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第四章

ライムの新たなる能力

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 ルーファウスは考え込むように部屋の中を歩き回る。前科者の魔術師か……ルーファウスが良い腕を持っているって言うくらいだから相当レベルも高そうだ、本当に全てルーファウスの言う通りだとしたら厄介そうな相手だな。
 しかも相手の居場所が分からないのでは助け出しにも行けやしない。こんな話合いをしている間にもロイドと小太郎の二人が危険な目に遭っているかもしれないと思うと僕は気が気ではない。

『タケル、タケル~』

 不意に僕のローブの胸ポケットに潜んでいたライムがのそのそとポケットから出てきて、ぴょこんと床の上に降り立った。

「ん? ライム、どうしたの?」
『コタロー、あっちにいる』
「え?」

 ライムがぷにぷにボディを伸び縮みさせながら、窓の外を指(?)指した。

「ライム、小太郎君の居場所分かるの!?」
『ついてった仲間がいるから分かるよ~』

 !! そういえば、さっき小太郎の熱を吸収するようにライムの分裂体が何匹か小太郎に引っ付いていた事を僕は思い出す。

「すごいよ、ライム! お手柄だ!」
『えへへ~』
「タケル、もしかして……」
「うん! ライムが小太郎君の居場所分かるって言ってます!」

 ライムはあっちと方向を示すだけで具体的な場所までは分からないのだけれど方向が分かるだけでも今は充分だ。
 けれど、こんな惨状の部屋を放置して行ってしまって良いものかと少し足踏みをしていたら、レオンハルト王子が「こちらは大丈夫だ」と言ってくれたので、この場は彼等に任せる事にした。念の為、護衛にとオロチを呼び出したら茉莉のテンションが爆上がりしたのは言うまでもない。
 僕達はライムがぴょんぴょんと飛び跳ね案内してくれる後を追いかけて外へと飛び出した。僕達はライムを追いかけ街の中を駆け抜ける、全速力でスライムを追いかける冒険者なんて目立ってしまって仕方がないけど、この際体裁など構っていられない。

「ここは……」

 案内されて辿り着いた先、そこは街の外れにある別荘が密集する高級住宅街だった。

「はぁ、はぁ、はぁ……ちょっと、待って……」

 気付いたらルーファウスがへばってる。
 冒険者を家業としている僕達はそれなりに体力はあるつもりだけど、魔術師という職業柄ルーファウスはスタミナが少ない。魔術師は身体を使って戦う訳じゃないし、魔物退治にしたってルーファウスは転移で移動ができるからこんなに全力疾走しないしね。
 僕も同じ魔術師だけど、今の僕の身体ってぴちぴちの13歳だから単純に体力だけならルーファウスより上だったりする、若いっていいね。

「ルーファウス、へばるの早くないか? 何なら担いでいくか?」
「結・構・です!」

 体力お化けのアランはまだ息ひとつ切らしていない、そんなアランに担がれるのはさすがにプライドが許さないようでルーファウスはアランの申し出をきっぱりと拒絶した。

「それにしても、はぁ、街の外に出るのであればまだマシだと思っていたのに、嫌な予感というは当たるものですね……」
「嫌な予感って?」
「コタロー達を攫った黒幕が貴族である可能性ですよ。昨日もコタローは一度攫われかけていますし、昨日の犯人も黒髪の子供を狙っていました。犯人は余程黒髪の子供にご執心のようですね」

 ああ、そう言われてみればそうだったな。昨日ルーファウスは人攫いが暇を持て余した貴族なのではないかという所まで言及していたのだ、それは悪い意味で大正解だったという事だ。

「でも今回の犯人の目的は聖剣だろう?」
「だったらその剣だけを奪って逃げれば良かったでしょう? 何ならコタローは既に聖剣の所有者ですらないのです、確かに聖剣の持ち主が黒髪の子供であるという情報は流れていましたけれど、聖剣だけが目的なのであれば犯人は剣だけを奪って逃げれば良かったとは思いませんか?」
「まぁ、でも誘拐目的もあったらしいし……」
「あの二人では間違っても金持ちの子息になんて見えませんよ。私だったらどうせ攫うなら聖女様を攫います、あの二人は見るからに高級そうな衣服を身に纏っていましたからね」

 確かに言われてしまうとその通りかと、僕も二人の誘拐に疑問持つ。

『ねぇ、タケル、まだ休憩?』
「あ、ううん、行くよ! どっち?」
『あっち~』

 僕達が再びライムを追いかけると、ライムは一軒の大きく立派な屋敷の前で『ここ~』と門扉の前でぴょんぴょんと飛び跳ねた。
 その屋敷は建物時代は少し年季が入っていそうな風格を醸し出しているのだが、それは決して劣化しているという訳ではなく、庭も屋敷自体もよく手入れされているように見えた。けれど、その屋敷を見上げた瞬間、ルーファウスは大きく大きく溜息を吐く。

「はぁ……考えうる中でも一番嫌な予感が的中してしまいそうなのですか……」
「なに? 何の?」
「ここ、うちの別荘で父の別邸ですよ……」

 ルーファウスの父親……確かアルバート総務大臣? だったっけ?

