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第四章

アルバートの言う事には

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「まず最初に言っておきたい事があるのだけど、君達を襲撃した犯人は本当に私ではないのだよ」

 ルーファウスの父親であるアルバート総務大臣はそう言って息を吐く。

「勇者様と聖女様を召喚したのはこの世界が危機に瀕しているからで、私はそこに関しては全く嘘は吐いていない。私が襲撃の際に勇者様だけをこちらに招いたのは、私がレオンハルト王太子殿下と聖女マツリに監視を付けている事を気取られないようにする為だった」
「…………」

 ルーファウスが無言で父親を睨むと、アルバートは苦笑する。

「そんなに疑わし気な顔をしないでおくれ。これは本当の話で、私は決して嘘は吐いていない」
「そんな話、信じられる訳がないでしょう。小太郎と出会ってから彼は何度も襲われていますし、この街ではやたらと黒髪の子供が狙われている」
「それは聖女様を狙っているのだよ。彼女は少しやり過ぎた……」

 そう言ってアルバートは先程とは違う溜息を吐いた。

「やり過ぎた、とは?」
「彼女がこちらへ来てからの彼女の行動を君達は把握しているかい?」
「城を飛び出し王子を連れて諸国漫遊? 王子曰く世直しの旅、聖女様はレベル上げの為とか言っていましたが……」
「それ! それだよ! 王国領土を回って世直しの旅、それは素晴らしい取り組みだと思うし、それで聖女としての徳を積むのも素晴らしい考えだと私は思う、けれど彼等は少しやり過ぎなのだよ……」

 そう言ってアルバートが語った話はこうだ。
 召喚されて数か月は茉莉も城で大人しく聖女について学び、来る日に備えてそれなりに頑張っていたらしい。けれど、ある時王子と出会い恋に落ち(正しく言えば王子の一目惚れ、茉莉は適当にいなしていただけ)そこから状況は一変した。

「確かに世の中には不正に民から税を徴収し私腹を肥やしたり、賄賂を受け取り人を選別し優遇するなど、悪事を働いている地方貴族も少なくはない。王太子殿下と聖女様はそういった輩を片端から成敗して回っていた訳だけど、この世の中には綺麗事だけでは片付ける事の出来ない必要悪というものも存在するのです」
「必要悪……」
「確かにやっている事は許されない行為であるかもしれない、けれどそれがあるからこそ社会が回っていた部分もある、お二人はそれに一切目を向けなかった。例えば、とある辺境の地で国の定める税より多くの税を徴収している地方領主がいたのですが、それはその地方にはある特殊な魔物が出没し、その討伐にかける特別費用でもあった。国から予算をおろして貰うには煩雑な手続きと時間がかかる。国が状況を把握するには当然時間もかかり、予算はなかなかおりてこないのに被害は拡大していく。そんな状況では領主は一次的に増税をしてでも冒険者を雇うしか術がなかった。けれどそんな領主の思惑も知らず、民草はこの地の税は余所より高いと聖女様に訴え、その事実は覆るものではなかった為、罰を受ける事となる。こうなった場合、その地は今後どうなるとお思いになりますか?」
「それは当然、更なる魔物の被害拡大って事になるでしょうね。ですが、その辺りは領主の取り調べなんなりすれば分かる事でしょう? 当然お二人はその魔物の対処も一手に引き受け……」
「引き受けていただけたら良かったのですけどね、お二人は旅の道中の気まぐれで罪を裁いたにすぎず背後関係など一切合切はこちらへ丸投げです。連絡を受けて私共が現地に駆け付けてみれば被害は拡大、頼るべき領主は檻の中、お二人に税が高いと訴えた民ですら魔物の襲撃にもうこの地に住む事はできないと土地を離れていく始末。そんな事を各地で続けていけば、各方面から不満が出てくるのも当然と言えば当然で、その瞬間は確かに民草の不満は改善されているものの、その後の結果が伴わない行為は所詮悪にしかならないのです」

