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第四章

ビックリするほどライムは優秀でした

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 ライムとの感覚共有は慣れるまでが大変だった。自分の視界を閉ざす事でライムの視界に集中すれば多少マシだという事に気付いて僕は目を瞑った。
 まるで勝手に動くVR画面のように視界がぴょんぴょん跳ねている、そして目の前に映っているのは自分自身、なんだか変な感じだ。

「でもルーファウス、ライムとの感覚共有はできましたけど、これでどうするんですか?」
「恐らくライムは自身の分裂体と視覚情報を共有しています、なので今度はライムの分裂体と感覚共有を切り替えてください」

 なんか滅茶苦茶難易度高いことを言われたぞ。それってどうやってやればいいんだ?

「えっと、ライムにはいつも仲間の様子がどう見えてるの?」
『うんとね~こう!』

 ライムが「こう」と言った瞬間、無数の画面が目の前にわっと広がり僕は呆然とする。これ、数がヤバい。まるであちこちに設置された監視カメラ映像を一度に目の前に突きつけられたような感じで情報を処理できない。ライムはいつもこんな膨大な量の情報を一度に処理してるのか? いつも子供のような言動のライムの能力がまるで高性能AI並でビックリを通り越して驚愕だ。

「ライム、ごめん、小太郎君の所にいる子だけにしてもらってもいい?」
『わかった~』

 目の前一面に広がっていたたくさんの画面がしゅんとかき消え、僕の前に残されたのは三つの画面。一つ目は何処か暗い部屋で辺りをキョロキョロと見渡している。
 二つ目は一つ目とは違って明るい部屋の中、天井を凝視したまま動かない。 三つ目はたぶん二つ目と同じ明るい部屋だと思うのだけれど、映る景色は苛立たしげな表情で忙しなく部屋の中を歩き続けるロイドの姿だった。

「ロイド君、居た!」
「お、でかした! 二人とも無事そうか?」
「ロイド君には怪我もなさそうですけど、小太郎君の姿が見えないです」

 姿は見えているのに声をかけられないのがもどかしい。
 ライムの分裂体達は思い思いに自由に動き回っている。僕が自由にその視界をコントロールできる訳ではないので、そこが何処かまでは僕には把握ができない。

「タケル、まずは魔法陣です。魔法陣は見えますか?」
「えっと……あ、たぶんコレ!」

 それはひとつだけ暗い部屋にいる子の視界。キョロキョロ辺りを見回すその視界の端に魔法陣らしきものが映っている。

「ライム、この暗い部屋にいる子に魔法陣がよく見えるようにしてってお願いできる?」
『わかった~』

 キョロキョロしていた視界がぴょこんと跳ねて、魔法陣の全体が見えるように何処かへ登ったのだろう、はっきりと目の前に転移魔法陣が映し出されて僕はその魔法陣を凝視する。

「ルーファウス、見えました」
「タケルはその魔法陣が読めますか?」
「え、えっと……」

 ここ最近僕は謎の部屋で手に入れた魔法陣の教習本で魔法陣の勉強をしている。転移魔法陣は四属性魔法の魔法陣より複雑ではあるけれど、基本的な描き方は変わらない。

「落ち着いてよく観察してください。転移魔法陣としていつもと違う箇所が必ずあるはずです」

 いつもと違う、いつもと違う――あった!

「ありました!」
「良かった、それがセキュリティコードです。教えてください」

 僕は目を開けて地面にその文字を書き写していく。
 その文字列は意味をなさい象形文字で、恐らくこの世界の文字である。僕には自動翻訳機能が付いているので、基本的な文字列は日本語として認識されるのだが、魔法陣となるとそうはいかない。それは記号にも似て把握するのは難しいのだけど、やってて良かった魔法陣の勉強! こんな所で役に立つなんて!
 ちゃんと勉強してなかったら、きっと今この光景を見ても僕には全く何が何やら分からなかったはずだ。過去の自分と、教習本をくれた謎の部屋の持ち主さんにありがとう!

「これで屋敷の中に侵入できますか!?」
「そうですね、侵入はできますが、タケル、もう少し大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だけど……」

 ようやく少しだけライム達の視界に慣れてきた僕が頷くと、ルーファウスは「だったら二人が捕まっている部屋も特定して欲しい」とそう言った。

「屋敷の見取り図は大体把握しています、変わっていなければ転移魔法陣の設置場所は地下にあるはず、そこからライムに部屋へ戻ってもらえれば監禁場所が特定できます」
「やってみます!」

 僕はライムから分裂体に指示を出してもらい、部屋の特定を試みる。
 スライムは扉の隙間をその柔軟な体で通り抜け、階段を登り、明るい廊下へと辿り着く。廊下は向かって右方向へ、一つ目の扉、二つ目の扉はスルー、けれどその先に部屋はない。どこへ向かうのかと思ったら、廊下の先は曲がり角で、その先に更に階段があった。分裂体はその階段をぴょんぴょんと登っていく。

「意外ですね、地下牢じゃない。上階へと登っているという事は、物置や使用人の部屋でもない、普通に客室に通されている……?」

 途中折り返しのある階段を登りきったら、向かって右側の廊下を進んでいきライムの分裂体は三つ目の扉の隙間に体をねじ込んだ。
 分裂体が体をねじ込んでいる間、視界はしばらく真っ暗になり、次に視界が開けた時には分裂体は何処かの部屋の中で周りを見渡していた。

『スライム戻ってきた!』
『良かった、おいで……』

 今まで全く微動だにせず天井だけを映していた分裂体の視界が初めて動いた。どうやらその分裂体は小太郎の頭の上でずっと天井を見つめていたようで、小太郎が動いた事で視界の端にロイドと部屋に戻った分裂体が映りこんだ。どおりで今まで小太郎の姿が見えなかった訳だ、ライムの分裂体を一匹頭に乗せた小太郎が腕を伸ばすと、僕と視覚共有をしていた分裂体が小太郎の腕の中へと飛び跳ねていく。

『何処かに出られそうな場所あった? え? 見てる? 誰が? タケルさん? 今も見てるの?』

 一方的に向こうの会話が聞こえてくる、これ、どうにかしたら向こうにもこちらの声を届けられるんじゃないか?

「ライム、今から助けに行くって向こうに伝えることってできる?」
『できるよ~』

 僕の言葉はライムを介して向こうへと伝えられる。小太郎君も感覚共有ができたなら恐らく仲介もいらないのだろうと思うと、これは今後小太郎とチャレンジしてみるのも悪くないなと思う。通信手段としてはとても便利だし。
 ただこれは従魔師スキルを持っていてスライムを従魔にでき、尚且つスライムと意思疎通を測れる人限定の通信手段ではあるのだけれど。

「部屋の特定できました。参りましょうか」

 ルーファウスはそう言って、杖を取り出し空中に何やら文字を描き出した。それと同時に僕達の周りがほわんと発光しだす。
 あれ? これ、なんかいつもの転移魔法と違くない?
 少しだけ心の中に引っかかりを覚えつつも、僕達は光の輪に包まれて思わず目を瞑り、次に僕が目を開けた時には僕達は薄暗い地下室へと移動していた。

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