めだよ!ねえ、僕、大人みたい!」
「いや……普通に大人として振る舞ってくれ、頼むから」
「うん、努力するよ!」
じゃあねといって、手をヒラヒラさせたアイデンが、離宮に向かうために退出した後も、我はその戸を見ながら溜息をつく。
なんでうちの国には他国の王子や王が居つくのだ……
まあ、涼鱗は結局、紗国の者になったが……
色々と考えつつ足は寝室へ向かう。
朝早い王国側近達の旅立ちだったため、大げさな見送りはいらぬと言うことで、我と喜紗のみの見送りだったのだ。
薫はまだ寝ているだろう。
そう思いながら、そっと扉を開くと意外なことにベッドの中に寝ているはずの薫の姿がなかった。
「……」
もしかしてと思い、翠の部屋に行ってみると、扉越しにかわいらしい笑い声が聞こえてきた。
「おうひさま、こそばゆい」
「そうなの?でも、ちゃんと塗らないと、こら翠」
「きゃははは!」
ぱたぱたと足音が聞こえて、扉がぱっと開かれた。
満面の笑みの翠が扉を開けたようだ、嬉しそうに抱きついてきたので、よしよしと抱き上げた。
「え……またなの?蘭紗様がいらしたのが、わかったってこと?」
「うん、わかった」
「それ……なんの特技なの?」
「何の話だ」
「うん、アイデン王がいらした時も、黒い鳥が西の方から来るって指さして教えてくれたんですよね……なんか気配を察知できるのか……目がいいのか耳が良いのかわかりませんが……」
我ははて?と翠を見つめた。
宝石のような若草色の瞳は、龍の鱗よりも更に美しいと我は思う。
この愛らしい小さな生き物が息子なのだ……そう思うだけで広がる充足感がたまらない。
「見えるのか?」
「ん?んー……見えないけどわかる感じ」
「ふむ……では、他のものも皆の動きがわかるのか?」
「んと、わかるのは、おうさまとか、おうひさまとか、りょうりんさまとか、あいでんおうさまとか、じいとか」
なるほど魔力の高い者を検知できるということか……
これだけでは異能とは呼べぬが……
「ちょっと蘭紗様、翠をおろしてもらえます?まだクスリを塗り終えてないのですよ」
「きゃはは!やだ!」
嬉しそうに足をジタバタさせて薫から逃げようとする翠を捕まえたままポスンとベッドに寝かせた。
「どこに塗るのだ?」
「背中なんです」
「背中?」
「ええ、肩甲骨あたりの羽毛を痒がるので、僑先生に伝えたら軟膏をくださって。でも塗るとこそばゆいらしくて、笑いながら逃げちゃうんですよね」
薫は可愛い顔で困っている。
「こら翠、だめじゃないか、困らせては」
我も笑顔で怒ったふりだ。
「でもー」
「みせてごらん?背中」
翠は笑いながらも着物を脱いで我に背中を見せた。
ちいさな痩せた体だが、はじめに見た時に比べいくらか肉がついたようで、ふっくらしてきているし、肌艶も良くなったことにホッとする。
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