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郷に従えばだ

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『はい!ぴったり23万円、現金で
   頂戴しました!領収印紙です』

嵐の様な便利屋一過。

最後に支払いをしてサイン。

そして、
便利屋営業担当の彼女と
一緒に近所軒並み挨拶をする。

夕方までかかる予定が、
彼女の巻きのお陰か15時には
遺品整理という名の
破壊工作は終了し、
見事に派遣員は撤収していた。

後に残ったのは
がらんどうな 叔母の家。

すっきりした割には、
相変わらず重苦しい雰囲気。

まるで行き場のない
亜空間みたいに感じる。

『それにしても、こんなに家が
  密集している傾斜集落とは思い
  ませんでした。この辺りは、
  要注意地区ですね。今回はうち
  でも初めて扱った地域なんで。』

歩きながら、
隣で彼女が素直な感想を
わたしに投げ掛けてくる。

暗に、次回は割り増し料金だと
言ってるのだろう。

こんな気質が便利屋に向いている
様な気がする。

本来の彼女なんて知らないが。


『お騒がせしましたー。良ければ
   これ、召し上がって下さい。』

ちなみに、

ちゃっかり住んでいそうな家にチラシを
ポスティングしつつ、
向かいの家のドアを開けては、
彼女はどんどん挨拶をしていく。

まるでどぶ板戦術だ。

見ていて、
どこか『せいせい』する。

「すいませんね。なんせ、車が
   つけれませんもんね。」

色んな気持ちが
ない交ぜになって出たのがこんな言葉だった。


集落の軒先は何処も鍵など掛けていない。

宅配業者も、郵便局員も
玄関を開けて声を掛ける。

彼女は、
相手が何か言う前に先制攻撃と、
手土産を渡しては、
ドアを躊躇なく閉めるの
作業を繰り返すのだ。

明け透けなき彼女も
言葉こそ標準語だが、
生粋島の人間なのだろう。


『本当に、通りから少しでも
   中に車が置けて良かったです』

2人で向かいの家から出て来て
また、スタスタ歩き出す。

今から挨拶に行く一帯を思って、
わたしも溜息が出た。

もちろん手には、
妹が山と用意した
手土産をぶら下げている。

ところどころ
うちで破壊した色々が
運び出し途中でだろうか?

落ちていたりするのが哀愁を帯びている。

が、
営業の彼女は何食わぬ顔で
さっと拾っては、
何事もない顔をしていて、

妙に潔い良い。

さすがだ。

『いやー、家はどうされるんです
   かね?更地にするにも、重機が
   入りませんよ。空き家法?
  みたいなのも出来ましたし、
  無人管理するなら、うちでも
  させてもらいますので。是非』

そう言って、
ポスティングしてきた1枚を
渡してくるときた。

、、恐ろしい子。

とはいえ、そうなのだ。

この島の家。

今後どうしたらいいのだ?

「まだ考え中なので、その時は
   よろしくお願いします。」

父は、、
きっと何もしないであろう事は
容易に想像出来る。

『あのお店のママさんでした
   よね。行きましょうか。』

営業の彼女が、
小走りで向かった先は美容院。

車が通れる道に面する所は、
大体商店になっていて、
この集落の生活を支えている。

そして、
喫茶店などない集落で
唯一の寄り合い処が、ここ。

美容院なのだ。

しかもアノ、頭にガバッと
ヘルメットみたいな
あの筒みたいなのを
未だに現役で使っている。

入り口にはレジーナの森。

昭和だ、昭和がそのまんまある。

ちなみに、レジーナとは、
カット練習の頭だけマネキンの名前。

そして、
今日のレジーナの森は
皆、和装結い上げにされて並んでいた。

「成人式かあ。」


幕の内過ぎれば15日。
最近は日曜日に成人の日が移るから、
週末だろう。

晴れ着姿の写真が壁の一角を
覆っている。

それも年代物の写真が多い。

『お騒がせしましたー。終わり
   ましたので挨拶に!これ、
   どーぞ召し上がって下さい!』

それ、用意したの妹だけれど。

とは言わない。

営業の彼女が満面の笑みで、
直角にお辞儀をして
差し出す紙袋を手にしたのは、
美容院のチイママさん。

このチイママの実家が向かいの
薬局で、今は閉めている為
車を置けたのだ。

『終わったせ?まあ、コーヒー
   飲んでいき。ミルクと砂糖は』

奥のパーマをしていたのが、
御年90歳のオーナーママで、 
自分もピンクのロットを
前髪に巻き上げながらのスタイル。

お客の
グリングリンパーマのロット巻き
終わりで、
いそいそとやって来た。

『クッキーやって。ええのよ、
   これ。しゃれとるよって。
   コーヒーとよばれよなあ。』

チイママで確か70歳前か?
営業彼女が渡した手土産を、
オーナーママに開けて見せる。

とにかく
常連も90~60歳で、
グリングリンパーマをかけてる。
チイママの鶴の一声で、
パーマ中やカラー中の客が、
わらわらと
ソファーにカバーエプロンを
付けたまま

オーナーママが淹れる
紙コップコーヒーと
手土産クッキーを
おやつに集まるという
カオスな光景が生まれた。

後に知るが、
お昼ご飯も同じ光景になり、
皆で出前を食べるとか。

要するに
ここが集落女性の社交場。

『では、わたしは直ぐに処理場
   への作業に合流しますので。
   この度は本当に有り難うござい
   ました。あ、これ!何か御用命
   ありましたら電話1本で!!』

さすが、
引き際さえ押さえている
彼女は鮮やかな手付きで、
チラシをバラ撒いてさっさと撤退した。

『お嬢、飲んでこ。』

しかし
わたしはそうもいかず、
カオスに1人残された。

腹を括って、腹を割るか。

レジーナの森に見つめられて、
わたしは意を決した。

「ついでに、ここでカットして
  いきます。いけますか?」

郷に入れば郷に従え。

島の家をどうするか、
判断する為には情報が欲しい!!



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