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第四章
一夜明け
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話し合いを終えた僕達は馬車の荷台の中で皆で雑魚寝だ。人数が一人増えたので、少し手狭にはなったものの、なんとか寝れない事はない。
小太郎はアランが運んでくれたのだけど、その間も彼は一度も目覚める事はなかった。本当に相当疲れていたのだろう。
いつもの通りにルーファウスが結界を張り、その外側にはスライム結界。オロチは夜間の間は自分の寝床に戻って寝ている。やはり亜人の姿のままで寝るのは窮屈で嫌なんだって。その割には馬車で昼寝はしてるんだけどね。
そして何事もなく翌朝、スライム結界の周りを確認していたアランが「ふむ」と一言、辺りを見回した。
「? アラン、どうかした?」
「僅かに何者かの匂いが残っているな。昨夜のうちにこの辺りをうろついていた奴が居たんだと思うが、足跡が全く残っていないのは不自然だと思ってな」
「え……」
「タケル、ライムに確認できるか?」
僕は、夜間任務を終えてお昼寝タイムのライムを悪いなと思いつつ揺り起こす。スライムの複合体であるライムには基本的に睡眠は必要ないらしいのだけど、やはり休息は必要だからね。
「ライム、昨日の晩ってもしかして近くに誰か居た?」
『ん~いたよ。ボクのことぷにぷにして帰っちゃったけど』
なるほど、特に害意がある感じでは無かったって事かな。僕がライムの言葉をそのまま伝えると、アランはもう一度「ふむ」と腕を組んで考え込むような素振りを見せたが、そのうち「まぁ、いっか」と笑みを見せた。
「もし子悪党だとしても、スライム結界をどうにかできる輩じゃなさそうだしな、ほっとくか」
ライムのスライム結界は強力だ。例え結界の外で大暴れするタイプの魔物が現れても内側に居る僕達に危害が加わった事は今まで一度もない。それどころか遮音がばっちりすぎて気付けた事すらない。
時折ライムが明け方に『おいしかった~』なんて満足気にしている事があっても、何があったか分からない程度にスライム結界は鉄壁の防御なので、よほどの事がない限り放っておいて大丈夫だとアランも判断したのだろう。
「何かありましたか?」
「いや、問題ない。それよりも今日は街まで行くんだろ、昨日の坊主は? それにロイドの姿も見えないようだが」
うちのパーティーメンバーの中で一番起きるのが遅いのはアランだ。そして逆に一番朝に強いのがロイドである。朝からがっつり食べたい系のロイドは起きてすぐに「鍛錬も兼ねてちょっとその辺で狩ってくる」と、行ってしまった。
昨晩のうちにほとんどの食材を出し尽くしてしまったから、食べられる物があまり残ってなかったんだよね、申し訳ない。
僕は昨晩の残り物のスープに米を投入し簡単な粥のようなものを作っていて、ルーファウスは相変らずのんびりティータイムだ。
「ロイド君は朝食を狩りに、小太郎君はお花を摘みに行ったよ」
花摘み、それはもちろん隠語である。単刀直入に言ってしまえばトイレタイムだ。とはいえこんな場所にトイレなどあるはずもなく、一般的にはその辺に穴を掘ってする感じ。最後に洗浄魔法をかけておくのがマナーかな。そうしておけば微生物の分解速度があがるらしいよ。
あれ? そういえば、小太郎は洗浄魔法を使えるのだろうか? 今までだってずっと一人で魔法の概念すら分からずに生活してたって言ってたのに、その辺の事を知ってる訳ないよな。今度ちゃんと教えておかないと……
そんな事を考えながらコトコトと粥の煮えた鍋を掻き回していたら、ロイドが小太郎の腕を引っ張るようにして僕達の所へと戻ってきた。ロイドの片手にはホーンラビットが二羽、そしてもう片手は小太郎の手を引いている。
ロイドに引っ張られるようにして返ってきた小太郎は何故か半泣きの表情だ。
「え? あれ? ロイド君、何かあった? 小太郎君、大丈夫?」
「大丈夫、特に問題はない。俺はこいつを捌いてくるから、後は任せた」
ロイドはホーンラビットを掲げそう言い切ると僕の前に小太郎を置いて踵を返した。その姿はどこか慌てているようにも見えて、僕は首を傾げる。
「ううう、タケルさん。ボクはもうこの世界でまともに生活できる気がしません」
「え? なに? どうしたの? 何があったの??」
