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断罪編
毒杯
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断罪を行ったリュリアール皇国・次期皇帝となるウイルザード皇太子。
その3日後。ウイルザードは、王宮の中でも皇族が私的に使う庭園の東屋で、数ヶ月後に婚姻を挙げる婚約者パメラと、隣国から贈られた珍しい花を眺めながら執務をこなしていた。
「ウイルザード殿下、先程罪人牢での毒杯の儀が終えられた、との知らせがございました。」
「は?誰のだ?」
「、、タニア・ルー・エンルーダでございます!アースロ・ルー・エンルーダ辺境伯より、殿下の意向を汲んで、毒杯の儀を執行。骸の確認も終わったとの事にございます!」
愛しい婚約者との逢瀬を邪魔されただけでなく、側近が告げた内容に、思わず苛立つ声色で聞き返したウイルザード。
その凍てつく視線を受けながらも側近はウイルザードに、タニアの毒杯死の報告を終えると、素早く皇宮にある執務室へと消えていく。
「まあ!!なんて事でしょう!彼女が亡くなったなんて!」
「パメラ、驚かせてしまったね。」
側近の言葉に、パメラは驚いた素振りでウイルザードを見つめると、嘆きながらも手にした扇で口元を抑えた。
強さを示すが如く漆黒の髪に、聡明さが光るバイオレットブルーの瞳。逞しい身体は琥珀色を帯びているにも関わらず厭らしさは全くない皇太子。
ウイルザードは誰もが見惚れる容姿の持ち主である。
「あの女が毒杯だと?何故そんな事を!みすみす毒杯で終わらすとは!!私はそんな生ぬるい事を望んだ覚えはない!!希代の悪女に相応しい刑をと考えていたのだ!!なんとエンルーダは勝手な事をしてくれたな!!」
そんなウイルザードが、彫刻を施された白円卓の面を激しく叩く!
そうすれば置かれたカップが激しく揺れ、茶が溢れると、円卓の書類に血痕の様な汚れが付いた。
「まあ、殿下!その様な事を?お優しい殿下ですもの、無罪放免とはいかなくとも、御許しになられると思っておりましたのに。」
すかさず侍女が円卓の汚れを片付け、置かれていた不吉な汚れの紙が隣の従者に渡されると、真新しい紙が出された。
侍女と従者の顔も、心なしか強ばっている。
公爵令嬢の性分をよく知る彼等はおとなしく空気に徹するのだ。
「其れこそ君がずっと被害を被っていたのだから当たり前だ。私の怒りは、まだまだ収まらない。漸く手に入れたチャンス。今度こそ積年の恨みを晴らすつもりだったのだ。くそ!!」
ウイルザードは出された新しい紙を一瞥すると、怒りを見せながらも勢い良く承認サインを書いていく。
皇太子としての執務を庭園に持ち込み、パメラとの茶会時間を開けているのだ。
この執務も婚礼準備に関する物であり、今茶席の周りに寄せられている品々は近隣の国からの祝いではあるが、、、
「殿下、其れはどの様な?」
ウイルザードの忌々しいとばかりの様子にパメラは目を細め、ウイルザードの考えを聞く。
そんなパメラの笑顔に、再び侍女は表情を青ざめた。けれども侍女の様子にお構い無しなウイルザードは、手にした紙を従者に渡し、
「、、魔獣に身体を引き裂かせるか、燃えたぎる油に投身!もしくは毒虫の巣穴へ投げ込むかだ!みすみす普通の刑罰など受けさせる気など毛頭ない。貴方の優しい気持ちが動く前にと考えていたのに、其れを、、」
パメラの顔色を見ながらも、再び怒り心頭な様子で、握り締めた拳を震えさせた。
「まあ、殿下はなんて恐ろしい事を。わたくしが思いも付かない重い刑を、殿下は考えられていたのでございますね。」
言葉では愁傷な台詞をウイルザードに伝えながらも、侍女や従者らが見る、パメラの表情はいかにも楽しそうで居心地が悪いが、この様子が公爵令嬢パメラの通常の顔。
「こんな酷い私に呆れてしまっただろうか、、」
一癖も二癖もあるパメラをウイルザードがいたく愛している事も、城内のみならず国中が周知しているのだから、彼等が物申す事は叶わない。
学園に席を置く若さで、執務をさせれば現皇王よりも優秀。対外折衝も優にこなし、一たび戦火となれば自ら先頭に立つ皇太子は、臣下達からの信頼も熱いのだが、、、
「いいえ、殿下。殿下の決められていた事ですもの。只、驚いてしまって、、」
パメラが釣り上がる瞳に、金色にけぶる睫毛を伏せる。そうしながらも隣国の花を手に取った。
まるで、花で心を落ち着かせているかの様な行動。そうすればウイルザードは、パメラが花弁を触る手付きに、怒りの表情を解く。
