オメガの王 

むつみ

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41話

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 「いてっ」

 ドサっと落とされた所は座り心地の良い広めな椅子。衝撃に思わず痛いと訴えたが、肌触りの良いフワフワな生地で覆われた上質な長椅子だったようで正直言うと、全く痛くは無かった。

 「嘘をつくな、王族である俺専用に作らせた最高級の代物だ。痛いわけが無いだろう。むしろ貴族に過ぎないお前如きが座れた事に感謝しろ。オメガなら尚更、泣いて喜ぶ所だな。」

 傲慢な態度でクリスを見下ろすローカスは、嬉しいだろうと自慢げに鼻を鳴らした。

 このαの王の絶対的権力で今まで学園を支配してきたのだろうか。だからこそ、ここまでの横暴さに育ったのだろうか。

 この国は絶対王政な為、王族は最高権力者である。しかし、その王族の多くは思慮深く、慈悲深く、民の声を聞き民衆の心を掴んで適切な統治を行っている。だからこそ、長きに渡る王政が可能だったのだ。決して、自己中心的な考えを民衆に押し付ける事はなかった。

特に、近代では王都を中心にオメガに対しての見解を改めつつある。そこに王族が関与しているのは明らかだ。

 なのに、この学園唯一の王族はオメガに対する偏見を持ち、またそれを隠そうともしない。

 「あんたがそこまでオメガを見下す理由は何なんだ、王族ならそれに相応しい思慮深さと聡明さが必要だ。お前からはそれが一切感じられないんだけど。」

 クリスは顎をくいっと上げて、自分を見下ろすローカスを睨め付けた。

 その瞬間ゾワっとした悪寒が背筋を震わせた。細められたローカスの瞳は暗陰に染められ色を無くしている。

 自分が触れてはいけない領域を侵しているなんて気づかなかった。

 ゆっくりと伸びてきた腕を払うこ事も出来ず、自分の急所である喉に手が触れても何も出来なかった。

 今、ここで少しでも動けば自分はどうかなってしまうだろう、と生命的な危機感を無意識に感じた。

 徐々に圧迫される気管に息苦しさを覚える。けど、クリスはじっと耐えた。目だけは、ローカスから逸さずに。

 「なんで、逃げねぇんだ。」

 暫くして、息を深く吐き出したローカスはゆっくりと手に込められた力を抜いていく。行動を咎めるかの様な苛ついた声を出し、クリスを睨む。けれど、その瞳には正気が戻りつつあるのがわかった。

 「俺が怖くねぇのか、」

 「怖いに決まってる。・・けど、お前は本気で僕を締め殺そうとした訳じゃない。そんな気がしたんだよ。」

 僕の首を絞めながらも、どこか思い詰めたような、泣きそうな顔を向けて。

 怖いよりも、どこか、この唯我独尊で愚かな男の孤独や本質に触れてみたいと、思ってしまった。

 ーーこの男の事を知りたいとーー
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