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第四章
ルーファウス、過去を語る②
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姉は8歳も年上な事もあり、いつでもルーファウスのお世話をかいがいしくしてくれて、母はそんな姉とルーファウスの姿をいつも穏やかに微笑んで眺めているような人だった。
毎日が穏やかで同じような一日の繰り返し、そんな生活が当たり前でその生活がいつまでも続くと幼いルーファウスは信じて疑いもしていなかった。
そんな彼の生活に最初に変化が訪れたのはルーファウスが3歳の頃、初めて屋敷の外へと連れ出された。出向いた先はエルフの里で、父親は姉とルーファウスの二人だけを連れてエルフの里の親族の元へ二人を連れて行った。
何故その時母親が一緒ではなかったのか、当時の彼には分からなかった。
今まで一度として会った事のなかった親戚の中にはどうやら腹違いの彼の兄も居たらしいのだが覚えていないとルーファウスは言った。
ルーファウスと姉にエルフの里の者達は不躾な視線を投げてくる。それまで自分の周りには穏やかで優しく自分を見守ってくれている者達しかいない世界で育ったルーファウスは、その視線にとても不安を覚えると同時に一刻も早く帰りたいと姉に縋りついた。
いつもは母同様に穏やかに笑顔を見せている姉もその時ばかりは自分同様子供らしく脅えたような表情で、ますますルーファウスの不安は募っていく。
父親はそんな子供二人の不安を知ってか知らずか、何やら親族たちと難しい顔で話し込んでいて二人には見向きもしない。父へ初めて不信感が芽生えたのは思えばこの時だったとルーファウスは言う。
そんな中、まるで置いてきぼりのような気持ちになっていた自分達に声をかけてくれる者がいた。親戚の子供達が自分と姉を遠巻きに見ている中でその人だけは少し困ったような表情で、幼かった自分達に視線を合わせるように背を屈めて「大丈夫だよ」と、笑みを浮かべ二人の頭を撫でてくれた。
「それが私とタロウの出会いでした。とは言え、その当時私は彼の名前も、どのような人物であるかも知りはしなかったのですが」
「タロウさんって元々エルフの里に居たんだ?」
「そうなのです。何故彼がそこに居たのか私には分かりません。エルフの里は元来とても閉鎖的で、同族以外の里への出入りを極端に嫌っています。人族である彼が普通にその場にいた事自体がおかしな事で、今なら何かがあったのだろうなと考える事も出来ますが、当時は不思議とも思いませんでした」
タロウは居心地悪そうな子供二人を連れ出してエルフの里の中を案内してくれた。自分と姉には不躾な視線を投げて寄越す里の者達だったが、何故かタロウには皆一目置いているようで、子供連れの彼に周りは頭を下げた。
その日から父は度々子供二人を屋敷の外へ連れ出すようになった。それはエルフの里であったり王宮であったり、時には完全な物見遊山な観光であったりもしたのだが、何故か母はそれには決して付いてはこなかった。
「思えば母はその頃から体調を崩し始めていたのでしょう。当時は私も姉も母にべったりで、そんな子供二人に常に周りをうろつかれていては休められる体も休められない、だからは父は私達二人を連れ回していたのだと思います。母も母で私達二人に弱っている自分を見せたくなかったのでしょう」
そしてそんな外出を繰り返している間、時折見かけるタロウにルーファウスは心を許していく。当時のルーファウスにとってタロウは出先でよく見かけ、自分を構って遊んでくれるお兄さん、だった。
遊び相手が姉しかいなかったルーファウスにとって遊びと言えば女の子がよくするお人形さん遊びやお絵描きなど大人しめの遊びがほとんどだった。
けれどタロウはルーファウスが元気に走り回っても怒りもせずに追いかけっこにも付き合ってくれた。そして初めて簡単な魔術を教わり始めたのもこの頃だったそうだ。
