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断罪編

編入。学園の記憶

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「タニア・ルー・エンルーダでございます。宜しくお願い致します。」

  タニアは教壇から、上位部屋の学生へと簡単な挨拶だけをして、カーテシーを見せる。

 辺境から編入してきた田舎令嬢。

 そのタニアの洗練されたポーズの美しさに、僅かに学友達が驚いていた。

(もともと公爵令嬢や王女だったから、身体に基礎が染み付いているのよね。)

  頭を上げたタニアに、老齢の男性教師は1番後ろの席に座る様に指示する。

 「本日編入されたエンルーダ嬢に説明する意味も含め、改めて私から学園の意義をお伝えして、授業に入りましょう。」

   教師がタニアに微笑みを1度向けると、教壇から流れる様に話を続ける。
 タニアは教師の声に耳を傾ける素振りを見せて、そっと部屋を見回した。
 
「本来、わたくし達の様な貴族の子息令嬢は個人教師の元、領地にて領地や屋敷など経営や政治、領地国の起こりを知る為の歴史等を、習うべきでしょう。」

 (良かった。皇太子とは同じ部屋では無いのね。とにかく空気みたいな貴族として過ごさなくては。)

 同じ部屋に、先程見た掛けたウイルザードの姿がない事に、タニアは安堵する。

 ただ、タニアは気が付かなかっただけ。
 
 上座に座る金色の髪をした令嬢が、タニアの桃色の髪を見定める様に直視していた事に。

「しかし大国リュリアール先々代皇帝は、領地に分散する逸材発掘に早くから着手するべきと英断され、貴族や平民などに門を大きく開いた皇国学園という、新な改革をされました。」

(本当に余計な事を先々代皇帝は考えくれたものね。お蔭で、せっかく辺境地で静かに暮らせたものを、お母様の再婚で、令嬢になんてなったものだから。)

  1番後ろの席で溜息をつきながら、教師が学園の由来と意義を話した後、授業に入る内容を、タニアは物憂げに聞き入る。

(でもイグザムと離れられて良かったのかもしれない。義父様は、もしかしたらイグザムとの婚姻を考えている節があるもの。まあ、イグザム本人は絶対反対するだろうから大丈夫だけれど、、)

  これまでの生から考え、自分を蔑ろにする政略婚姻の相手達を思い返す。
 どんなに良い振る舞いをして、どんなにタニアが愛しても、悪女と罵られて殺されてきたタニア。

(今1番考えられる相手って、イグザムだと思うもの。だから、再婚後も接点を持たない様にしてきた。)

  兄とわいえ、血の繋がりが全く無い義理の兄がイグザムで、何故か未だに婚約者がいないのだ。

 辺境という過酷な領地において子を残す重要性は重い。
 だからこそ近隣子息達には、既に婚約者がいる。

 窓の外を見れば木々さえ花が咲いている学園内。

(たとえイクザムで無くても、学園で良縁が結べる様に義父様が考えていても不思議では無いわ。残念ながらエンルーダでは誰にも見向きもされなかったから。)

 北のエンルーダでは桃色の髪色は珍しい。

 エンルーダ直系には赤髪が遺伝出現する割には、分家貴族をはじめ、平民でもブラウン系の髪色をしている。
 辺境を守る領民達の生き抜く体質かもしれない。
 
 その中にあって、タニアとタニアの母親の桃色髪は目立つ存在だった。

「、、、」

「エンルーダ様、」

(この髪色のせいで、嫌がられたのだとは思うけれど。でも都はさすがね、いろんな髪色の人々がいてたわ。)

「エンルーダ様!」

  考え事をしていたタニアは、急に呼び掛けられて驚く。

 目の前には、少し控えめな位置から令嬢がタニアの顔を覗いている。

「は、はい?!」

「いかがしました?移動になりますわよ。」

  どうやら次の時間は、部屋が変わるらしい。
 タニアは急いで立ち上がると、目の前で立つ令嬢に頭を下げて、後を追いかけた。

「あ、申し訳ありません。わざわざ、お声掛けして下さり、ありがとうございます。」

「こちらこそ、御挨拶差し上げても?」

  小走りで回廊を掛けるタニアに、何故か令嬢は小声でタニアに話かけながら、回りを気にしている様子。

 気が付けば、令嬢同士で楽しげに会話をかわす様な光景が、さっきから見られない。
 タニアは部屋の様子を不思議に思いつつも、令嬢の台詞から、自分が先に名乗る立場と理解をしてカーテシーをした。