「お? まさかとは思うが、人攫いはお前の親父さんって事か?」
「考えたくはありませんけれど……流石に実行犯ではないと思いますが、コタローがここに囚われていると言うのであれば、その指示を出したのは父で間違いないでしょう。コタローに刻まれた紋印を見た時点で薄々嫌な予感はしていたのですよ」

 ルーファウスは苦虫を嚙み潰したような表情だ。できれば関わりたくないという感情がその表情からは滲みだしている。

「でもまぁ、ここがお前ん家の別荘だって言うなら、侵入するのも訳ないだろう。さっさと行こうぜ」

 そう言ってアランが門扉に手をかけると、ルーファウスは小さく首を振る。

「確かに私はこの屋敷の見取り図を全て把握はしてますけど、同時にセキュリティの高さも熟知しております。アラン、その門を許可もなく通り抜けようとすると問答無用で丸焦げになりますよ。ついでにこんがり焼けた所で庭に放たれた使役獣に美味しく食されてしまうでしょうね」

 ルーファウスがそう言いながら小石を門の向こう側へと投げ入れると、門扉の脇から物凄い勢いで炎が吹きだした。なにこれ、怖い。
 アランもその炎を見やってそっと門扉にかけた手を放し「なんだよ、だったらどうやって中へ入れと……」と、溜息を吐いた。

「この屋敷の中へ安全に入るためには正式に招かれるか、もしくは転移で直接乗り込むかですよ。ホーリーウッド家の者はほとんどが時空魔法を操れますので、門なんてものは客人を招くためだけのお飾りです」

 門がお飾りって、何というか斬新な家の造りだな。でも、それだけ厳重に護りを固めているのであればセキュリティ面は盤石と言ってもいいのかもしれない。少なくともちんけなコソ泥では絶対に侵入などできはしないだろう。

「じゃあ、お前の転移魔法でちゃちゃっと中へ入ろうぜ」
「そちらに関しても簡単に侵入できるほどセキュリティは甘くはありません。屋敷の中へ転移できる部屋は決まっているのですが、その転移魔法陣にはセキュリティコードが組み込まれています、そのコードは週一で変更されており、私は現在のセキュリティコードを知りません」
「……お手上げ?」
「ですね。そのセキュリティコードが分かれば打つ手もあるのですけれど」

 セキュリティコードかぁ……そんなのどうやっても入手できなさそうだし、どうしたものか。二人の居場所が分かったのに助ける手立てがないというのはどうにも歯がゆい。

『タケルぅ、助けに行かないの?』

 ライムが門の前から動かない僕達を見やり伸び縮みを繰り返し、ソワソワしている。

「行きたいけど行けないんだよ、なんだかこのお屋敷には罠がいっぱいあるみたいでね」
『罠ってな~に? 美味しいの?』
「美味しくはないかなぁ……ねぇルーファウス、そのセキュリティコードってどうやって管理されているんですか?」
「転移魔法陣が毎週自動的に書き変わるようになっているのですよ、その文字列はランダムで、必要であれば管理者が連絡を寄越すシステムです。管理者からそのセキュリティコードを奪うか、もしくは転移魔法陣を見る事ができれば良いのですが……」
『魔法陣あるよ~』
「え?」
『おうちの探検してたんだって、それでね、魔法陣あるって』
「ええ? ちょっとライム何の話??」

 突然意味不明な事を言い出したライムに僕は戸惑う。

『コタローが部屋から出れないから、どっかから出れないか探してきてって。だから探検』
「あ! もしかして小太郎君に付いてったライムの分裂体!?」
『そう~お部屋でて、階段降りたらなんか丸いグルグルあったって。ボク、丸いグルグルは魔法陣だって知ってるの!』

 偉いでしょ! と言わんばかりに伸び縮みしているライムに最高に癒される。だけど今は癒されている場合ではない。

「それって、どんな魔法陣か分かる!?」
『うんとね、白くて、なんか文字いっぱい!』

 あ~……さすがにライムにそれ以上の情報を期待するのは無理かぁ……

「タケル、ライムが何か見付けたのですか?」
「はい、ライムの分裂体が転移魔法陣を見付けたみたいです。ただ、ライムは文字が読めないので断定はできないですけど」
「なるほど……タケル、ひとつ試して欲しい事があるのですが、いいですか?」
「? なんでしょう?」
「従魔師のスキルの中に従魔との感覚共有というのがあると思うのです、それを試す事はできますか?」
「感覚共有……?」

 それはライムと自分の感覚を共有するという事か? 従魔師スキルは持っているだけでほぼ活用していない僕は、従魔師にはそんなスキルもあったのかと従魔師らしからぬ感想を抱く。
 いや、だって、僕は一応魔術師だし? 従魔師は副業みたいなものだからさ。

「ライム、感覚共有ってできる?」
『できるよ~』

 ライムを抱き上げそう尋ねると、ライムの返事はあっさりとしたもので、その返答と同時に僕の目の前に半透明の僕が現れて僕は思わずライムをその場に落としてしまった。
 それと同時に目の前の半透明な僕の顔は視界から消え去り、そのまま落下しぽふんとバウンドした。現在僕の目の前にあるのは半透明な僕の足だ。

『タケル~なんで落とすの~?』
「あ、ごめん!」

 ライムに謝りつつも、僕は自分の視界のおかしさにフラフラしてしまう。自分の見ている世界と、ライムの見ている世界が中途半端に融合していて、しかもライムがぴょんぴょんと跳ねるたびに視界も上下するものだから、まるで船酔いのような状態で気持ちが悪い。

「タケル、大丈夫ですか?」
「たぶん感覚共有できましたけど、これ、ちょっと長くは続けられないかも……」


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