たかだか用を足しに行っただけで、なんでこんな悲観的な事になっているのかさっぱり分からない僕は戸惑いを隠せない。
完全に落ち込みモードの小太郎を座らせて話を聞くと、どうやら小太郎が用を足している目の前にホーンラビットが飛び出してきたらしい。可愛らしいウサギのような見た目のホーンラビットだが実は肉食で結構凶暴だ。こちらから手を出さなければ襲われる事もないのだが、まさか肉食だとは思ってもいなかった小太郎はついホーンラビットに手を伸ばしてしまったのだそうだ。そして牙を剥かれて転がったらしい。それも自分の排泄物の上に。
まぁ、それだけでも充分悲惨なのだが、まだ用を足している途中だった彼の悲鳴に気付いたロイドが目の前に現れて、醜態・痴態諸々見られた事も彼的には相当ショックだったようで小太郎の落ち込みようは半端ない。
ロイドが一通りの洗浄魔法をかけてくれてあったので彼に汚れている所はなかったし、怪我のひとつもしていないようだけど「もうダメだ、ボクなんか生きてる価値もない……」と、完全に膝を抱えてしまった彼に僕はかける言葉もない。
「小太郎君、失敗は誰にでもあるものだし、僕だってこの世界に来た当初は同じような失敗をいくつもしたよ。そんなに落ち込まなくても大丈夫だから、ご飯食べよう、ね」
「ううう、こんな時でも普通に腹が減る成長期の自分の体が憎い」
小太郎の腹が粥の匂いに反応したものか、ぐぅと間抜けな音を鳴らす。いやいや、健康的でいい事だよ。
血抜きをした上で捌いたホーンラビットの肉をロイドが串焼きにして香辛料だけ振りかけてこんがり焼いている。
朝からお肉は僕的にはちょっと重いと思うのだけど、ロイドは無言で「ん」と小太郎の前にそれを差し出した。それを遠慮がちに受け取った小太郎がそれに口をつけると、ロイドも肉に齧り付く。二人とも同世代の少年だからどこか通じる部分もあるのだろうな。
僕も見た目年齢的には同世代なんだけど、なにせ中身はアランやルーファウスに近いので如何ともしがたい。
「お粥もお食べ」
まるで餌付けでもするように粥を差し出すと、小太郎はそれも受け取り綺麗に完食した。よしよし、いい子だ。お腹が膨れればきっと気持ちも上向くさ。
「さぁ、食べ終わったら出発するぞ」
アランに声をかけられて、僕達は慌てて食事の片付け。何故だか仲間が増えてしまったけど、いよいよリブルに到着です。
小太郎はアランが運んでくれたのだけど、その間も彼は一度も目覚める事はなかった。本当に相当疲れていたのだろう。
いつもの通りにルーファウスが結界を張り、その外側にはスライム結界。オロチは夜間の間は自分の寝床に戻って寝ている。やはり亜人の姿のままで寝るのは窮屈で嫌なんだって。その割には馬車で昼寝はしてるんだけどね。
そして何事もなく翌朝、スライム結界の周りを確認していたアランが「ふむ」と一言、辺りを見回した。
「? アラン、どうかした?」
「僅かに何者かの匂いが残っているな。昨夜のうちにこの辺りをうろついていた奴が居たんだと思うが、足跡が全く残っていないのは不自然だと思ってな」
「え……」
「タケル、ライムに確認できるか?」
僕は、夜間任務を終えてお昼寝タイムのライムを悪いなと思いつつ揺り起こす。スライムの複合体であるライムには基本的に睡眠は必要ないらしいのだけど、やはり休息は必要だからね。
「ライム、昨日の晩ってもしかして近くに誰か居た?」
『ん~いたよ。ボクのことぷにぷにして帰っちゃったけど』
なるほど、特に害意がある感じでは無かったって事かな。僕がライムの言葉をそのまま伝えると、アランはもう一度「ふむ」と腕を組んで考え込むような素振りを見せたが、そのうち「まぁ、いっか」と笑みを見せた。
「もし子悪党だとしても、スライム結界をどうにかできる輩じゃなさそうだしな、ほっとくか」
ライムのスライム結界は強力だ。例え結界の外で大暴れするタイプの魔物が現れても内側に居る僕達に危害が加わった事は今まで一度もない。それどころか遮音がばっちりすぎて気付けた事すらない。
時折ライムが明け方に『おいしかった~』なんて満足気にしている事があっても、何があったか分からない程度にスライム結界は鉄壁の防御なので、よほどの事がない限り放っておいて大丈夫だとアランも判断したのだろう。
「何かありましたか?」
「いや、問題ない。それよりも今日は街まで行くんだろ、昨日の坊主は? それにロイドの姿も見えないようだが」