「もちろん。わたくしエンルーダの末娘になります、タニア・ルー・エンルーダにございます。」

「フアッジ領伯爵を父に持ちます娘、エナリーナ・ルー・フアッジでございます。」

「エナリーナ様と呼んでも?わたくしの事はタニアと呼んで下さいませ。」

  タニアは目の前でカーテシーを返してくる令嬢、エナリーナに友人への誘いを入れた。

 若草色の髪と茶色の瞳が、とても慎ましい印象で、タニアはエナリーナを好ましく感じたからだ。

「では、早速タニア様。1つ、お気を付け下さいな。」

  そんなエナリーナが、ふんわりと笑顔を見せた後、タニアに指を立てて静かにする様促す。

「あら、それはエナリーナ様、何でございましょう。」

「その、、目立つ事はなさらぬよう。」

「?!」

  まさか自分が今世の信条としてきた言葉を、エナリーナに諭されるとは思っていなかったタニアは、目を見開き驚いた。
 タニアとエナリーナは静かに回廊を歩く。

「ブリュイエル公爵の御令嬢は、その、下位貴族令嬢に、当たりが強くいらして、、」

 そう言うとエナリーナは、チラリと回廊の前方を歩く金髪の令嬢を示した。

 辺境伯との再婚で令嬢になったタニア。

 姿こそ知らなかったが、噂で聞いた未来の皇妃の名前ぐらいは覚えている。

「ブリュイエル公爵令嬢、、皇太子殿下と婚約されている。」

「ええ。同じ部屋ですわ。上座のお席に、、エンルーダ様は辺境の御令嬢ですから、わたくし達伯爵の者より上位だとは存じてますが、辺境という領地柄、、」

「、、田舎である事ですわね。」

「ええ、当たりが強いだけでは済まされない事も。何人かは退学されましたから。実は、わたくしも何かと言われて。タニア様も、お気を付け下さいませ。」

  忠告を済ませたエナリーナは、タニアに移動先の部屋では、隣同士になる事を提案してきた。
 もちろんタニアには有り難い申し出だ。
  1人で居るよりも、人の中に紛れる方が良いだろう。

「ブリュイエル公爵令嬢は、派閥などの理由から、下位貴族を嫌ってらっしゃるのでしょうか。」

  次の部屋の入り口が見えたのか、エナリーナがタニアに、回廊先の扉を示しながら、

「いえ、貴族間の確執というよりは、、下位貴族で髪色が明るい令嬢を敵視されているのでは無いかと、、」

  確信は無いがとタニアの質問に答えてくれる。

「髪色ですか、、」

「ええ。」

(ここでも髪の色ね、、。婚約者達に愛されるのは大抵、ピンクの髪をした可愛い人だったりしたけれど、もしかして魅了の色があるのかしら、、)

「エナリーナ様。教えて下さり有り難とう存じます。」

  タニアはエナリーナに、然り気無く頭を下げて礼を告げた。
  
 移動した部屋はホール。子息と令嬢が左右に別れ、控え座っている。

(もしかして次の時間って、ダンスなの、、)

  タニアは部屋に入るなり、嫌な予感で背中に汗が流れた。

 領地でもなるべく避けてきたダンスの時間。

 タニアにはろくに、練習相手がいなかったのだ。
 普通の令嬢ならば、学園に入る前からデビュタントに向け、領地でも教師を招いて必ず習うもの。

 ~♪~♪~*.*♪..

 ピアノが奏でられると、席で寛いでいた列の子息子女達が、2列に並び始める。
 列になって、パートナーを前と後ろで変えていくスタイルの宮廷ダンスの並び。

 (まだ宮廷ダンスなら、前のエナリーナ様の動きを見て、踊れるかも、、)

  おずおずとエナリーナの後ろに並び、タニアは向かいの子息に手を差し出されるダンスの挨拶を受ける。 そのタニア様子に、相手も気が付いたのだろう。

「エンルーダ嬢、しっかりリードするから、安心してくれよ。」

 タニアの耳元に、そっと助けを申し出でくれる。

「、、有り難とう存じます。」

「カイロン・ドゥ・バウンティだ。」

(侯爵子息ね。バウンティ家は確か、宰相とまでいかなくても、代々皇族の文官側近を排出している一族だわ。)

  辺境伯のエンルーダ家からいえば、武家派閥とは対角になるバウンティ家は、分家も都に近い領地を有している。
 それだけ皇族に覚えめでたい一族になろう。

「はい!そこで優雅にターン!して男性から後ろの令嬢に手を差し出し、パートナーチェンジ!!」

  新しいパートナーに変わる度に、相手がタニアに自己紹介で和ませ、ダンスに不慣れなタニアのリードをしてくれる。
 いつの間にか、編入してきたばかりのタニアを迎える雰囲気が、子息達との間に出来てしまった。

  不安な時間が一変した事で、タニアの表情に愛らしい笑みが出ると、間近かで踊る相手が思わず息を飲む。
 そんな様子を、やはり踊りながらパメラがじっと、観察をしてた。


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