そんな毎日の中である時連れて行かれた王宮で、ルーファウスはもう一人印象深い人物に遭遇する。その話をする時のルーファウスの表情はどこか苦々しげで、眉間に皺を刻んでいる。まぁ、王宮でというのとその表情、ルーファウスの今までの言動を鑑みるとそれが誰なのかは何となく想像がつく。
「父に促されるように挨拶をさせられた相手はフロイド・グランバルト国王陛下で、彼は私を一瞥すると、それはもう険しい表情で何故連れて来たのかと厳しく父を問い詰めていました。彼は子供があまり好きではなかったのか、私に向ける視線はエルフの里の者とはまた違い、険しいものだったのを覚えています。そしてそんな彼を取りなすように陛下を諫めたのはタロウでした」
タロウさんとフロイドさんが結婚していたらしいという事を僕はルーファウスから聞いて知っている。二人は信頼関係で結ばれていて、まるで妃のような立ち位置でタロウさんはフロイドさんを諫めたのだろう。
「王宮内では陛下は常にタロウを傍らに置き、私との交流を許さなかった。なので私は王宮が大嫌いだったのですが、一方で姉はまるで腫れ物扱いであるエルフの里より綺麗で周りも自分達を奇異な目で見る事のない王宮の方が好きだと言っていました。姉は見た目にも母親似の人族でしたし、エルフの里は相当居心地が悪かったのでしょう。王宮に連れてこれるようになると、姉は教会設立の立役者となっていく者達と親しくなっていきました。教会を設立したのはタロウであったと後に私は知りましたが、それを支えていた屋台骨は現在聖者・聖女と呼ばれているような聖魔法に通じる者達でした。そして姉には聖女の資質があって、それを通じて姉は彼等と親しくなっていったのです」
ルーファウスの姉は聖魔法を通じて家族以外の他者と関わり、段々と自分の世界を築き上げ、ルーファウスとの閉じた世界から踏み出していくようになっていった。
それまで屋敷で過ごす時には姉と二人、姉だけがほぼ世界の全てだったルーファウスは姉のその変化に戸惑いを隠せずにいた。そんな時、彼に手を伸ばしたのが、やはり当然と言うかタロウさんだったんだよね……
毎日が穏やかで同じような一日の繰り返し、そんな生活が当たり前でその生活がいつまでも続くと幼いルーファウスは信じて疑いもしていなかった。
そんな彼の生活に最初に変化が訪れたのはルーファウスが3歳の頃、初めて屋敷の外へと連れ出された。出向いた先はエルフの里で、父親は姉とルーファウスの二人だけを連れてエルフの里の親族の元へ二人を連れて行った。
何故その時母親が一緒ではなかったのか、当時の彼には分からなかった。
今まで一度として会った事のなかった親戚の中にはどうやら腹違いの彼の兄も居たらしいのだが覚えていないとルーファウスは言った。
ルーファウスと姉にエルフの里の者達は不躾な視線を投げてくる。それまで自分の周りには穏やかで優しく自分を見守ってくれている者達しかいない世界で育ったルーファウスは、その視線にとても不安を覚えると同時に一刻も早く帰りたいと姉に縋りついた。
いつもは母同様に穏やかに笑顔を見せている姉もその時ばかりは自分同様子供らしく脅えたような表情で、ますますルーファウスの不安は募っていく。
父親はそんな子供二人の不安を知ってか知らずか、何やら親族たちと難しい顔で話し込んでいて二人には見向きもしない。父へ初めて不信感が芽生えたのは思えばこの時だったとルーファウスは言う。
そんな中、まるで置いてきぼりのような気持ちになっていた自分達に声をかけてくれる者がいた。親戚の子供達が自分と姉を遠巻きに見ている中でその人だけは少し困ったような表情で、幼かった自分達に視線を合わせるように背を屈めて「大丈夫だよ」と、笑みを浮かべ二人の頭を撫でてくれた。
「それが私とタロウの出会いでした。とは言え、その当時私は彼の名前も、どのような人物であるかも知りはしなかったのですが」
「タロウさんって元々エルフの里に居たんだ?」