「ああ、パメラを怖がらせてしまったね。君が本当はとても優しい心根だと、私は充分知っているのに。もう、この話は終わりにしよう。さあ 折角の婚礼の話だっただろう。」
パメラが指で弄ぶ花は、リュリアール皇国では珍しく小花を列に垂れ連なり咲く房花。
揺らす度に、芳醇な甘い香りを媚薬の様に風に燻らせる。
怯えて見せるパメラの長く金色の髪を一束掬うなり、唇を落とすウイルザードは、花に遊ぶパメラの指を絡めとる。ウイルザードの仕草に、目を細めるパメラ。
2人の様子に、 本来完璧な主であるはずのウイルザードの唯一の欠点を、空気と化した侍女や従者達は感じずにはいられない。
「ええ殿下。、、宜しければ此の隣国から贈られた花をモチーフに、婚礼の髪飾りをデザインしてはどうかと思いますの。如何です?」
パメラが薫る房花を再び手に取り、金に輝く己が長髪に寄せてみる。
「うん良いね、とても君に似合う。姿が大人の魅力に溢れる貴方にはね。じゃあ早速、花の形を型どる様にしてくれるか。」
ウイルザードがパメラの顔ごと、琥珀に日焼けした手で、花を自分へと向けさせた。
「かしこまりました。」
ウイルザードがパメラに触れる手とは反対の手を上げると、侍女が静かに出て、隣国からの花を籠に1つ切り落とす。
そして落とした花籠を従者に渡せば、従者は花を押し頂き、侍女と共に皇宮内へと入って消えた。
ウイルザードに指示されたのは、花を取るのみではなく、主の逢瀬に視界へと入らぬ事。
「ああ、パメラ、私は幸せだ。」
漸く庭園の茶席に2人になると、ウイルザードが逞しい腕をパメラに伸ばし、自らの膝にパメラを乗せ上げ、パメラの首元に顔を埋める。
そのままパメラの広く開けられた白い胸元へ、子供の様な笑顔で軽く唇を移していく。
「あら殿下、なりませんわ。婚礼までの期間まであと少しでございましょう?」
そのまま鳥が啄む様な動きで、幾つもパメラの肌に無邪気に痕を付けては、パメラの様子を色気を孕んだ笑みで伺い見る。
しかしウイルザードが望む声は囁かれず、ウイルザードの愛撫にもパメラが顔色一つ変えない。
そのくせウイルザードの膝を、柔らかい肢体で絶妙に刺激させながら、妖艶に笑った。
「君は、、本当に私を煽るのが上手い人だ。私がこれまでどれ程君との夜を焦がれているか知っているのではないか?」
ウイルザードが抱え込むパメラの頬を、愛おしいそうに撫で上げた。
「、、其れも直ぐ、婚礼の儀を迎えて、殿下の伴侶となった暁には、ですわ。」
焦らす様にウイルザードの唇に、人差し指を当てながらパメラは一段と笑顔を咲かせ、ウイルザードの脇腹に手を這わせる。
そうすればウイルザードがパメラの薄く艶めかせた口内を貪り食うを、夢見る事を知っている。
大国リュリアール皇国の第一皇位継承権を有する皇太子ウイルザード・アウェ・リュリアール。
彼の優秀さ、完璧なまでの容姿、人徳の有り様。近隣諸国には多いに知れ渡っている崇高な皇族。
リュリアール皇国は次代も繁栄は間違いない。大国の代名詞だとも。
只、市井の噂話に上るのは、婚約者の公爵令嬢の優れた容姿とは裏腹な気質。
そして不可思議な顔をしながら、ひそやかに人々は口にするのだ。
『完璧な皇太子は、何故か狡猾令嬢を寵愛している。』
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「ウイルザード殿下、先程罪人牢での毒杯の儀が終えられた、との知らせがございました。」
「は?誰のだ?」
「、、タニア・ルー・エンルーダでございます!アースロ・ルー・エンルーダ辺境伯より、殿下の意向を汲んで、毒杯の儀を執行。骸の確認も終わったとの事にございます!」
愛しい婚約者との逢瀬を邪魔されただけでなく、側近が告げた内容に、思わず苛立つ声色で聞き返したウイルザード。
その凍てつく視線を受けながらも側近はウイルザードに、タニアの毒杯死の報告を終えると、素早く皇宮にある執務室へと消えていく。
「まあ!!なんて事でしょう!彼女が亡くなったなんて!」
「パメラ、驚かせてしまったね。」
側近の言葉に、パメラは驚いた素振りでウイルザードを見つめると、嘆きながらも手にした扇で口元を抑えた。
強さを示すが如く漆黒の髪に、聡明さが光るバイオレットブルーの瞳。逞しい身体は琥珀色を帯びているにも関わらず厭らしさは全くない皇太子。
ウイルザードは誰もが見惚れる容姿の持ち主である。
「あの女が毒杯だと?何故そんな事を!みすみす毒杯で終わらすとは!!私はそんな生ぬるい事を望んだ覚えはない!!希代の悪女に相応しい刑をと考えていたのだ!!なんとエンルーダは勝手な事をしてくれたな!!」
そんなウイルザードが、彫刻を施された白円卓の面を激しく叩く!
