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歓迎される子2
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「じゃあ行こう、まずは部屋の準備だっけ?」
「いえ、まず、皆にお知らせしないと」
「ええ?ほんとに何も言ってないのかよ」
「だって決めたの昨日の夜中ですから」
「は?」
「やるねえ!」
涼鱗さんはとっても楽しそうにに見える。
「私はね、嬉しいんだよ薫」
「ん?」
僕は涼鱗さんの顔を見つめた。
「一人だけ助けても、苦しむ人全員を助けられはしないのだから、目の前に見える一人だけを助けようとするなと……そう教わるんだよ、私達王族はね」
「……ああ、はい……それはわかります」
「だけどね、じゃあ一人も助けられないままなの?って、そんなのおかしいでしょ?ってずっと思っていたんだよ……子供みたいだけどね」
「つまり、政治を良くしてそういう苦しむ人を無くすのが為政者の役割なんでしょうね」
「そういうことだね、でも……血の通う人なら、目の前で苦しむ人をほっとけないでしょう?……そして普通にそれを実行した薫と、それを受け入れた蘭紗がね……私は眩しいよ。君たちは本当に私の誇りだ」
「それに、さっき喜紗さんや涼鱗も言ったが、あれは本当だぞ?蘭紗様の子としてあの子が王子になることで、まざりの地位は上がるだろう、絶対にな……薫様が助けたのは一人じゃないってことだ」
「……それならいいんですが……」
蘭紗様が翠を引き取ることをすぐに決めてくれたことに、僕はしみじみと胸が熱くなった。
◆
侍従長はさすがというか、なんとなく察していた様子で軽く準備をしていたようで……
「ならばお部屋は薫様のお隣がよろしいでしょう」
と涼しい顔で宣言し、驚愕の表情を浮かべたままの皆を叱咤して動かしている。
あの日僕が孤児の一人を連れ帰り僑先生に見せたと聞いただけで、察するとかすごい……
「ベッドは誂える時間がありませんからね、蘭紗様が幼い頃にお使いだったものを出しましょう。お父上がお使いになったものなら翠紗様もお喜びになるに違いありません」
「そうですね!では倉庫までひとっ走り……」
侍従らは下働きの者や腕っぷしの強い近衛までも借り出して、かわいらしい翠の部屋をあっという間に作り上げてくれた。
「医師の控室はどうしましょう?」
「そうですね、理想的なのは翠紗様のお隣でしょうが、それですと薫様のお部屋に近すぎて……どうでしょうか?……」
「でも僕は、普段寝るのは蘭紗様のお部屋だし、そんなの気にしないですよ?」
「……さようでございますか……」
侍従長がふむふむと頷く。
「それよりも翠の体のことを優先にしてあげてください。医師が常駐など、きっとずっとではないでしょうし」
「さようでございますな!」
張り切った様子の侍従長に幾人か付き従いあれこれと細かな指示を小間使いに出している。
「ねえ薫……みてごらん、誰も何も心配していないし、皆嬉しそうでしょ?」
僕はうんうんと頷いて涼鱗さんの顔を見上げた。
「これで世界は変わるよ」
「そうならいいな」
カジャルさんもフフッと笑って侍女らがテーブルを運ぼうとしているのを手伝った。
「そろそろ、おいでになるそうですよ、薫様」
侍従長が頬を紅潮させて伝えに来た。
「もう?」
「ええ、もうお昼前ですからね、僑先生と翠紗様付きになる医師の2人が付添でいらっしゃいます」
僕はうきうきが止まらなかった。
昨夜会ったばかりなのに、翠がそばにいないのが寂しいと思えていたから。
「ああ、そこを持って、そうそう。そしてゆっくりね、ゆっくり」
僑先生の声が聞こえてきたと思ったら、小さなベッドにちょこんと乗せられた翠が、きょとんとした顔でキョロキョロしてしているのが見えた。
ベッドごと移動してきたようだ。
「翠!」
僕が思わず駆け寄ったら、翠はパッと花が咲いたように微笑んで、僕に抱きついてきた。
小さな手が首の後ろにあたって必死に掴んで離さないようにしがみついてくる。
「大丈夫だよ、ここが君のおうちなんだよ、これから、ずっと一緒なんだよ」
「いっしょ」
「そう」
翠の黄緑色の瞳が輝く。
「ここに僕、住むの」
何も言えなくなって抱きしめていると、後ろからチョンチョンと背中を突かれた。
ん?と思って振り向くと、目を輝かせた涼鱗さんと胡乱な目つきのカジャルさんがいた。
「何なの、その天使……かわいすぎる……」
涼鱗さんはわなわなと震えている。
「でしょ?ふふ……これが僕の息子だよ、翠紗です」
「すいしゃ」
「そうだよ、君の名前、君のその美しい瞳の色から、蘭紗様が考えてくださったの。翠って僕は呼ぶけど、正式には翠紗が君の名前だよ」
翠は両手を頬を当てて固まったあと、大きな瞳をうるうるしはじめ、大粒の涙を流した。
「僕、おうちも名前もおとうさんもおかあさんも、僕あるの?」
見ている僕も……ずっと我慢してきたのについに決壊したみたい……なんだか涙が流れてきちゃった……
「そうだよ、翠、かわいい翠、一緒に暮らそうね」