「そうなのです。何故彼がそこに居たのか私には分かりません。エルフの里は元来とても閉鎖的で、同族以外の里への出入りを極端に嫌っています。人族である彼が普通にその場にいた事自体がおかしな事で、今なら何かがあったのだろうなと考える事も出来ますが、当時は不思議とも思いませんでした」
タロウは居心地悪そうな子供二人を連れ出してエルフの里の中を案内してくれた。自分と姉には不躾な視線を投げて寄越す里の者達だったが、何故かタロウには皆一目置いているようで、子供連れの彼に周りは頭を下げた。
その日から父は度々子供二人を屋敷の外へ連れ出すようになった。それはエルフの里であったり王宮であったり、時には完全な物見遊山な観光であったりもしたのだが、何故か母はそれには決して付いてはこなかった。
「思えば母はその頃から体調を崩し始めていたのでしょう。当時は私も姉も母にべったりで、そんな子供二人に常に周りをうろつかれていては休められる体も休められない、だからは父は私達二人を連れ回していたのだと思います。母も母で私達二人に弱っている自分を見せたくなかったのでしょう」
そしてそんな外出を繰り返している間、時折見かけるタロウにルーファウスは心を許していく。当時のルーファウスにとってタロウは出先でよく見かけ、自分を構って遊んでくれるお兄さん、だった。
遊び相手が姉しかいなかったルーファウスにとって遊びと言えば女の子がよくするお人形さん遊びやお絵描きなど大人しめの遊びがほとんどだった。
けれどタロウはルーファウスが元気に走り回っても怒りもせずに追いかけっこにも付き合ってくれた。そして初めて簡単な魔術を教わり始めたのもこの頃だったそうだ。
そんな毎日の中である時連れて行かれた王宮で、ルーファウスはもう一人印象深い人物に遭遇する。その話をする時のルーファウスの表情はどこか苦々しげで、眉間に皺を刻んでいる。まぁ、王宮でというのとその表情、ルーファウスの今までの言動を鑑みるとそれが誰なのかは何となく想像がつく。
「父に促されるように挨拶をさせられた相手はフロイド・グランバルト国王陛下で、彼は私を一瞥すると、それはもう険しい表情で何故連れて来たのかと厳しく父を問い詰めていました。彼は子供があまり好きではなかったのか、私に向ける視線はエルフの里の者とはまた違い、険しいものだったのを覚えています。そしてそんな彼を取りなすように陛下を諫めたのはタロウでした」
タロウさんとフロイドさんが結婚していたらしいという事を僕はルーファウスから聞いて知っている。二人は信頼関係で結ばれていて、まるで妃のような立ち位置でタロウさんはフロイドさんを諫めたのだろう。
「王宮内では陛下は常にタロウを傍らに置き、私との交流を許さなかった。なので私は王宮が大嫌いだったのですが、一方で姉はまるで腫れ物扱いであるエルフの里より綺麗で周りも自分達を奇異な目で見る事のない王宮の方が好きだと言っていました。姉は見た目にも母親似の人族でしたし、エルフの里は相当居心地が悪かったのでしょう。王宮に連れてこれるようになると、姉は教会設立の立役者となっていく者達と親しくなっていきました。教会を設立したのはタロウであったと後に私は知りましたが、それを支えていた屋台骨は現在聖者・聖女と呼ばれているような聖魔法に通じる者達でした。そして姉には聖女の資質があって、それを通じて姉は彼等と親しくなっていったのです」
ルーファウスの姉は聖魔法を通じて家族以外の他者と関わり、段々と自分の世界を築き上げ、ルーファウスとの閉じた世界から踏み出していくようになっていった。
それまで屋敷で過ごす時には姉と二人、姉だけがほぼ世界の全てだったルーファウスは姉のその変化に戸惑いを隠せずにいた。そんな時、彼に手を伸ばしたのが、やはり当然と言うかタロウさんだったんだよね……
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