うちのパーティーメンバーの中で一番起きるのが遅いのはアランだ。そして逆に一番朝に強いのがロイドである。朝からがっつり食べたい系のロイドは起きてすぐに「鍛錬も兼ねてちょっとその辺で狩ってくる」と、行ってしまった。
昨晩のうちにほとんどの食材を出し尽くしてしまったから、食べられる物があまり残ってなかったんだよね、申し訳ない。
僕は昨晩の残り物のスープに米を投入し簡単な粥のようなものを作っていて、ルーファウスは相変らずのんびりティータイムだ。
「ロイド君は朝食を狩りに、小太郎君はお花を摘みに行ったよ」
花摘み、それはもちろん隠語である。単刀直入に言ってしまえばトイレタイムだ。とはいえこんな場所にトイレなどあるはずもなく、一般的にはその辺に穴を掘ってする感じ。最後に洗浄魔法をかけておくのがマナーかな。そうしておけば微生物の分解速度があがるらしいよ。
あれ? そういえば、小太郎は洗浄魔法を使えるのだろうか? 今までだってずっと一人で魔法の概念すら分からずに生活してたって言ってたのに、その辺の事を知ってる訳ないよな。今度ちゃんと教えておかないと……
そんな事を考えながらコトコトと粥の煮えた鍋を掻き回していたら、ロイドが小太郎の腕を引っ張るようにして僕達の所へと戻ってきた。ロイドの片手にはホーンラビットが二羽、そしてもう片手は小太郎の手を引いている。
ロイドに引っ張られるようにして返ってきた小太郎は何故か半泣きの表情だ。
「え? あれ? ロイド君、何かあった? 小太郎君、大丈夫?」
「大丈夫、特に問題はない。俺はこいつを捌いてくるから、後は任せた」
ロイドはホーンラビットを掲げそう言い切ると僕の前に小太郎を置いて踵を返した。その姿はどこか慌てているようにも見えて、僕は首を傾げる。
「ううう、タケルさん。ボクはもうこの世界でまともに生活できる気がしません」
「え? なに? どうしたの? 何があったの??」
たかだか用を足しに行っただけで、なんでこんな悲観的な事になっているのかさっぱり分からない僕は戸惑いを隠せない。
完全に落ち込みモードの小太郎を座らせて話を聞くと、どうやら小太郎が用を足している目の前にホーンラビットが飛び出してきたらしい。可愛らしいウサギのような見た目のホーンラビットだが実は肉食で結構凶暴だ。こちらから手を出さなければ襲われる事もないのだが、まさか肉食だとは思ってもいなかった小太郎はついホーンラビットに手を伸ばしてしまったのだそうだ。そして牙を剥かれて転がったらしい。それも自分の排泄物の上に。
まぁ、それだけでも充分悲惨なのだが、まだ用を足している途中だった彼の悲鳴に気付いたロイドが目の前に現れて、醜態・痴態諸々見られた事も彼的には相当ショックだったようで小太郎の落ち込みようは半端ない。
ロイドが一通りの洗浄魔法をかけてくれてあったので彼に汚れている所はなかったし、怪我のひとつもしていないようだけど「もうダメだ、ボクなんか生きてる価値もない……」と、完全に膝を抱えてしまった彼に僕はかける言葉もない。
「小太郎君、失敗は誰にでもあるものだし、僕だってこの世界に来た当初は同じような失敗をいくつもしたよ。そんなに落ち込まなくても大丈夫だから、ご飯食べよう、ね」
「ううう、こんな時でも普通に腹が減る成長期の自分の体が憎い」
小太郎の腹が粥の匂いに反応したものか、ぐぅと間抜けな音を鳴らす。いやいや、健康的でいい事だよ。
血抜きをした上で捌いたホーンラビットの肉をロイドが串焼きにして香辛料だけ振りかけてこんがり焼いている。
朝からお肉は僕的にはちょっと重いと思うのだけど、ロイドは無言で「ん」と小太郎の前にそれを差し出した。それを遠慮がちに受け取った小太郎がそれに口をつけると、ロイドも肉に齧り付く。二人とも同世代の少年だからどこか通じる部分もあるのだろうな。
僕も見た目年齢的には同世代なんだけど、なにせ中身はアランやルーファウスに近いので如何ともしがたい。
「お粥もお食べ」
まるで餌付けでもするように粥を差し出すと、小太郎はそれも受け取り綺麗に完食した。よしよし、いい子だ。お腹が膨れればきっと気持ちも上向くさ。
「さぁ、食べ終わったら出発するぞ」
アランに声をかけられて、僕達は慌てて食事の片付け。何故だか仲間が増えてしまったけど、いよいよリブルに到着です。
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