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月夜の決断

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 気になって眠れなくて……
僕は、遅くまで執務室に籠もる蘭紗様の帰りをじっと待っていた。
明かりは仄かに灯るだけで、月明かりが美しい夜だった。
そういえば、お月見とかするのかな?ここでも。
お団子なら作れるかも……ああ粉がないと無理か……でもあれって米の粉だよね?お城にもあるかな?

「薫?」
「あ、蘭紗様!」
「まだ起きていたのか?かなり遅い時間だぞ」
「蘭紗様こそ、こんな時間までお疲れ様です……」

僕は蘭紗様に抱きついて胸に頬をすりすりした。

「もしかして……まざりの子のことか?心配してるんだろう?」
「ご存知でしたか……」

蘭紗様はフフっと笑って侍女に頼んでお酒を運ばせている、ついでにおつまみもだ。

「良ければ外で飲もう、今夜はキレイな月だよ」

僕はうんうん頷いてパタパタっと外に出た。
美しく整えられた庭で、少しだけ植物園の屋根が見える。
そこには素敵な南国風の籐のソファーセットが用意されてあって、僕はなんとなく一人がけの椅子に腰をかけた。

夜空を見上げるとほぼ真上に月があって、うっすら青い。
こっちの月は、青いんだよね……
日によっては水色だったり群青色だったりしてすごく幻想的……

「その子は僑が診ているそうだな」
「はい……孤児院では院長が彼にひどい仕打ちをしていて、周りの子らもそれを当然と思っていたのです、だから置いておけませんでした」

ふむ……と言ってグラスを傾ける蘭紗様がなんとも美しい……
青い薄明かりに仄かに全身が浮かび上がって、まるで絵画のようだと思って見惚れてしまう。

「佐佐に調べさせたのだが……院長がほぼ全額自分の懐に入れていたようだ。今日、薫と一緒に行った高官は薄々気づいていたそうだが、院長が怖くてなにも言えなかったそうだ」
「怖いって……どうして?」
「あれは一応貴族だからな。代々その家の次男があそこの院長になっていたようだ。長男は当主になるのでな」
「では……お咎めは?」
「もちろん更迭するし、罪人として裁くよ。それから見逃していた高官も見習いに降格だ。院長の方は実家の精査も行うと佐佐が張り切っている。佐佐は厳しいからな……なにが出てくるやら……フフ」
「いやでも……なんていうか、貴族の方とは思えない振る舞いでしたよ?僕を見て土下座せんばかりにひれ伏したりして」
「ああ、心にやましいものがあるから、怖かったんだろう」
「そういうものでしょうかね」
「よくわからんが……」

蘭紗様と顔を合わせて微笑みあった。
なんだかようやく落ち着いてきた。

「あの……とってもきれいで可愛い子なんです」
「……そうか」

蘭紗様は優しい眼差しで僕を見つめてくる。
頭がぼうっとなりそうになるから気を引き締める。

「僕の手を離そうとしないで、縋り付いてきて……頼りなくて細くて小さくて、ボロボロになっていて」
「……薫こちらへおいで」

蘭紗様が手を伸ばしてくれたので、立ち上がって蘭紗様の膝の上にぽすんと座った。
そして輝きを集めたような美しい髪と首に腕を回して、頬を寄せた。

「かわいそうだったね……薫は優しいから、さぞ心を痛めたのだろう」
「……どう表現したら良いのかわからないんです、今の気持ち」
「そうか……」

蘭紗様はゆっくりと頭を撫でてくれて、その心地よさに急に眠気が襲ってくる。

「あの子……僕が面倒みてもいいですか?」
「……薫がか」
「一緒に暮らして、愛されるってことを教えてあげたいんです」
「育てようというのだな?」
「僕が親になれるとは思えませんが……でも、小さな弟だと思えば無理なく育ててあげられると思うんです」
「しかし、そなたは王妃だぞ、王妃が育てるとすると……」
「そうですね……でも子供の産めない王妃です」

蘭紗様が僕をキツく抱きしめた。

「そんな事を言うんじゃない」
「ですが本当なら……子供を生む王妃が必要なのに……」
「それは違う、長い年月を我らは2人で生きるのだ、何代分も2人でだ。王族の血筋なら、留紗たちがきっとつないでいってくれる。我らの次の王も大丈夫だ」
「そう……ですよね……僕、あの子をほっとけないんです、人間扱いすらされていなかったなんて……」
「僑から少し聞いたが、長くは生きられないだろうとのことだぞ、余計悲しくなるんじゃないのか?そばに置いたりしたら」
「そう……かもしれませんね……でもだからこそ……一緒にいてあげたいんです。だめですか?」

蘭紗様は僕の頬を両手で優しく包んで額にキスをしてくれた。

「覚悟をしているというのだな?」
「はい」
「わかった……正式な子としては無理だが……私達が彼の保護者となろう」

蘭紗様のその言葉を聞いて僕はようやく安心して、目を瞑った。
暖かな胸の中で僕はゆっくりと眠りに落ちてしまったようだった。

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