 これは悪い一例であり、普通に感謝される行いも多々あるので二人の行為を無下にもできず、そんな事が各地で大なり小なり積み重なった結果、地方領主や貴族の間では良くも悪くも「黒髪の子供には気を付けろ」という風説が広がってしまったのはもう致し方ない事だったとアルバートは溜息を吐いた。
 二人はこの数年の間で各地で名声をあげてはいるが、一方で恨みを買う事も多く、表面上の立場から無闇に手出しはしてこなくともこうやって誘拐騒動に巻き込まれる事は多いらしい。今までは秘密裏に援護して回っていたが、それもそろそろ限度があるとアルバートは言った。
 同時に王都では王家と教会の対立も顕著となり、アルバートは日々多忙を極め、そんな時に今までどれだけ捕捉しようとしてもできなかった小太郎の紋印が唐突にアルバートに反応を返した。それは何故か茉莉に接触でも計ろうとするかのように茉莉の滞在する街へ向かっていた。
 勇者の思惑が分からないアルバートは行動を開始。密偵を送り込みまずは動向を探ったのだが、謎の魔物の妨害によりそれは叶わなかった。
 ん? 謎の魔物って、それってもしかしてライムの事か? 確かに小太郎と出会った晩は全員でスライム結界の中で眠りについたので、様子を窺いたくても窺えなかっただろうしな。
 あの晩、ライムをぷにって去った者がいたという報告だけは受けていたけどそういう事か。

「翌日、勇者様はリブルの街へ入り、その時点から既に監視を付けさせていただいていたのですが、何故かそこに我が息子が絡んでいると知りました。正直心中穏やかではありませんでしたね。今まで全く動向把握のできていなかった勇者様とルーファウスが共に行動をしている、しかも私はお世辞にもルーファウスに好かれているという訳ではありません、むしろ憎まれていると言ってもいい」

 ああ、その辺はお父さんも一応自分で自覚してたんだね。とても仲良さげな演出してるから、もしかして本人は嫌われている自覚がないのかと思っていたよ。

「それで?」
「ルーファウス、お前は私の紋印を封じただろう? それで勇者様の行動がまた分からなくなってしまった。これには私もお前が勇者様をこれまで故意に隠していたのだと判断せざるを得ず……」
「はぁ!?」
「お前が私に復讐をしたいのであれば、せめて最期はこの屋敷でと……」
「貴方、一体何を言っているんですか?」

 ルーファウスが冷ややかな視線を父親へと向けている。まぁ、ルーファウスからしてみればとんだ言いがかりだもんな。

「それでも、君が一体どんな復讐計画を考えているのかと勇者様を攫ってみたまでは良かったのだけれど、どうやらそれは私の思い違いであったようだと勇者様に聞いてね……あ、安心してくれたまえ、聖女様の方に手を出そうとしていた無頼者達の方は黒幕含めすでに全て抑えてある。この街はもう安全だ」

 にこりと笑みを浮かべるアルバート、どうやら復讐を企てている息子と対峙しようとしていたら息子はそこまでの事は考えていなかったと知って、ほっと安堵した結果が彼のこの歓待ぶりとフレンドリーさに繋がっていたらしい。
 ルーファウスがアルバートを嫌っている事実は覆りようがないのにそれでもいいのか。どうにも奇妙な親子関係だよ。
 「それで貴方はこうやって私を待ち受けていたと? 馬鹿らしすぎて言葉も出ない」とルーファウスは呆れたように盛大に息を吐く。

「言っておきますけど、私が貴方を討つ時はコソコソと裏工作などせずに真正面から向かいますよ、私にはそれだけの理由も実力もありますから!」
「だよね~パパ、その言葉聞いて安心したよ」
「――――ッッ!!」

 ルーファウスが物凄い形相で父親であるアルバートを睨んでいる。
 この人、ルーファウスを怒らせる天才かな? ものすごく的確にルーファウスの神経を逆なでしてくる感じ、良い人なのか悪い人なのかさっぱり分からん。
 まぁ、少なくともルーファウスが彼を嫌う理由は垣間見えた気がするけれど。

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