「すい、僕の名前……」
翠はつぶやきながら涙を流し続けた。
「いえ、まず、皆にお知らせしないと」
「ええ?ほんとに何も言ってないのかよ」
「だって決めたの昨日の夜中ですから」
「は?」
「やるねえ!」
涼鱗さんはとっても楽しそうにに見える。
「私はね、嬉しいんだよ薫」
「ん?」
僕は涼鱗さんの顔を見つめた。
「一人だけ助けても、苦しむ人全員を助けられはしないのだから、目の前に見える一人だけを助けようとするなと……そう教わるんだよ、私達王族はね」
「……ああ、はい……それはわかります」
「だけどね、じゃあ一人も助けられないままなの?って、そんなのおかしいでしょ?ってずっと思っていたんだよ……子供みたいだけどね」
「つまり、政治を良くしてそういう苦しむ人を無くすのが為政者の役割なんでしょうね」
「そういうことだね、でも……血の通う人なら、目の前で苦しむ人をほっとけないでしょう?……そして普通にそれを実行した薫と、それを受け入れた蘭紗がね……私は眩しいよ。君たちは本当に私の誇りだ」
「それに、さっき喜紗さんや涼鱗も言ったが、あれは本当だぞ?蘭紗様の子としてあの子が王子になることで、まざりの地位は上がるだろう、絶対にな……薫様が助けたのは一人じゃないってことだ」
「……それならいいんですが……」
蘭紗様が翠を引き取ることをすぐに決めてくれたことに、僕はしみじみと胸が熱くなった。
◆
侍従長はさすがというか、なんとなく察していた様子で軽く準備をしていたようで……
「ならばお部屋は薫様のお隣がよろしいでしょう」
と涼しい顔で宣言し、驚愕の表情を浮かべたままの皆を叱咤して動かしている。
あの日僕が孤児の一人を連れ帰り僑先生に見せたと聞いただけで、察するとかすごい……
「ベッドは誂える時間がありませんからね、蘭紗様が幼い頃にお使いだったものを出しましょう。お父上がお使いになったものなら翠紗様もお喜びになるに違いありません」
「そうですね!では倉庫までひとっ走り……」
侍従らは下働きの者や腕っぷしの強い近衛までも借り出して、かわいらしい翠の部屋をあっという間に作り上げてくれた。
「医師の控室はどうしましょう?」
「そうですね、理想的なのは翠紗様のお隣でしょうが、それですと薫様のお部屋に近すぎて……どうでしょうか?……」
「でも僕は、普段寝るのは蘭紗様のお部屋だし、そんなの気にしないですよ?」
「……さようでございますか……」
侍従長がふむふむと頷く。
「それよりも翠の体のことを優先にしてあげてください。医師が常駐など、きっとずっとではないでしょうし」
「さようでございますな!」
張り切った様子の侍従長に幾人か付き従いあれこれと細かな指示を小間使いに出している。
「ねえ薫……みてごらん、誰も何も心配していないし、皆嬉しそうでしょ?」
僕はうんうんと頷いて涼鱗さんの顔を見上げた。
「これで世界は変わるよ」
「そうならいいな」
カジャルさんもフフッと笑って侍女らがテーブルを運ぼうとしているのを手伝った。
「そろそろ、おいでになるそうですよ、薫様」
侍従長が頬を紅潮させて伝えに来た。
「もう?」
「ええ、もうお昼前ですからね、僑先生と翠紗様付きになる医師の2人が付添でいらっしゃいます」
僕はうきうきが止まらなかった。
昨夜会ったばかりなのに、翠がそばにいないのが寂しいと思えていたから。
「ああ、そこを持って、そうそう。そしてゆっくりね、ゆっくり」
僑先生の声が聞こえてきたと思ったら、小さなベッドにちょこんと乗せられた翠が、きょとんとした顔でキョロキョロしてしているのが見えた。
ベッドごと移動してきたようだ。
「翠!」
僕が思わず駆け寄ったら、翠はパッと花が咲いたように微笑んで、僕に抱きついてきた。
小さな手が首の後ろにあたって必死に掴んで離さないようにしがみついてくる。
「大丈夫だよ、ここが君のおうちなんだよ、これから、ずっと一緒なんだよ」
「いっしょ」
「そう」
翠の黄緑色の瞳が輝く。
「ここに僕、住むの」
何も言えなくなって抱きしめていると、後ろからチョンチョンと背中を突かれた。
ん?と思って振り向くと、目を輝かせた涼鱗さんと胡乱な目つきのカジャルさんがいた。
「何なの、その天使……かわいすぎる……」
涼鱗さんはわなわなと震えている。
「でしょ?ふふ……これが僕の息子だよ、翠紗です」
「すいしゃ」
「そうだよ、君の名前、君のその美しい瞳の色から、蘭紗様が考えてくださったの。翠って僕は呼ぶけど、正式には翠紗が君の名前だよ」
翠は両手を頬を当てて固まったあと、大きな瞳をうるうるしはじめ、大粒の涙を流した。
「僕、おうちも名前もおとうさんもおかあさんも、僕あるの?」
見ている僕も……ずっと我慢してきたのについに決壊したみたい……なんだか涙が流れてきちゃった……
「そうだよ、翠、かわいい翠、一緒に暮らそうね」
「すい、僕の名前……」
翠はつぶやきながら涙を流し続けた。
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