そうすれば置かれたカップが激しく揺れ、茶が溢れると、円卓の書類に血痕の様な汚れが付いた。
「まあ、殿下!その様な事を?お優しい殿下ですもの、無罪放免とはいかなくとも、御許しになられると思っておりましたのに。」
すかさず侍女が円卓の汚れを片付け、置かれていた不吉な汚れの紙が隣の従者に渡されると、真新しい紙が出された。
侍女と従者の顔も、心なしか強ばっている。
公爵令嬢の性分をよく知る彼等はおとなしく空気に徹するのだ。
「其れこそ君がずっと被害を被っていたのだから当たり前だ。私の怒りは、まだまだ収まらない。漸く手に入れたチャンス。今度こそ積年の恨みを晴らすつもりだったのだ。くそ!!」
ウイルザードは出された新しい紙を一瞥すると、怒りを見せながらも勢い良く承認サインを書いていく。
皇太子としての執務を庭園に持ち込み、パメラとの茶会時間を開けているのだ。
この執務も婚礼準備に関する物であり、今茶席の周りに寄せられている品々は近隣の国からの祝いではあるが、、、
「殿下、其れはどの様な?」
ウイルザードの忌々しいとばかりの様子にパメラは目を細め、ウイルザードの考えを聞く。
そんなパメラの笑顔に、再び侍女は表情を青ざめた。けれども侍女の様子にお構い無しなウイルザードは、手にした紙を従者に渡し、
「、、魔獣に身体を引き裂かせるか、燃えたぎる油に投身!もしくは毒虫の巣穴へ投げ込むかだ!みすみす普通の刑罰など受けさせる気など毛頭ない。貴方の優しい気持ちが動く前にと考えていたのに、其れを、、」
パメラの顔色を見ながらも、再び怒り心頭な様子で、握り締めた拳を震えさせた。
「まあ、殿下はなんて恐ろしい事を。わたくしが思いも付かない重い刑を、殿下は考えられていたのでございますね。」
言葉では愁傷な台詞をウイルザードに伝えながらも、侍女や従者らが見る、パメラの表情はいかにも楽しそうで居心地が悪いが、この様子が公爵令嬢パメラの通常の顔。
「こんな酷い私に呆れてしまっただろうか、、」
一癖も二癖もあるパメラをウイルザードがいたく愛している事も、城内のみならず国中が周知しているのだから、彼等が物申す事は叶わない。
学園に席を置く若さで、執務をさせれば現皇王よりも優秀。対外折衝も優にこなし、一たび戦火となれば自ら先頭に立つ皇太子は、臣下達からの信頼も熱いのだが、、、
「いいえ、殿下。殿下の決められていた事ですもの。只、驚いてしまって、、」
パメラが釣り上がる瞳に、金色にけぶる睫毛を伏せる。そうしながらも隣国の花を手に取った。
まるで、花で心を落ち着かせているかの様な行動。そうすればウイルザードは、パメラが花弁を触る手付きに、怒りの表情を解く。
「ああ、パメラを怖がらせてしまったね。君が本当はとても優しい心根だと、私は充分知っているのに。もう、この話は終わりにしよう。さあ 折角の婚礼の話だっただろう。」
パメラが指で弄ぶ花は、リュリアール皇国では珍しく小花を列に垂れ連なり咲く房花。
揺らす度に、芳醇な甘い香りを媚薬の様に風に燻らせる。
怯えて見せるパメラの長く金色の髪を一束掬うなり、唇を落とすウイルザードは、花に遊ぶパメラの指を絡めとる。ウイルザードの仕草に、目を細めるパメラ。
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「あら殿下、なりませんわ。婚礼までの期間まであと少しでございましょう?」
そのまま鳥が啄む様な動きで、幾つもパメラの肌に無邪気に痕を付けては、パメラの様子を色気を孕んだ笑みで伺い見る。
しかしウイルザードが望む声は囁かれず、ウイルザードの愛撫にもパメラが顔色一つ変えない。
そのくせウイルザードの膝を、柔らかい肢体で絶妙に刺激させながら、妖艶に笑った。
「君は、、本当に私を煽るのが上手い人だ。私がこれまでどれ程君との夜を焦がれているか知っているのではないか?」
ウイルザードが抱え込むパメラの頬を、愛おしいそうに撫で上げた。
「、、其れも直ぐ、婚礼の儀を迎えて、殿下の伴侶となった暁には、ですわ。」
焦らす様にウイルザードの唇に、人差し指を当てながらパメラは一段と笑顔を咲かせ、ウイルザードの脇腹に手を這わせる。
そうすればウイルザードがパメラの薄く艶めかせた口内を貪り食うを、夢見る事を知っている。
大国リュリアール皇国の第一皇位継承権を有する皇太子ウイルザード・アウェ・リュリアール。
彼の優秀さ、完璧なまでの容姿、人徳の有り様。近隣諸国には多いに知れ渡っている崇高な皇族。
リュリアール皇国は次代も繁栄は間違いない。大国の代名詞だとも。
只、市井の噂話に上るのは、婚約者の公爵令嬢の優れた容姿とは裏腹な気質。
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